第8話 試練に挑む前には
目が眩むような眩しい光に、目を開けていられない。
目を閉じていても分かるその眩しさは、やがて弱まってくる。
ようやく開けるまでの明るさになり、瞼を上げる。
その視界に映ったのは、レンガの壁に覆われた石畳の通路。
長い廊下が前に続いている。
一方で後ろはただの行き止まりになっていた。
一つも窓が見られないこと以外は、特に変わったところもないところだ。
「試練の詳細説明をするので、このままついてきてください。」
首を動かして辺りを見回していた夜(や)月(づき)にシュリエルは声をかける。
一本道の廊下を、コツコツと足音を響かせながら進んでいく。
自分の足にはめられているのは、足を守ってくれそうなかなり立派な靴。
普段、ボロボロの柔らかい靴を履いている夜月には新鮮ではあるが、少々歩きにくいものであった。
足下に意識を向けつつも、辺りの観察は止めない。
長い廊下が続いているので、部屋が並んでいるのだろうかと思ったが、どの壁にも扉はついていない。
特にこの廊下には何もないと思い、真っ直ぐ前に視線を戻す。
変わらない景色を見続けてどれくらい経っただろう。
今歩いている廊下の先に、一つの両開きの扉が姿を現した。
シュリエルが開け放ったその先は、余裕で百人は入れそうな大きな部屋だった。
天井も高い。
レンガの壁と石畳の床は変わらない。
部屋の高い位置には窓がついているが、ガラスを通して見えるのは空の青ではなく、雲のそれよりも澄んだ白。
この外側には、第二審査を受けた場所と同じような空間が広がっているのだろう。
部屋の中央には、大きな机が設置されており、その上にはいくつかのリングと武器が乗っている。
夜月達は、その前まで歩いてきていた。
「どこから話しましょうか。……えっと、ざっくりとした試練内容は先ほど言った通りです。この試練の主宰者である神々はある空間に山や谷、いろんな地形を作り、そこに魔獣に似せた獣を放たれました。一ヶ月に一度行われる試練、それが始まる時にいるすべての通過者が、そこに散りばめられます。そして、そこで試練終了まで過ごし抜くのがあなたの目的です。」
それから、シュリエルはいくつかの補足、注意点を示した。
実体があった場合に、死に至るような状況に陥った者は脱落となること。
魂だけの存在である者は、お腹が空くことはないため、食べ物の心配をする必要はないこと。
試練は神々も見ており、相応しくないと感じた場合は強制退場させることもあるということ。
途中での棄権も認められること。
食事の必要がないのは大変助かる。
三つ目は、つまり、試練中の行動も判断基準になるということだ。
危機に陥ったときこそ本性が現れるということだろうか。
「試練に関しては最後になりますが、試練内で使用する武器と特殊能力を一つずつ選んでもらいます。まず、ほしい武器はありますか?」
「では、短剣を……。」
夜月は、生前使用していて扱いなれている武器を選ぶ。
「分かりました。……どうぞ。」
机の上から短剣を手に取り、渡してくれる。
銀の刃のどこにでもありそうな一般的なものだ。
「次に特殊能力ですが、この机の上においてあるリングをはめることで使用可能になります。誰でも扱えるように、能力自体は単純なものです。どんな能力かはこの紙に書いてあるので読んで選んで下さい。」
そう言って、一枚の紙を手渡してくる。
いろいろあるが、確かに単純なもので、細かい操作などはできないようだ。
回復能力以外は攻撃的な能力であるようだが、直線上を移動など発動後に軌道を変えることができないものばかりだ。
炎の玉を飛ばすものなんか、一直線であるうえに移動速度も遅いようで、それでは遠距離奇襲にも使えない。
そういえばあの領主が使っていた転力印もそんな感じのものだった。
だから、近づくまでは発動できなかったのだろうと夜月は思い返す。
武器を使っての近接戦闘をメインにすることにして、その補助をできる能力を選ぶのがよさそうだ。
「この風の能力にします。」
夜月が選んだのは、強風を一直線、狙った方向に吹き出す能力。
敵に当てても後方に吹っ飛ぶぐらいだろうが、近接戦闘をしているときには役に立つだろう。
「風ですね。」
いくつかあるリングの中からシュリエルが手に取ったのは水色の透き通る結晶がはまったものだった。
そのリングを受け取り指にはめる。
リングが大きいのか、自分の手が小さいのか、リングと指の間に隙間が空いてしまっている。
親指にはめるしかないかと、一度リングを外そうとしたとき、リングの輪が小さくなり、隙間がなくなった。
次は驚いて外そうとし、指輪に反対の手の指を添える。
しかし、外れない。
「すみません。驚きましたよね。外れないのは仕様です。落とさないようにというのと、交換できないようにという理由です。」
シュリエルの説明を受けると、少々動揺していた夜月は先ほどまでの冷静さを取り戻し、一度リングを見直してから前に向き直った。
「これで、試練内容の説明は終わります。今月の試練日は3日後です。その日になったらまたこの部屋に集まってもらうことになります。それまでは自由に過ごしてください。」
そう言ってから、その天使は入って来た時とは別の扉の前へと歩いていく。
「次は、あなたが、試練が始まるまでの間に使用していただく部屋に案内します。またついてきてください。」
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