#1―①
「オレが一生
ドアの閉まる直前、シュッと
言われた方は、なんのこっちゃの
「……ホー?」
面食らったままでも仕方がないので、鳴鐘センパイ――改め本名・鳴鐘
「えーっと? 意味がわかるように理由を聞かせてもらえる?」
ちなみにここがどこかといえば、会社の
慣れた調子で「なんちゃらかんちゃらほんわかぱっぱのへのかっぱカッフェ・グラニータ」と
一方の呉葉は、どれも同じに見えるメニュー表に目を回したあげく、「何か、豆乳入ってるのを……」と
「……オレ昨日、彼女にフラれました」
ややあって、こちらの問いに対し、後輩は少女のように
「……はあ、えっと……それは……ご
「ご愁傷さまってセンパイ!
「この上なく他人事だからね」
「わかってないならはっきり言っときますけど? オレがフラれたの、確実に鳴鐘センパイが原因だと思います。だって彼女、
白いクリームの山を、親の
「あのね
豆乳入りコーヒーを
「彼女さんがここしばらく悪質なストーカーに
ついでにもうちょっと突っ込ませてもらえるなら、この後輩ときたら、非常時に一一〇番ではなく
(その間、田中くんは交番に駆け込むでもなく、ただ近くで
続きは
「そうですよ! そのとおりですよ! 悪かったですね! どうせとんだ
「まあ
「だってあんなゴツい大男、並の警察官だと
「……あんたは私をなんだと……。いや、そもそもね? ちゃんと彼女さんの安全を確保できずに先走るのは
「
ジト目で
「まー鳴鐘センパイ本人は知らないかもしんないですけど? うちの会社、『鳴鐘呉葉に彼女を
「いや
「そうですね。身長百八十センチオーバーで?
「何それ初耳ですが! どっちもやったことないし!」
(確かに、
少なくとも、
「……まあ、うちのフロアにいる
「ホラァ! やっぱりそうじゃないですかぁ! んでぇ、社内に女子会員限定のファンクラブがあって? バレンタインになったらうちのフロアでいちばん大量に本命チョコもらってる、
ネチネチと
実はイケメンどころか、客観的には
「いやけど田中くん。私思うんだけども。きみらが女の子に
「だから正論で抉るのやめてくださいってば!?どうせねえ、さりげなく女の子の運んでる重たいダンボールを代わりに持ってあげたり、転びかけた女の子をサラッと受け止めて助けたり、帰りが
「誰がモテクニシャンよ。全部普通に目の前で困ってたから手を貸しただけだし。それでモテたことどころか、今まで一度も
「この際それはどうでもいいです」
「よくはないよ!?」
セクハラまがいの結構な言われようなのだが、呉葉はまったくこたえなかった。
なんなら今も
「まったく。オレがこんなにガチべこみしてるってのに……めちゃくちゃご機嫌ですねセンパイ」
「あ、わかる?」
(なんてったって! 今週末の私には、それはそれはスペシャルな予定が
「えーっと? 弟さんの
「そうなんだよ!」
よくぞ
(お母さんもお父さんも
気を抜くと、ついついほろっと
「聞いてくれる?
「へいへい、今のオレにはちょっぴりやっかみたいくらいに弟さんが
「あっじゃあタクシー代に一万一回め聞いてってよ。本当に素敵な子なんだから!」
文句の付け所どころか、「うちの弟を選んでくれてありがとうございます!」と姉の自分が
(命より大事な弟の
我ながら
おかげさまで会社の仕事も順調。このところ呉葉の
ありがたくも
今後も
(色々、……そりゃもう色々、ここに来るまで苦労もあったけど。なんて
ジーン、と胸を押さえて感動に打ち震えている呉葉を、しばらく後輩はしかめっ
「けどセンパイは?」
そこでふと後輩に
「鳴鐘センパイ自身は、別に何も得てないですよね?」
「え?」
「プロジェクトが完結して
じゃあ、―― 鳴鐘センパイ自身はからっぽじゃないですか。
かなりざっくり失礼な物言いながら、予想外のところから降ってきた言葉に。
思わず呉葉は目を
(私自身は、……からっぽ?)
考えたこともなかった。
あまりに不意打ちすぎてポカンとする呉葉からやっと一本取ったと思ったのか、後輩は「ふふん、それみたことか」と言わんばかりに胸をそらせた。
「なんかぁ。鳴鐘センパイは、ぶっちゃけ他人に
「それきみにだけは言われたくないんだけど? あと、別にかっこいいとかどうでもいいし、自己犠牲でもないから。私のしたいようにしてるだけだから」
ビシッと切り返す呉葉に、「センパイ、甘い。生クリームのチョコシロップがけよりくそ
「人生なんていつ終わるともわからないんだから、自分が損してまで尽くすのは単なる
「貧乏クジではないんじゃない? 少なくともきみの元カノは寝取れたらしいし?」
「うぐっ」
ニヤリと笑って言ってやった
「あーマジ
「はいはい、やっぱタクシー代ここで返せ? こっちこそ昼休み消えたじゃないの」
くだらない言い合いをしているうちに、気づけば昼休みは残り十分を切っており。
おかげで呉葉は、やけに高価なコーヒー豆乳で昼食を終わらされる
今日はちょっと歩いたところにある格安定食屋で、
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