第3話 同盟
「同盟、だと………」
魔王が発した言葉を頭のなかで何度も流しているが一向に理解できない勇者を魔王は面白そうにみていた。
『驚くのも無理はない。だが良い案であるとは思わないか?』
「……なぜ、同盟を貴様と組まなくてはならんのだ……」
頭を抱えながら勇者は質問をした。頭痛でもしているのかと思うほど顔をゆがめている。そんなのお構い無しに魔王は続ける。
『勇者よ、貴様の狙いはなんだ?』
今さらながらの質問を魔王は聞き出す。
「貴様の首をとることだ」
そんな質問に間髪いれずに勇者は答える。
『そうであろう? そんな宿敵と別れたところで貴様になんのメリットがある? もしかしたら我が先に手掛かりを見つけてあの魔王城へと戻ってしまうやもしれんぞ?』
まるで他人事のように言う魔王に勇者は答えるのではなく質問で返した。
「……そう言うのであれば貴様こそ私と共に行動してなんのメリットがある? そんなに死亡願望があるのならば望み通りにしてやったというのに」
勇者は剣の鯉口を爪で弾き、カチャリと音を鳴らす。そんな様子をみて魔王は馬鹿馬鹿しい、と言い放つ。
『死にたくて貴様と行動するわけではない、我々は先ほどオークごときであれほど苦戦していたであろう? ケイロス国の半分も支配していた我があんな魔物に遅れをとったのだ。これ以上ない屈辱である』
よほど腹が立ったのか拳を握りしめている。確かに全ての魔物を統べていた魔王にとって認めることができないことであった。
「…だが、あのときは私一人で戦っていたからな。それに貴様逃げていただろう」
『逃げておらぬ、観察であったと言ったであろう。話を戻すが我々は同盟を組み、共に行動した方が効率がいいと我は思う。この地の秘密と我らの身体に起こったこの不思議な現象の真相が分かるまで協力というままごとでもやってみるのも悪くはないだろう?』
単独であれば確かに動きやすくはなるが力を思う存分発揮できない今見知らぬ土地で行動するのはいくら再生能力があるとしても危険であった。魔物がいると分かった以上戦闘は避けられない。両者とも反吐が出るであろう宿敵との協力をすることをなんと魔王が提案したのだ。そんな魔王をみて勇者は疑いの目で見つめる。
「泡のような魔法を出した貴様と行動しても苦労するのは目に見えているが………」
宿敵が目の前にいるというのにその首を狙うことができない。もし単独で行動させれば魔王を堂々と逃がしていることになる。それに時間がたてば再生能力だけでも解除できるようになるかもしれない。その時までは苦渋の決断であるが、魔王と行動するのが一番の策であった。
魔王も同様の考えであった。今まで何体もの従者どもを葬ってきた勇者をみすみす逃すわけにはいかない。それに勇者が生きていればこれから何度もこちらに攻撃を仕掛けてくるだろう。その事態も避けておきたい。そして魔王の最大の理由は「自分が戦う頻度が少なくなる」である。この魔王は好戦的ではない。魔物が出てくる度に戦うなど面倒くさいにもほどがある、というのが魔王の意見である。もちろん勇者に言うわけがない。
『互いの願望が同盟を組めば叶うかもしれないぞ』
文字通り命を掛けた同盟である。
目的は両者同じ「相手の首をとること」
これからのことを考えれば言うまでもないことである。
「…………分かった、魔王。貴様と同盟を組む」
『ほう……』
「だが勘違いをするな、同盟は組むが協力関係ではない。私は私の目的を達成させるために貴様と組むのだ」
『ああ、分かっておる。我も同じであるからな』
にやりと魔王は笑ったあと勇者に手を差し出す。どういうつもりでしたのか分からないが、その手を勇者は見つめたあと腕を組み魔王を睨み付ける。
「私が握手をするのは仲間と認めたものだけだ、貴様とは死んでもやらん」
『なんだ、つまらん』
まあいい、と言うようにフンと鼻を鳴らした音がする。どこに鼻があるのだろう。
『名だけでも名乗れ、呼ぶつもりはないがな』
「貴様に呼ばれるなど虫酸が走る」
そう言いながらもため息をつき、自らの名を名乗る。
「クレイ・ヨルムンガンドだ、その頭にしっかり叩き込んでおけ」
いつか魔王の首を討ち取るであろう勇者クレイ・ヨルムンガンドが魔王を指差す。
『我こそが大いなる死の皇帝、バルゴネス・ヘルヘイム・グリモアロードだ』
今更ながら偉そうに名乗り出る魔王。
そんな両者を祝福するかのように自然の音は鳴り響き出した。
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