第4話 鳥人の子
豊穣と黄金の国・ケイロス国からとある不気味な腕によって見知らぬ土地に飛ばされた勇者クレイ・ヨルムンガンドと魔王バルゴネス・ヘルヘイム・グリモアロード。見知らぬ土地にて目が覚め気付けば両者は力を半分以上奪われた状態であり、再生能力がついてしまっていた。そんな状態で殺し合いができるわけもない。仕方なく両者は同盟を組むことにした。ケイロス国に帰還できる手掛かりを見つけるまでの関係である。協力関係などではない。どちらも不幸に見舞われているだけのただの勇者と魔王であった。しかし二度あることは三度あるというように不幸は続き……
『もしやここはオークの縄張りであったか』
「そうじゃなければこんなに出てくるわけないだろう!」
クレイと魔王は乱闘中であった。しかも相手は20体以上のオークである。同盟を組んだということで善は急げ、早速森を歩いてみればオークがわんさか登場。即効で戦闘へと入ってしまった。先ほどのオークのように1体であったらまだしもそこから数は増えていき、とうとう30体以上にまで増えた。通常の両者であるならば流れるように戦闘を終わらせることができるだろう。だが今は違う。
力を奪われ、最悪なコンディションのせいで1体であるなら数秒で倒せるのを数分もかけてやっと息の根を止められたのだ。何体ものオークとの戦いで身体はボロボ………いや有能な再生能力によってすり傷一つも残っていない。
「……これに頼っているみたいで嫌なのだが……」
悔しそうに剣を持つ力を強めるクレイに対して魔王は便利だ便利だと言って内心嬉しそうにオーク戦で苦戦している。オークは倒せば倒すほどどんどん森の中から出現してくる。何体倒しても数が変わらなかった。
『きりがないな、全く……』
そろそろ戦闘に飽きてきた魔王がぽつりと呟く。そもそも魔王はいつでもどこでも戦いを繰り広げるわけではない。手下である魔物が騒いで大抵はそいつらと勇者一行が戦う。魔王は魔王らしく最後の敵らしく魔王城で偉そうに座って勇者一行がくるのを待っている。そのため魔王の性格からみて戦場になれていなかった。そんな魔王が長時間もオークの相手をできるわけがない。
「確かに、これでは先には進めないな」
何体目かになるオークを倒したあと剣についた血を振り払うクレイ。魔王の意見に肯定するのもオークとの戦闘のせいであろう。時間もかなり経っているというのにまだ二足歩行の豚の相手をするのはやはり疲れが出てくるのだ。だんだんとオークの群れは両者に近付いてくる。はたからみたら絶体絶命。協力する気のない両者に打開策はあるのだろうか。いや、ないだろうな。死を前提にしてクレイはオークの群れに飛び込もうとした。
「そこの二人、目を閉じて!」
大きな羽音ともに影が両者を覆ったあと幼い子供の声がした。驚きながらもクレイは言われるがままに目を閉じる。カツンと何かが地面にあたったと思ったら目を瞑っていてもわかるほどの目映い光が発せられた。
「グオオォガアアアァァ!!」
オークどもの叫び声が聞こえた瞬間巨大ななにかに身体を抱かれるように掴まれた。足が地面から離れ、叫び声をあげるオークたちがたちまち小さくなっていく。すぐ近くから羽ばたく音が聞こえ、顔をあげると両者を掴んでいるのは獅子と鷲の
「お二人とも、大丈夫ですか!?」
鳥の頭をした子供であった。
* * * * *
「と、り?」
「? はい、鳥です」
嘴の口角をあげ笑う子供に逆に両者は混乱する。鳥の頭をもった人間の身体した少年。見た目では6~7歳ほどであった。ケイロス国には獣人はいたが、鳥人は存在していなかった。グリフォンはいたがそれらは敵でありクレイ自身も戦ったことがある、そして魔王の手下の一体であった。
『グリフォンを手懐けているとは何者だ、
魔王の声から困惑しているのが分かる。
「ところで大丈夫でしたか? オークの群れに囲まれていましたよね?」
心配そうな顔でこちらの顔を伺う子供にクレイはできるだけ優しく微笑み返し、礼を言うと子供はまた嬉しそうに笑った。そんな姿をみてクレイの表情も緩んでくる。クレイには村に残してきた弟がいた。まだこの子供と同じくらいの身長でクレイのあとを追いかけてくるほどクレイのことが好きであった。そんな弟とこの子供が重なってしまったのである。
「すまない、グリフォンのうえにあがってもいいかな?」
「いいですよ、登るとき気を付けてください」
子供に礼を言うために少し苦労しながらもグリフォンの上へと乗ったクレイ。魔王は引き続きグリフォンに掴まれたままである。
「先ほどはありがとう、私はクレイ・ヨルムンガンドという」
『我は魔王バルゴネス・ヘルヘイム・グリモアロードその人である!』
グリフォンに掴まれたままの魔王はまた偉そうに名乗り出す。魔王の
「まおう? ばるご?」
「気にするな、こいつは虚言癖があるだけだ」
勇者は内心余計なことを、と思いながら意識を別の方向へと向けさせる。魔王の『虚言癖とはなんだ!』という声も通常通り無視する。
「えーと、そうなんですね。あ、僕はリルト・エルリットです! 無事で本当によかった!」
またもや満面な笑顔を向けられ、緩みそうになる顔を必死で抑えている。クレイは小さい子に弱かった。
「ところで、さっきのあれはなんだ? 光がいきなりでてきたのだが」
「え、あれは閃光弾ですよ?」
知らないんですか、と言われクレイはまずいと思う。ケイロス国とは違う文化があることを想定しなければならなかった。ここは誤魔化すことしかできない。
「そ、そうだったな、いやすっかり忘れていた。」
頭をかき、ひきつった笑顔しかだせなかったがそうですか、とすぐにリルトが引いてくれたためなんとか流すことができた。
「そういえばあんなところで何をやっていたんです? あそこはオークの縄張りですよ?」
『目が覚めたらあんなところに……』
「み、ち、に! 迷ってしまったんだ」
魔王の言葉を遮るようにクレイは声をはって答える。
「道、ですか?」
「ああ、そうなんだ。気付いたら縄張りに入っていてね」
困ったもんだ、というクレイに言葉を遮られご立腹の魔王。余計なことをいうからである。
「それは大変でしたね。僕は配達でよくここを通るんですが時々迷った人達を乗せてるんです。オークはその、色々あれなんで放っておけなくて」
言葉を濁すリルト。無理もない、オークはかなり性欲が高く犠牲になった者も少なくはない。男女関係なく襲うためケイロス国でも危険視されていた。この地でもそうなのだろう。
「いや、とても立派なことだとも。ところで配達とはなんだい?」
「ふえ? それも知らないんですか?」
またやってしまった、と焦るクレイに気づいたのか魔王は笑っている。グリフォンよ、そいつを握りつぶしてくれと願ったのは言うまでもない。
「私たちはここにくるのははじめてでね、まだ分からないことが多いんだ」
「あーなるほど、そういうことですね。任せてください!」
胸を張るリルト、なんとも愛らしい。魔王と過ごした最悪な時間も忘れてしまいそうである。
『貴様、いま失礼なこと考えなかったか?』
「考えていない、黙ってくれ」
そこからリルトの説明を聞くとなんでも鳥人のほとんどは配達員としてグリフォンに乗って働いているということ。郵便やタクシーとしての役割をはたしているらしい。働き者が多いため何人もの人々に頼りにされているそうでかなり信頼がありそうであった。リルトが言うに小さい身体ながらに頑張っているのだとチップをくれる人もいるそう。
「それで今向かっているのが僕が勤めている仕事場なんです。アリアステレサにあるのでもしもまだ分からないことがあるのであれば図書館に案内しますが?」
「アリアス……? あ、ああ頼むよ」
思わず聞き返しそうになるのを堪える。ここで怪しまれるのはまずい。
「分かりました! あ、あれですよ!」
その声に両者は目を向ける。そこには白くそびえ立つ城を中心に円形に町が広がっていた。赤や青などの鮮やかな色の屋根が集まっており、花束のように見える。見たこともない景色に両者は唖然とする。
「あれがアリアステレサです!」
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