彼、彼女らは純粋すぎる
とりあえず冒険者ギルドに行った私たち。
「魔獣を狩るのはどう? 私は役に立たないかもしれないけど、薬草採取より報酬もいいし」
そろそろ、薬草採取だけではなくもっと危険なものに取り組んでもいい頃だ。
と言っても私は癒しの魔法しか使えない。
もっと言うとエレノアが怪我することなんてないから、実質危険になるのは私だけだ。
もし、エレノアがそれを憂いて薬草採取をしているんだとしたら、そうではないと知らせておきたい。
「そうなんだけど…… 私って凄く強いわけでしょ?」
「魔獣には負けないだろうね」
「だからこそ、慎重になるべきだと思うんだよ。私が生態系を壊すような存在にはなりたくない。だから、なるべく狩りに頼らないようにしたい」
「気持ちは、分かるんだけどね」
エレノアのいう事は正しい。
確かに正しいのだ。
だから、突っ込みにくい。
「ちょっと待って、迷子っぽい子がいる」
「今日の予定……」
そう言って声をかけに行ってしまう。
迷子と言っても、この建物自体はそんなに広くない。
子供がいたとしても、それは迷ったというより依頼をしに来たとか。
どうしようもないので、私も声をかけるエレノアに加わることにした。
「どうしたの? 迷ったとか、探し物とか?」
目線を下げて、その男の子に声をかけるエレノア。
確かにおどおどとして、何か困っている様子なのは伺える。
ただ、こんなところで探し物っていうこともないだろうと。
本当に迷子だったとしても、無暗に歩き回るよりは、冒険者ギルド内で待機していた方が良いと思う。
どちらにしろ、そう長く時間を取られることは無いだろう、そう考えていた。
「えっと、探し物です。龍の果実って言うものを探しているんです」
「「龍の果実?」」
私たちは顔を見合わせた。
「アンリテ知ってる?」
エレノアが私に耳打ちしてくる。
取り敢えず記憶を探ってみたが、私の知る限りではそんなものは無い。
確かに龍とかドラゴンとか呼ばれている存在があることは知っている。
だけど、龍の果実なるものは聞いたことがない。
「知らない。聞いたこと無い」
私も小さな声で返す。
でも、私もこの世界の事全てを知ってるわけじゃない。
それか、物自体は知っていても、呼び方の問題で分からないこともある。
人の数だけ呼び名があるわけだし。
「それは、どんな物か具体的にわかる?」
私も、なるべく目線を合わせて話しかける。
しっかりとした生地の服、きれいな靴。
言葉遣いも丁寧だ。
子供ではあったが庶民っぽくはないな、と感じた。
まぁ服装であんまり人を判断するとエレノアは怒りそうだから、口には出さないけど。
「その果実を食べるために、わざわざ龍が目をかけて育てた果実だと聞きました」
「誰から?」
「お嬢様からです」
それから、男の子から話を聞いていくと、それ少しわかることがあった。
この男の子の名前はオスカー・ブラウンと言うそうだ。
それで、彼はエミリー・ホワイトという貴族の女の子に仕えている。
そもそも、彼の家ブラウン家は代々彼女のホワイト家に仕えてきたそうだ。
でも、彼とお嬢様は仲があまり良くなかった。
それが、決定的になったのがつい先日。
彼が、彼女の大事にしていたティーカップを誤って割ってしまったことで。
「お嬢様は僕のことがあまり好きじゃないんです。僕ってどんくさいし、紅茶も全然うまく淹れれないし。お嬢様は頭の回転も速くて、僕よりもずっと優秀ですから」
そう、暗い顔で話す彼の話を私たちは黙って聞いていた。
聞いていると、二人とも同じくらいの年齢のようだ。
正直、時間が解決する問題かもしれないと。
二人がもっと歳を重ねて、大人になれば改善させるものかもと思った。
人間関係に対しての万能薬なんてものは無いのだ。
もし、彼が『龍の果実』にそう言ったことを期待しているのなら、違うと伝えることが私たちの役目なのかもしれない。
そう思っていた。
「でも、お嬢様が言ったんです。あなたに本当の誠意があるなら、『龍の果実』でも取って来なさいって。多分、挽回の機会をくれたんだと思います。だから、僕は一つでもお嬢様の期待に応えたいんです!」
思ったより、芯のある理由で私たちを唸らせる。
ここまで、事情を聴いてしまっては今更『そうなんだね~』とすっとぼけるのは余りにも不誠実だ。
それに、こんな話を彼女が見過ごす訳がない。
私はエレノアを横目で見る。
「うーん…… 確かに見つけてあげたいけど……」
あれ、あんまり乗り気じゃなさそう?
珍しいな、と思いながら続きの言葉を待つ。
「それを私が見つけても、意味がないからさ。そのお嬢様は、君に見つけて欲しいって言ったんでしょ? それを私が探してくるのは違うと思う」
「僕もそう思います! 話を聞いてくれてありがとうございました! おかげで勇気が出ました。僕一人で探しに行こうと思います」
そう言って彼は一礼して、意気揚々と冒険者ギルドの出口に向かって行った。
さて、私たちは今日の依頼を探そう。
「いや、そうはならないから!」
私はこの状況に突っ込みを入れて、慌てて彼を追いかける。
「私たちも、森に行くから! 一緒してもいいかな?」
純粋すぎる二人に若干の疲れを覚えながら、私はその男の子に声をかけるのであった。
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