世界の見え方
体が痛い。
悪いものを食べたわけでもないのに何故だ。
そう思い、エレノアに聞いてみることにした。
「それは筋肉痛では?」
なんだそれ。
筋肉は知ってるし、痛いも知ってる。
けど、筋肉痛は知らない。
「体がダメージを受けてるみたいな? 多分女神だったから人の体に慣れていないせいだと思う」
「おー、それなら安心だ。でも今日は休憩ね」
体痛いし優しいエレノアさんなら許してくれるはず。
「何言ってるの、お金がないんだから働かないと!」
そうですよね。
元はと言えば日銭すら持っていない私が悪いんだから。
「体が痛いんだけど……」
「頑張ろう」
私にとっての優しいの定義とは、筋肉痛の人に優しくすることだという事を追加しておこう。
今日の仕事は、薬草の採集である。
またですよ。
エレノア曰くこれが今受けれる依頼で一番効率がいいらしい。
後何日薬草の採集をすればいいんでしょう。
皆目見当もつかない。
「お姉さんたち、薬草の採集をしてるの?」
と声をかけられたのは私とエレノアが今日の依頼をこなすのに勤しんでいた時のこと。
「そうだよ。あなたも?」
少し不思議に思う点があった。
まず、ここはそこそこ森の深いところだという事。
もう一つは、身なりのことだ。
彼女は笑顔こそあどけない少女のものだったが、その服は汚れていて、髪もまとまっておらず、有体に言うならみすぼらしかった。
「そうだよ! もっと薬草がいっぱい生えている場所を知っているんだけど、そこに行かない? 案内するよ!」
「いいの? でも、なんで私たちと一緒に?」
横で聞いていたエレノアが口を挟む。
「私だけだと、ちょっと危ないとこだから」
なるほど。
私たちは顔を見合わせる、だけどエレノアの中ではもう答えは決まっているんだろう。
私はずっと見てきたし、知っている。
エレノアという人物がどういう存在であるかを。
「じゃあ、そこまで案内してくれる?」
優しい声で、エレノアが声をかける。
信じるところから始めるのが、彼女のやり方だ。
「ここだよ!」
そこそこ歩いてようやく到着した。
けれど、エレノアはともかく女の子まで、あまり疲れた様子ではない。
一方私はヘロヘロになっていた。
私だけ相当貧弱なのでは?
「アンリって自分に癒す魔法は使えないの?」
「アンリ?」
「いや、門の時にそう言ってって……」
「忘れてた……。でも、自分に魔法は使えるはず!」
「使えるんだ」
「使えるね、やったことはないけど」
早速私は自分に癒しの魔法をかける。
すると、今までの疲れがみるみる引いていく。
「魔法凄い」
魔法に感動しつつ、やる事は草むしり。
だけど薬草はたくさん集まるのでちょっと楽しくなってきた。
もう、麻痺草と間違えることも無い。
幸い、獣の影もなく私たちは薬草を集め始める。
だけでは悲しいので、リーシャに声をかける。
「名前を聞いてもいい?」
「リーシャって呼んでください。お姉さんは?」
「アンリ、であっちの不愛想な方はエレノア」
「ひどい紹介。私、そんなに感じ悪いかな?」
「クールな感じでかっこいいです!」
「ありがとう」
言ってみて思ったけど、エレノアは確かに不愛想だ。
不愛想で不器用だ。
でも、真っ直ぐで。
私はどうしようもなく彼女に惹かれている。
人間より高い視点で見てきたからこそなのかもしれない。
そんな小話の後私たちは結局黙々と薬草を集める。
それから、私たちが十分な薬草を集めるころにはもう日は傾いていた。
「かなり集まったし、そろそろ帰ろうか」
エレノアが言う。
リーシャがいるのも考えると、早めに帰りたいところだ。
「リーシャちゃんも帰ろうか」
「そうですね、おかげで沢山集まりましたし」
「リーシャがいい場所を教えてくれたおかげだよ」
「いえいえ、私だけでは出来なかったことですから。明日もご一緒していいですか?」
「もちろん!」
私は喜んで同意する。
明日の予定も薬草採集になったけど、別にいいか。
もう少しお金を貯めてから、次に進むのも悪くない。
私たちは冒険者ギルドに戻り、薬草をお金に換えてそれから別れた。
「あの子、いい子だったね」
「そうだね」
「やっぱり、心配?」
「……心配」
「行ってきなよ。私は足手まといだからさ」
エレノアはもう、浮足立っていて今にも駆け出しそうだった。
私の言葉を待っていたのかもしれない。
「うん。行ってくる。宿で待ってて」
そう言ってエレノアは風を切って走っていく。
私にできることは何もない。
宿に帰って、帰りを待とう。
その後宿に帰って諸々のことをしてもエレノアが帰ってこなかった。
私もできれば起きて待っていたかったけれど、睡魔が私を許してくれなかったのでエレノアに一言心の中で謝ってから眠ることにした。
おやすみ。
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