死活問題

冒険者ギルドとは、行ってしまえばお仕事斡旋の場所だ。

F~Sまでのランクで分けられていて、位が高くなるほど受けれる依頼も増える。

でも、ほとんどの人はDランクにもいかない。

なぜなら、D以上に上がるには魔獣の討伐をしなければならないからだ。

それFやEランクの依頼であれば基本的に植物の採集から、人手が足りない工事の派遣など比較的安全なものが多い。

もちろん、私たちはさっき作ったばっかりなので、Fランクだ。


「薬草の採取するか」


それは簡単な割に割とおいしい依頼、しかも年中やってる。

しかも、薬草を渡せばすぐにお金が渡される。

金欠の味方、薬草万歳。


「そんな地味な仕事を……」


「仕方ないでしょ、これが一番割がいいし」


明らかに乗り気ではないアンリテを連れて、私たちは薬草の生息地の森へ赴く。

道中、『疲れた……』とか『帰りたい……』『お腹空いた』などとうるさかったので、森に生えてる食べられそうな果実を水の魔法で洗って食べさせておいた。


「おいしい!これもっと食べたい!」


お気に召したようで。

それから、薬草を探すついでに食べられそうなものを探していた。

と、ここである疑問が浮かび上がる。

それは、私に毒などは効くのかということ。

目の前にあるのは薬草によく似た麻痺草。

食べると舌がしびれるなど食用には向かないが、加工することで痛み止めなどになる。


「お腹空いてるし、食べるか」


そのまま、麻痺草をかじる。


「何ともない」


舌がしびれることはなかった。

一枚の葉っぱを完食しても、何も起こらない。

そこらへんに生えている草っていう味がする。

おいしくはない

それはそうと、これで簡単な毒なら何ともないことが分かった。

でも、薬草と間違えてないかだけは確認しておこう。


「アンリテ、これ食べて」


「わーい!」


そう言って草を差し出すと、まるで餌に食いつく魚のようにニコニコでぱくっと草を口に入れる。

その後、表情が一転して苦い薬を飲んだようなものになり、その草を吐き出した。


「うわっ」


「うわっ、じゃない! すごく舌がびりびりする!」


「ちゃんと麻痺草でよかった」


「全然良くない!!」


「お詫びにこの甘いやつあげる」


さっき取っておいた果実の実。


「ちょっと許す」


そういって口に放り込んでもぐもぐ食べる。

ちょっとちょろい女神様だった。


「舌がしびれてて全然味しない……。やっぱりあんまり許さない……」


あんまりちょろくない女神様だった。



薬草を集め終わった帰り道。


「なんで私にあんなもの食べさせたの? まだ舌がぴりぴりしてるし」


「ごめんって、私に毒が聞くかどうかの確認のために食べてもらっただけ。悪意とかは一切ない」


「私をなんだと思ってるの?」


「美人で、尊敬できる女神様」


「ほーん、ふーん。許してないけど、今回は多めに見ようかな。許してないけど」


女神様は器も大きくあらせられるらしい。

何はともあれ、冒険者ギルドに帰ってきたので、依頼終了の報告をすることにした。


「これ、薬草です。確認お願いします」


「わかりました」


二人分の薬草を集めた袋を渡す。

すると、今まで笑顔だったギルド職員の顔が曇る。

明らかに困ったような顔になっていたので、こちらから声をかけることにした。


「すみません。何か不備が?」


「申し訳ありませんがこちらの袋に麻痺草が混ざっているので、その分を引いた額お渡ししますね」


そんなはずは、と思った。

似ているとはいえ薬草と麻痺草が違うのは常識だ。

この世界の住民なら間違えることはまずない。

子供ならともかく。


「すみません、こちらの不備で」


「大丈夫ですよ。このように裏の葉脈が少し紫がかっているのが麻痺草ですから、次からはよろしくお願いします」


混入していた麻痺草を一枚取って、丁寧に説明してくれる。

そして、本来であればこちらがやるはずの分別までしてもらった。


「ありがとうございました」


受け取ったのは銀貨5枚。

これくらいあれば安い宿に一泊してご飯も食べられる。

本当はもう少しお金がもらえるはずだったんだけど……

どうやら、アンリテの普通と私の普通の違いはかなり致命的らしい。

今すぐ全部を合わせていく必要はないけど、違うという事はお互いに把握しておかなくては。

この先、致命的な齟齬が出る前に。


その後、私たちは安い宿に一緒に泊まることにした。

銀貨8枚あれば朝も夜も付いてくる。

素晴らしいけど、すでにお金は心許ない。



忘れる前に、ちゃんと話しておくことがある。


「アンリテ、どうやら私たちの常識はかなり異なっているみたい」


「い、いや、あれはちょっと勘違いというかミスしただけだから。 次からは本当に大丈夫だよ! ……ごめんなさい」


「責めてるわけじゃないの。私も知ってるものだと思い込んでた私も悪い。だから、些細なことでも伝え合おうよ、私たち」


いくら戦いに強くなっても、心が読めるわけじゃない。


「優しいんだね」


「優しくはないでしょ」


それは拡大解釈が過ぎる。


「そういうとこだよ、エレノア」


「えっ……」


思わぬ反撃に言葉を失う。

そして、次の言葉を探す。

少し長くなるかもしれないけど仕方ない、これは必要なことだ。


「そうだね、人によって優しいって違うもんね。なら、優しいという言葉の定義について話し合おう」


「いや!! 疲れたので今日は寝る!」


「なら明日にしよう」


「明日も寝てる!」


「お金がないからそれは出来ない……」


と言いつつ私も疲れている。

体はそうでもないけど、心とか。

明かりを消すと、すぐに寝息が聞こえる。

おやすみ、と呟いてから私も意識を手放した。

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