第4話 運命の審議

「全員集まったな。早く始めて、手っ取り早く終わらせてしまおう。」

12の影が、円形の机を囲んで腰掛けている。

「そうですね。今回の進行は、恵(エ)白(シロ)担当の私が務めさせていただきます。」

女性の落ち着いた声が空間に響き渡る。

「まずは、私の招集に応じていただけたこと、感謝申し上げます。臨時の集会を要請した理由は、事前にお伝えした通りです。」

「……確かに、この者の扱いを個人の判断に任せるわけにはいくまい。」

「だねー。」

「後で知って揉めるのも面倒くさい。」

この会議を行うことには、皆重要性を感じているようだ。

「では、一次審査の通過をどうするかですが……。私としましては、この子供に次へ進む資格を与える許可をいただきたく思っております。」

発せられたその言葉は、心なしか少々緊張がにじんでいるように聞こえる。

「俺はいいと思うよー。」

彼女が意見を求め始めた瞬間に発言したものがいた。

「ちょっと、真剣に考えたんですか?」

進行が話し終えたその瞬間に答えを出したことに対して、訝しげに問いが投げかけられる。

「失礼だなぁ。ちゃんと考えたうえで出した答えだよ。……先に知らされてた話でしょう?考える時間はいくらでもあったんだ。……あっ、もしかして君は考えてこなかったのかい?」

「そ、そんなわけないじゃないですか?しっかり考えてきましたよ。」

「そうだな。考える時間は十分にあったな。それならばとりあえず、賛成派か反対派に分かれるのがよいのではないか。……進行。」

「はいっ。……それでは、賛成の方お手をお上げください。」

賛成派は、進行も含めて11。

そして、反対派は……

「どうして、皆さん賛成何ですか?私たちの脅威になる可能性だってあるんですよ。」

「でも、他の通過者と同じように、魂が辿り着いたんだよね?それなら問題はないと思うけど。」

「同じところに分類される者の中でも、良い者も悪い者もいるということを知っている。それに、まだ、すべての審査が通ったわけではない。後の試練で判断しても遅くはないだろう。」

「この者は、実力はあるようだ。味方であれば心強い。……それに、信頼のおける者からの推薦があるのでな。」

賛成派が次々と理由を述べていく中、召集をかけた者はほっと胸を撫で下ろす。

一方で、孤立してしまった反対派の彼はおろおろと慌ただしく首を動かしている。

「しかし、何か問題を起こす可能性も0ではないでしょう?」

「それは、他の方々も同じです。そして、そんな彼らを監督するのも私たちの役目なはずです。この子が最後まで試練を突破したときは、私がしっかり目を光らせておきます。それでも、賛同はしていただけませんか?」

彼は、罰が悪そうな顔をしながら暫く思案を巡らせていたが、やがて口を開き賛同の意を表した。

「よし、それでは解散だな。」

「本日はありがとうございました。これにて、臨時の集会は終了とさせていただきます。お疲れ様でした。」

そう、進行が告げたとたん、次つぎと座っていた者たちは一瞬で消えていく。

そして、他の11の影がなくなったのを確認してから、進行をしていた者も瞬時に姿を消した。





何も見えない。


暗い所にいる?


いや、自分が目をつむっているだけなのだろうか。


感覚がない。


今は、考えることだけが自分ができるすべてだ。


あの時、自分の存在は確かに消えた。


あれが、死というものなのだとしたら今いるのは死後の世界というものなのだろうか。


一度は消えたと思った意識のように、感覚も少しずつ戻ってくる。


背中や手のひらが何かに触れている感触。


どうやら、自分は仰向けに横になっているようだ。


身体を動かせるまでの感覚が戻ると、目を開き起き上がる。

「目が覚めたようですね。おはようございます。」

まだ、感覚が戻りきらない身体をぎこちなく動かして、声のした方に顔を向ける。

そこには、翠色の髪と、同色の瞳を持つ女性が立っていた。

そして、最も夜(や)月(づき)の目を引いたのは、彼女の背中から生える純白の羽。

「てん、し?」

その姿は、これまでに見たことはないが、聞いたことのある天使という存在の特徴を持ったものだった。

「はい。私は、天使の一人、名をシュリエルと言います。あなたの案内役を任されました。」

シュリエルと名乗った彼女は胸に手を当て、そう名乗った。

夜月は、始めて目にする天使に唖然としていたが、自分も名乗り返さなければいけないと思い、慌てて立ち上がる。

身体の感覚はどこか違和感があるが、もうほとんど戻ってきている。

「ご丁寧にありがとうございます。俺は、……夜月、です。」

「ええ、存じていますよ。それから、申し訳ないのですが、あなたが何者であったのかも確認させていただいています。」

「……そうですか……。」

自分のことを知っているにも関わらず、丁寧な態度で接してくれることに対する嬉しさと、それを自分の口から言わなかったことに対する後ろめたさが夜月の胸に押し寄せる。

「あなたは、どうも冷静なようですが、状況は呑み込めていないでしょう?とりあえず、今あなたが置かれている状態を説明していきますね。」

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