第9話 暇な時間の過ごし方
「ここが、あなたに割り当てられた部屋です。」
夜月は入口を通って部屋に足を踏み入れる。
中にはベッド、椅子、机、ライトそして時計が置かれており、部屋自体もあまり広くはないが、過ごすには十分なものだった。
「これで、私の、あなたの案内役としての仕事は終わりです。何かありましたら、道中にお話しました相談室までお越しください。それでは失礼しますね。」
そう言うと、シュリエルは部屋の扉を閉めて出ていこうとする。
それに気づいて、急いで声を発する。
「あっ、いろいろとありがとうございました。」
そのお礼の言葉に、微笑んでからシュリエルは姿を消した。
一人になった夜月は、取り敢えずベッドの上に腰を下ろす。
身体が沈む。
それは、とても柔らかい立派なものだった。
椅子や机も貴族が使っているそれのようである。
これは、過ごすには十分を通り過ぎて快適なものだと夜月は感じる。
横になるとさらに心地良い。
魂だけの存在に、睡眠という行為は必要なのかどうかは分からないが、このまま寝てしまいたい。
そう思いながら目を瞑る。
そして、そのままゆっくりと眠りに落ちた。
目が覚めた。
どのくらい眠っていたのだろうか。
そういえば、眠る前に時間を確認していなかった。
自分がどれくらい寝ていたか分からない以上、今が何日目か分からない。
しかし、それはどうやら杞憂であったようだ。
時計を見ると、長針と短針が0時1分を示しているところであった。
そこで夜月はもう一つの針、中くらいの長さのものがもう一つあることに気づいた。
全く進んでいないため、秒針ではない。
その針は長針でいう2分の位置を指していた。
首をかしげて、時計を見続ける。
すると、その中針は1分の位置に動いた。
一方で長針と短針が示すのは、0時00分。
時計が逆に動いている。
「タイマーみたいなものか。」
短針と長針が示すのは残り時間、三つ目の針が示すのは残り日数。
すべての針がまっすぐ上を向いた時が、集合時間ということだろう。
つまり、試練開始まであと2日。
あの天使は、試練があるのは3日後とは言っていたが、明確な時間は言っていなかった。
なるほど、これなら伝える必要はない。
さて、残りの時間はどう過ごそうか。
生前の夜月は、大体の時間は、任務や事前調査、報告などに費やしていた。
それ以外の時間は、転力印の研究をしていたが、ここではできない。
「身体だけじゃなく、持ち物も再現できていたら、時間を有効活用できたのに。」
この部屋に来る途中で、ここにある施設は自由に出入りできると伝えられている。
特に何もすることがないので、いろいろ見て回ることにした。
扉を引いて室内を後にする。
歩いていると、いろんなひとを見かける。
廊下で話をしている者、すれ違う者、同じ方向に進む者さまざまだ。
夜月は、構内図の前で立ち止まる。
フラワーガーデン、カジノ、運動場。
特に行きたいところもないので、とりあえず、一つずつまわることにする。
一番近くにあるのはフラワーガーデンらしい。
用事がないとき以外は外に出ることがなかった夜月には、行ったことがない場所は多い。
自然にできた花畑などを見かけたことはあるが、誰かに手入れされた花いっぱいの庭を見に来るのは初めてだ。
レンガが視界のほとんどを埋め尽くしていたが、ようやくそれも一段落したようだ。
目に入ってきたのは色鮮やかな色たち。
色とりどりの花のアーチを通って庭を散歩する。
花には心を落ち着ける効果でもあるのだろうか。
見ているだけでリラックスできている気がする。
これまでは、意識していなかったがこういうこともたまには必要なのかもしれない。
次に、訪れたのはカジノ。
といっても、ここではお金を持っていても意味はない。
ただ、ゲームを楽しむための空間だ。
それを見ると、思い出す。
コウキはあの後どうしたのだろう。
考えても分かることではない。
自分が死ぬ直前にまたゲームをする約束をした。
先約がある。
可能ならその約束を守って、次するゲームもまたコウキといっしょがいいと思う。
その可能性に期待して、今はやらないでおこう。
カジノは一通り見るだけにして次に進むことにする。
運動場では、例のリングを使って試し打ちだけをしてみる。
他にも、絵を描くスペースや公園のような場所にも足を運んだ。
寝て起きてから大体15時間くらいが経過していた。
あと一つだけまわったら一旦部屋に戻ろう。
そして、足を運んだのは図書館。
部屋に戻っても退屈しないようにしたい。
本を貸し出すこともできないかと思い、部屋に戻る前に図書館に行くことは決めていた。
中に入ってみる。
図書館はあまり大きくはないが、それでも数日で読み終わるような量ではないのは変わらない。
貸出はできるようだった。
長々と選ぶのは避けたい。
本棚に近づき、よくある物語の本を数冊手に取って、図書室を後にする。
特に何もなく戻ることができた。
部屋につくと、手に持つ本を机にどさりと置く。
椅子を引き寄せ座る。
そして、夜月は早速本を読み始めるのであった。
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