第14話 試練開始の合図は
ガチャ
両開きの扉に手をかけ、前とは逆の出入口から部屋に入る。
大きなこの部屋の中央にどっしりと腰を落ち着かせていた机はなくなっているが、何十人もの人が密集しており、前に来た時よりも窮屈に見える。
「よっ、来たか!」
部屋に足を踏み入れ、扉がしまった時、真横から声がかかった。
押し開けたそれが閉まったことで、見えるようになった扉の裏には源が立っている。
「何でこんな所で待ち伏せてる?」
「それは、まあ、合流できるか心配だったからな。」
「別に人が入ってくる真横に居る必要はないと思う。もう少し奥の方で扉を見ているだけでも十分。」
「……離れた所で見張ってたら、あんたが他の奴らに紛れて隠れて入ってきたときはどうしようもないだろ?」
どうして信用がないのだろうか。
夜月はどんな顔をすればいいのか分からず、複雑な表情を浮かべる。
試練中の協力を提案したのは向こう側だ。
そのような申し出をするには、ある程度の信用は必要なのではないだろうか。
邪魔をされたらたまったものではないのだから。
そして、それを受け入れた側も相手を信用しているものだろう。
他人を簡単に信用することではないとは思うのだが……。
とにかく、信用して声を掛けた相手を信用しないのはどうなのだろうと夜月は思うのだった。
「だってな、あんたが同意してくれたのは、俺を追い返すための一時凌ぎかもしれねえって考えちまったんだよ。それなら、隠れて行動する可能性もあると思うだろ?」
夜月のなんとも言えないような顔を見てか、源はそう考えた理由を話す。
……悪びれた風もなく……。
「お前に目をつけられたら諦めるのがよさそうだな……。」
ガチャ
そんな話をしていたら、後ろから扉が開く音が聞こえる。
忘れかけていたが、ここは入り口の真ん前なのだ。
「……ちょっと移動しようぜ。」
こうして、自分たちが邪魔な位置に立っていることに気づいた彼らは、そそくさとその場から立ち去り、次は先程とは対照的に隅の方に身を寄せることにした。
時計は0時10分を示している。
伝えられていた集合時間までは残り10分ということだ。
それを過ぎれば程なくして試練の開始が告げられることだろう。
10分は待ち時間としては長く感じるものだと思うのだが、今回はあっという間であった。
なぜなら、話が途切れなかったからだ。
こちらがどれだけ素っ気なく短い返事で返しても、源は話題を変えるかなんかして話を繋いでくる。
どこまで続けることができるのか気になるところだが、そういう訳にはいかない。
逆回りする時計の針が0時を示したとき、この室内の上空に1人の天使が姿を現した。
広げている2枚の羽以外に、頭や足を周りから隠している4枚の計6枚の羽を持っている。
「勇気を持って試練に挑まんとするあなた達にお知らせします。試練開始間近になりました。これより、試練内容、注意点の確認を行います。あなた達は、これから……」
その天使は淡々と試練の話を始める。
声はどちらかと言うと男性に近いだろうか。
話していることは、2日前にシュリエルに聞いた事とほとんど同じだ。
改めて聞いてみると、この試練は普段戦いの中に身を置くことがないものにはかなり厳しいと思われる。
まあ、難易度が高くなるのも仕方がないのだろう。
試練を突破して使命を背負うことになったときのことを考えれば、これくらいのことは課されて当然だ。
睡眠や食事の必要がない分、試練はまだ優しいといえる。
「試練内容については以上になります。……では、次の話に移ります。」
一つの話題を話し終えた後、ほとんど間を置かずに次の話題を話し始める。
「ここに訪れた日に、各々の案内役に聞いたと思いますが、望むのであれば開始位置を同じにすることが可能です。」
そう言った後でその天使は指でパチンと音を鳴らす。
すると、足元に光るいくつもの円が突如として現れた。
この光景に辺りには少なからずざわめきが広がっている。
「共に行動すると決めた者と同じ円の中に入っていただけますか?そうすれば、試練会場の同じ位置に転送されます。」
動揺の声は響かせたまま、部屋の中に居る人々は次々に円の中に入って行った。
夜月たち二人もそれに倣って、近くの円の中に、他に誰もいないことを確認して足を踏み入れた。
周りを見回すと、グループによって人数に差があることが分かる。
多いところだと、10数人。
参加者は100人ほどしかいないので、その1割近くが1つに集中していることになる。
「皆、分かれたようですね。」
頭が見えないので定かではないが、おそらく見回したのだろう、人の動きが落ち着いてきた頃、頭上の天使は話を再開した。
「中にはまだここに来て1日2日の人もいますが、その中にも仲間を見つけることができている者もいるようで安心しました。不平等と思う方もおられるかもしれませんが、ご了承いただけますようお願い申し上げます。……それでは、これから転送を開始します。転送が完了した時点で試練の開始となります。健闘を祈ります。」
足元の光が円の内部にまで侵食していく。
「よしっ、頑張ろうぜっ。俺も精一杯フォローするからあんたと2人で突破するぞっ。」
「俺は1人でも大丈夫そうだと聞いた。だから、俺のことは気にしないでいい。自分のことに集中しろ。」
やがてその光は円を越えて広がっていき、夜月達を飲み込んだ。
生きるために受けると決めたのだから、全力で挑もう。
次は、自分の目的だけではなく、守ることも含めて達成しなければならない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます