第13話 仲良さげな二組

「あー、その、自己紹介ついでに聞いておきたいんだが……」

全員がお互いに名前を明かしあったところで、源はこちらを向いて真顔で口を開いた。

「えっと、あんたって男か?それとも女?」

自棄に真剣に聞いてくるのでどんなことを言うのかと思っていたら……。

「あっ、いや、別にふざけているとかじゃなくてだなっ。髪長いし初めは女だと思ってたんだけど、一人称は俺だし分からなくなって。」

あたふたして取り繕うかのように言葉を紡ぎ続ける。

「怒ったか?いや、性別について触れられて不機嫌にならない奴なんていないよな……。」

「別に、怒ってない。性別は男だが、分からないのも無理はないと思う。声変わりもしてないし、俺くらいの歳ごろの子供は顔でも判別しにくいしな。」

それに加えて、この髪の長さ。

遠目から見たら女の子だと思われる自覚はある。

源(げん)の顔を見ると、穏便に性別を聞き出せたことからか、安心した顔つきであった。

「はー、よかったー。話すまでは本当に女だと思ってたんだぜ。さっきも言った通り、長髪だからってのもあるが、もう一つ、いくら子供の顔つきが男女差少ないと言っても男っぽいとかはあるだろ?あんたの場合、ちょっと女性よりだと思うんだよ。」

その安心感からか、いきなり調子に乗り始めた。

「性別を間違えるのは別に気にならないんだが、知った上で女の子っぽいとか言われて許せるほど俺は優しくない。」

「あっ……。悪い。謝るから機嫌なおしてくれよ。ごめんて。」

そっぽを向いて、不機嫌を露わにしたとたん、また源は焦ったような口調に変わる。

そんな彼に内心あきれながら夜月は不機嫌なふりを続ける。

「ふふ、ほんとう今日はじめて話したとは思えないくらい仲がいいのね。」

「うーん、どうなんでしょうね。まだ、仲がいいとは言えないと思うんですよね。」

彼がそんなことをいうとはちょっと意外だ。

仲の良さを言及されたらすぐさま肯定するような奴だと思っていた。

出会って初日ではこんなもの。

どんな奴なのか分かってなくて当然か。

「ちなみに、試練まで、あと数時間どう過ごすつもりなのかな?」

「俺は、もうしばらく施設を回って、その後は部屋に戻って備えようと思います。」

ルヒエヤルの問いの答えは、源に会う前に考えていた予定と同じだ。

予定は狂ったが、施設巡りの時間を減らせばいい。

念の為の休む時間を削るのは避けた方がいいだろう。

どうせ、昨日回ったところをもう一度見るだけだったのだ。

全くもって問題はない。

「うーん、俺は……」

源は、悩む素振りを見せた後、チラッと視線を一瞬こちらに動かした。

そして元気よく宣言する。

「休むって言うまでこの人について行くことにします!」

「って言ってるけどいいのかい?夜月くん。」

嫌な顔とはいかないものの、夜月は眉を顰めながら答える。

「別に構わない、ですけど……。」

一緒にいて行動に支障がでるということはないし、試練中のことを考えるとお互いのことを知っておくのは大切だろう。

断る必要はないと思いながらも、静かに過ごすことは出来ないに違いないため、歓迎はしたくないというのが夜月の本心である。

「ストーカー……」

「本人公認のストーカーは、もう、ストーカーではないわね。」

ボソリと呟いた嫌味を込めた言葉は、シュリエルの正論によって簡単に跳ね返されてしまった。

一つ大きく息を吐く。

許可したくせに、なにため息をついているのかと周りの4人は思っているかもしれないと夜月は思う。

「それでは、次こそ失礼します。ありがとうございました。」

「あっ、ちょっ、えっと、失礼しました!」

一足先に動き出した夜月に続いて、源も部屋から1歩外に踏み出す。

「じゃあ。」

「明日、頑張ってね。」

「また、縁があればお会いしましょう。」

動かす扉の隙間から、部屋に残った3人が手を振って見送ってくれているのが見える。



ガチャり。

それが閉まりきると、何も言わずに、ただ歩を進め始めた。

そして、源は宣言通り、夜月に着いていくかたちで、1歩後ろに下がった位置を歩いている。

相談室に行く時に通った道を、今度は逆戻りしていく。

視界に映るのは、見覚えのある道。

といっても、この建物全体を通して同じ造りであるため、どの道を歩いていても既視感は感じるのだろうが。




「ねえ、シュリー。個人の判断で情報を渡すかどうかを決めるのは禁止されてるって分かってるよね?」

二人が見えなくなるのを確認すると、フルールは視線は扉に向けたまま後方の人物に向けて口を開く。

「公正な進行のために、公平な情報提供を行うというのは、私たち<試練の管理者>の決まりでしょ?」

黙ったままのシュリエルもまた、首を動かさず、前を向いていた。

ただ1人ルヒエヤルのみが頭を回転させて、心配そうな困ったような面持ちで二人を見ている。

「それと、あんたが教えなかった理由も、あの少年には必要ないと思ったからじゃないよね?誰かと協力するのを防ぐため、そうでしょ?」

そういうと、フルールは緑髪の彼女の方へと向き直る。

「確かに、彼が突破するためにはいらない情報かもしれない。だから、あんたが危惧したのは彼が誰かを頼ることじゃなくて、誰かが彼を頼ること、違う?」

そう言われてもなお、言葉を発することはなかったが、その何も言い返さないという行動と、小さく吐いた溜息、そして斜め下に向けられた視線が、発言を肯定している。

「どれくらい強いのか僕は知らないけど、彼のことを教えてくれた時にシュリーが強い強い言ってたから、彼が相当の実力者なんだろうね。それなら、その誰かが本当に頼りっきりになってしまう可能性がある。」

フルールに続いて口を開いたのはルヒエヤルだ。

「担当した通過者のことを漏らすのはあまり良くないのではということはこの際置いておいて、……頼りっきりだったら、実力とか強さとか関係なく生き残れるわね。」

「シュリーは、身体的にも精神的にも弱い子が試練を突破してしまって、その結果酷い苦しみを味わうことになるのを恐れたから言わなかったんだよね?」

同じ考えに思い至った二人。

シュリエルの一つの行動から、ここまでその胸の内を予想できるのは、彼らの仲が良いからこそだ。

「ほんと、二人にはお見通しなのね。……誰にも苦しんでほしくない。誰にも後悔して欲しくない。」

ようやく口を開いてそう言った彼女は、辛そうに笑っていた。

「あんたが苦しむ必要はないじゃない……。」

「シュリーは優しすぎるんだよ。他人のことだけじゃなくて、自分のことも労わってあげないとだめだよ。」

シュリエルは下を向いて落ち込んでいるような様子で口を開いた。

「それなら……」

しかし、次の瞬間、彼女の様子は一変して、明るいというような印象を抱かせるようなものに変わり、おどけるように言葉を発した。

「変わりに二人が労ってくれればいいんじゃないかしら!ってな訳で、ルヒエ!来期の私の案内役の仕事、半分あげるわね。」

「ん、え?ちょっと、そういうことを言ってるんじゃなくて」

「じゃあ、よろしくね。」

「いや、やらないよ?!」

先程までの空気感はどこに行ったのか。

その二人の周りに、重い空気は漂ってない。

「まったく、そうやって話を逸らすんだから……。」

それに対してフルールは納得いかないという表情で、まだその雰囲気を漂わせていた。

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