薄幸な公爵令嬢(病弱)に、残りの人生を託されまして

夕鷺かのう/ビーズログ文庫

プロローグ



『立てばそっとう、座ればまい、歩く姿はぞこない』

 それがわたくし、――クレハ・メイベルへの、世間でのもっぱらの評価だった。

 無理もない。

 たましいと精神と肉体とのきんこうがものを言うこの世界で、わたくしの肉体はもろすぎた。~はからずも魂に宿した強大なりょくめきれず、絶え間なく命をぼろぼろとこぼれ落としてしまうくらいには。

 呼吸をすればはいきしんだし、歩けばふらついたし、まず走ったことなんて一度もない。それどころか、家から出たことすらも。

 病弱すぎて、他家にとついで子を産み、血をつなぐ使命を果たすこともとうてい難しい。名門メイベルこうしゃくはじさらしと後ろ指をさされる日々。それでも十六歳まで成長できたらおんと、あきらめまじりで生きてきたけれど。

 今、――その十六の誕生日を目前にして、わたくしの命はついえようとしている。



だれか……」

 苦しい。気管支に空気がガリガリとつめを立てるような、呼吸とも呼べない呼吸。あばくるうようにひっきりなしに脈打つ心臓。

 あおけにベッドにせたまま、胸の上でふるえる両手を組み。わたくしはもう間もなく、この魂と精神とが、肉体をはなれてしまうことをさとった。

「……お願い」

 だからわたくしは強く願う。

 身体からだえきれずにこわれてしまうがゆえに、使ったが『さい』と言われてきた自分の魔力を、今こそ使おう。

 ―― お願い。誰か。

 この魔力を使いこなせるほど、きょうじんきたげられ、せんれんされた魂を持つ誰か。

 どうかどうか。

 声が届いたならば、わたくしの代わりに、『クレハ・メイベル』として生きてください。



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