第5話 アリアステレサ
「あれがアリアステレサです!」
両者は固まっている。勇者は訪れたことがなく、魔王は支配したことのない場所。アリアステレサという聞いたことのない名前でも混乱したというのに。
リルトのご厚意で一周アリアステレサをぐるりと飛んで回った両者。アリアステレサはかなり栄えている国でいくつもの店があり、人口密度も高い。エルフ、そして主に人が多かった。イメージであればヨーロッパ風である。
そして両者はリルトが働くという仕事場へとたどり着いた。大きな羽音を鳴らしグリフォンは降り立つ。リルトのいう仕事場はクリーム色の建物で、かなり目立つ大きな羽根の形の装飾がされていた。
「ここが僕の仕事場・
* * * * *
リルトが大きな扉を小さい身体で開ける。手伝おうとしたクレイであったが、兎のように跳ねるリルトに心癒されていた。魔王は魔王でグリフォンを触ったりと自由行動である。
「ただいま~」
リルトの声が建物内で響き渡る。そしてなかにいたのは
『おかえりなさーーい!!』
リルトと同じ小さい鳥人の子供たちであった。皆鳥の頭である。またもや愕然としていると雀の頭をした子供がクレイに近付いてきた。
「リルトー。このひと、だあれ?」
きょとんと首を傾げる姿がなんとも可愛い。そんな子をみて何人もの鳥の頭をした子供たちが集まってくる。ここが天国であったのか、と今まさに天に登りそうなクレイに魔王は『変質者か貴様』と引いたのは黙っておこう。
「その人たちはオークの縄張りのところであったんだ。道に迷ったみたい」
「ええー! 大丈夫だった?」
「怪我してない?」
「大変だったねえ」
リルトの言葉を聞いてからいろんなところから心配の声が聞こえてくる。ここには優しい天使ばかりである。
『なんだこの地獄絵図は……』
クレイが振り向くとそこにたくさんの鳥人の子供達にしがみつかれている魔王がいた。なんとも愉快な光景である。しがみついている子供達はキャッキャッと楽しそうにはしゃいでいる。
「あ、所長!」
リルトが声をあげた先にその子はいた。多くの書類が置かれた巨大なキノコようなクッションの上に片手には判子、片手には何かの紙を持った鳥人の子供、いや赤ん坊がいた。短い両手をパタパタと上下に揺らしている。リルトはその近くまでいくととある資料を渡していた。
「あ、あの赤ん坊が所長……!?」
クレイはあんぐりと口をあけている。あいた口が塞がらないとはこういうことであろう。
「チュンチュン!チュチュン!」
「はい! 終わりました」
「チュチュン、チュチュ!」
「明日は朝7時で、クルロさんの家です」
「チュンチュチュ」
「いえ、とくに問題はなかったですよ!」
『なぜ会話が成立しているんだ……』
何人もの子供達にしがみつかれ、そろそろ魔王にも疲れが見えてきた。まあ、魔王が子供に慣れているわけがない。
「チュンチュチュチュン?」
「この二人はオークの縄張りで会ったんです、これからアリアステレサを案内しようと思っているのですけど……」
「チュチュ?」
「今日の仕事はさっきので終わりです!」
「チュンチュゥ」
ならいいよ、ということであろう。短い両手で大きく丸を作っている。いや、手が届いていないためほとんど万歳をしている状態である。
「ありがとうございます!」
リルトはペコリとお辞儀をするとこちらへ戻ってきた。クレイを見上げ、所長から許可がおりたのを伝える。
「それでは準備をするので外で待っていてください」
そういって奥のスタッフルームらしき扉の方へといってしまった。
『こらっ、掴むな! この愚か者が!』
いまだに少年少女の相手をしている魔王は放っておいてクレイはエアリアルの外へとでた。
それから数分経ち、リルトがエアリアルからでてきた。先にでていたクレイはグリフォンと戯れながら待っていた。今まで敵として合間見えていたためなかなかこういう体験はなかったのである。魔王も子供達のせいでぐしゃぐしゃになったローブをととのえていた。
「お待たせしました、それではいきましょう!」
そういってリルトに続いて両者はアリアステレサを回ることになった。
アリアステレサはかなり栄えていて人口が多かった。すれ違う人々の顔にも幸せが浮かんでいる。やはりケイロス国とはかなり印象は変わっており、見たことのない果物や花が売られていた。それになかには武装をした若者の姿もいた。その様子にクレイが疑問に思っているとリルトが立ち止まる。
「ここは宿ギルドです」
そういってリルトが指さした方向には木造でできたエアリアルよりも大きな建物があった。窓がいくつもあり、かなりの部屋があるようだった。扉の外やその奥には多くのパーティが黄色い紙に書いてある依頼書のようなものを読んでいる。
「ここは宿屋とギルドが合体してるんです。それに色んな設備も完備されていてこの町を拠点にしている人の多くが利用していますよ」
「私たちも世話になるかもしれないな」
ギルドパーティーが通っているのなら、様々な情報が手にはいるかもしれないとクレイは考えていた。
『こんな豚小屋のような場所、我が住むわけ……』
「なら貴様だけ野宿でもしてろ」
言いあいをしながらもリルトの話を聞いていた二人、何ヵ所か回ったあと最後に訪れたのは
「ここがこの国最大の図書館です」
先ほどまでの建物とは比べ物にならないくらい、巨大な建築物がそこに存在していた。その建築物はコの字の形をしており、その間にはかなり大きい庭園があった。何人かの人が庭園にあるベンチや草の上で本を読んでいた。
『……我の魔王城の方が立派である』
小声で巨大図書館に反抗する魔王。強く生きろ。
「ここに贈呈されている本の数はこの国最大でこの図書館自体も国が管理しているんですよ! 」
嘴をあげて笑うリルトにクレイは感嘆の声を上げた。
「それではこれで案内は終わりですが、何か聞きたいことはありますか?」
「いや、特にない。だがすごいな、リルトは」
「へ?」
「まだ幼いというのにお父さんやお母さんの手伝いをしているのだろう?先ほどの子供たちもそうだが大人がいないのにとてもしっかりしていた。誇れることだと思うぞ」
『多少うるさかったがな』
「少し貴様黙っていろ」
せっかくの場の空気を濁した魔王を黙らせようとしたのだが。
「ふふふっ」
リルトが突然笑いだした。いきなりのことで驚くクレイ。
「ど、どうした?」
「あ、いえすみません。それもご存知なかったんですね」
馬鹿にしたような口ぶりではなく、純粋におかしかったらしい。
「確かに僕は子供のような姿をしていますが……」
笑いすぎてでた涙をふいてリルトは口にした。
「僕、21歳ですよ」
そのときの両者の驚きはお察しください。
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