私の苦悩
「このお金使えばいいじゃん!!」
「だめ」
「じゃあどうするの!ずっとこの街にいるわけにも行かない!」
「もっと頑張って依頼をこなしていく」
「でも、すぐ寄り道するくせに……」
「じゃあ、困っている人を無視していくってこと? それはあり得ない」
おはようございます。
女神です。
アンリテと申します。
朝っぱらからエレノアと絶賛喧嘩中。
こうなるかもと予想はしていたけど、どうしようもなかった事を力不足に思います。
そう、絶賛金欠中です。
確かに今日を暮らすのに不自由するほど困っている訳じゃない。
この街で暮らすことは出来るだろう。
でも、それじゃだめだ。
エレノアには世界を救ってもらわないといけない。
それは、泣いている女の子を助けたり、犯罪に手を染めてしまった人を助けることとは違う。
もっと実質的で、差し迫ったもの。
でも、その詳細を語ることは躊躇われた。
理由はどこまでがルールの範疇なのか分からないから。
『女神は自分の管理している世界に大きく干渉することはしてはいけない』
その、曖昧なルール。
このルールには例外がある。
それは、『その世界の均衡が著しく損なわれる場合』だ。
その場合なるべく、その世界に住む人に解決してもらうのが望ましい。
もし、女神がいるという事が疑いようもない事実と世界に知れ渡ってしまったら、その世界の以前の価値観、学問、芸術などが失われてしまう可能性がある。
いや、実際そうなった。
ある心優しい女神は、激化する戦争を憂いて自ら顕現し、その力により戦争を止めた。
だが、そのままハッピーエンドにはならなかった。
ある者は、大切な人を失った怒りの矛先をその女神に向ける。
なぜもっと早く来てくれなかったのかと。
またある者は新しい宗教を立ち上げる。
神の寵愛を受けたいがための、卑しい宗教。
神を題材にした芸術は、その女神を見た人間により排斥された。
多くの人が助かったのは確かで、女神に感謝をしたものは大勢いたのだろう。
しかし、その代わりに以前の世界は、永遠に損なわれてしまったのである。
その心優しい女神がその後どうなったのか、その世界がどうなったのかは知らない。
知りたくもない。
だから、人に力を与えて世界を救わせるなんて回りくどい事をするのだ。
それでも、問題は発生するのだが。
最初の街から全く出ていこうとしないとか。
話を戻すと、私たちはあんまりお金がない。
と言ったが実はある。
それが冒頭の喧嘩理由になるのだが。
それは少し前に野盗を憲兵に連れて行った時の謝礼の半分のお金のことだ。
半分は女の子に受け取ってもらったのだけれど、もう半分を野盗たちに渡すことは叶わなかった。
エレノアは憲兵に直接交渉しに行ってたみたいだったが、認められなかったそうだ。
中々に憤っていた様子だった。
で、私はそのお金を使おうと言ったのだ。
しかし、エレノアは直接会って渡すまで絶対に手を付けないと譲らない。
実際問題お金はない。
だから私は少しだけ話すことにする。
世界を救ってと言った実際的な話を。
「エレノア、少し真面目な話をするよ」
「私はずっと真面目だけど」
「そうじゃなくて、世界を救ってと言ったことに関しての話」
「忘れてた」
「私も言ってなかったからね。端的に言うと、魔王と言われる存在が現れる」
魔王と呼ばれるのは、童話かららしい。
勇ましき者という意味を持つ『勇者』という人物が、魔物という未知の獣を統率する『魔王』という強大な悪を倒す。
そんなストーリーから来ていると女神の誰かから聞いたことがある。
世界が違っても、同じような物語が生まれるのはなんだか神秘的なものを感じてしまう。
「魔王? おとぎ話みたい」
「それが、獣や魔法を扱える魔獣を統率して人間に抗戦を仕掛けてくる」
「それは…… 何故? 理由があるはず」
「そうだよ。理由はある」
何事にも理由がある。
それは当然のことだ。
エレノアが力を持っていることや、私が地上に降りて来たことも。
そして、魔王が生まれる理由もちゃんとある。
それを話せないわけも。
「言いたくないみたい。私の記憶に関してもだけど」
「理由がある、としか言えない」
「なるほど。とにかく私は何をしたらいいの? その話を聞いても今できることがあるとは思えない」
「まず、宗教国家アンリテに行く。その後色んな国や地域に行きたい」
「それが、世界を救う助けになるんだね?」
「そういうこと」
今の私に言えることはこれくらいだ。
これで少しはエレノアを動かすことができるだろう。
「だから、そのお金を使ってこの街を出よう!」
「話は分かった。つまり、お金をもっと貯めないといけないってことね」
あー、私の話無駄でしたか……
そんなわけで、私たちは今日も冒険者ギルドにて仕事を探すことに。
街を出るのはもう少し先になりそうです……
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