はじめましてでいいですか?



 エルマさんがプロポーズされたのを見て、当事者でもないのに感動して泣いてしまった。

 エルマさんも泣いていたけど、いっしょに泣いてくれてうれしかったと言ってくれた。

 でも、ちゃちゃずかしい。

 泣いてしまったことはとりあえず忘れよう。

 そんなふうに思っていたのだが、話は私の想定外の形で広まっていった。

 それというのも、エルマさんのされたプロポーズをもくげきしている人がかなりいたせいか『セイラン聖女に祝福してもらえると、幸せなけっこんができる』といううわさまたたに広がったのだ。

 聖女の力が祝福なんじゃないか? という噂も広まっている。

 しかも、きょうしんしんじょ達がエルマさんに直接話を聞いたところ、やさしさなのか私がすごがんったように話してくれたようで、セイラン聖女はがみのような人とも言われだした。

 だからなのか、その日エルマさんとお茶をしながらくつろいでいると、とつぜんドアが乱暴に開いた。

 ノックもしないで入って来たのは遠くから何度か見たことのある第一王子だった。

 突然の訪問にこんわくしてフリーズする私とエルマさんを見ると、彼はハンッと鼻で笑った。

「そう言えば、そんな見た目だとヒメカが言ってましたね」

 何とも言えない見下したオーラが鼻につく。

 それでも相手はこの国の王子様だ。

 王太子ではないと言え、身分はかなり高い。

 私はエルマさんに教わったゆうに見えるおをすることにした。

「お初にお目にかかります。セイランと申します。ナルーラ殿でん

 第一王子はしばらく私を見つめると言った。

「最近、ことごとくヒメカのじゃをしているようですね」

「何の話でしょうか?」

 私の返した言葉に、第一王子は、はーっと息をいた。

とぼける必要もないでしょうに。わざわざ人の男をうばうだけではらず、公衆の面前でドロドロとしたあいぞう劇を見せて味方を作ろうとしているようですね」

 何一つ身に覚えがないのだが、この人頭の中大丈夫だろうか?

「他人のこんやくしゃを奪うのは悪いことだと親に教えてもらわなかったのかな?」

 何だかニヤニヤとしたふくみのある話し方をする彼に、私はニッコリとがおを向けた。

「ナルーラ殿下、どこのだれからその話をお聞きになったのかは存じ上げないのですが、だまされてらっしゃるようにお見受けいたします」

「何だって?」

 私は元ブラックぎょう社員だったから、クレーム処理ぐらいお手のものである。

だいなる第一王子殿下に誤解をさせてしまい、まことに申し訳ございません」

 必勝法は最初にきっちりと謝ることだ。

 これで先方が『謝れ』とは言えなくなる。

 先に謝っているからだ。

「噂とは日を追うごとに、人をかいするうちにおおきゃくしょくされてしまうものなのです。他人の婚約者を奪ったのであれば貴族間でもっと大事な話として広まっているはずだと、そうめいなナルーラ殿下ならばぐにお気づきになったのではございませんか?」

 ここでは、その場にいなかったくせに見ていたかのようにう第一王子のふさぐ。

 じんなクレームをしてくる人はたいてい頭に血が上っているせいで、こちらをめようとしてくるが、『聡明な』とか『偉大な』とか先に言われてしまうと、頭がいいことをしたくなり分かったフリをするのだ。

 実際、第一王子はぐうの音も出ないようだ。

「実際は婚約などしていない方に、私の侍女をしてくれている彼女が選ばれたというだけの話なのです」

 かなりバツの悪そうな顔をし始めた第一王子に私は、困ったようにまゆを下げた。

「あの、こちらからも一つナルーラ殿下のお耳に入れておいてほしいお話をしてもよろしいでしょうか?」

 私はゆっくり、この前たたかれた方のほおに手を当てた。

「私が上手うまく説明できなかったのが悪いのだと分かっているのですが、ヒメカ聖女様も殿下のように誤解をされていたらしく、ヒステリッ……ではなくて、かなり感情的になられて少々あらをされたのです」

「手荒な真似とは? まさか暴れたとでも言うのかい?」

 モンスターペアレントのように、うちの子に限ってそんなことするはずがない! とでも言いたそうな顔をされた。

「暴れただなんて、ただ、ヒメカ聖女様の手が私の頰に当たってしまっただけなのです。かなりれましたが、当たってしまっただけのはずなんです。だって、婚約してもいないのに『自分の婚約者』とか言ってしまうストーカーを信じて……いいえ、騙されていたのだと思います」

 さも、まだ頰が痛いですよ、と言わんばかりに頰をでながら言った言葉に第一王子はひるんだ。

「ですので、ナルーラ殿下が、ヒメカ聖女が洗脳されないように見守ってさしあげてほしいのです。ナルーラ殿下にしかたのめないお願いで、すみません」

 かんぺきな低姿勢に、こちらがっ込まれそうな話のアラを先に謝ることで、付け入るすきあたえず『貴方あなたにしか頼めない』と言って特別感を出しつつこちらの要求をませる高等テクニックだ。

「そ、そうですね。言われずともヒメカには勝手なことをしないように言っておきましょう」

 私はわざとらしくならないように笑顔を作った。

「本当ですか! よかった。あのままではヒメカ聖女様だけでなくナルーラ殿下の品位まで疑われてしまいそうでしたから。本当に安心いたしました」

 本当は書面にしてもらいたいぐらいだが、今回はまんしよう。

「私達のさいなすれちがいのちゅうかいをしてくだって……おいそがしいでしょうに時間を作っていただきありがとうございました。これ以上ナルーラ殿下のお時間をにするわけには参りませんね。このたびは本当にありがとうございました」

 そう言いながら、第一王子殿下を出口までお見送りし、ドアを閉めた。

 しばらくドアに耳を当て、外の様子をうかがい、第一王子がその場をはなれる足音を聞いてからソファーにだらしなく座る。

「づがれだー」

 前にダーシャン様が言っていただくてんだらけの『つかれた』が思わず口から出てしまった。

 クレーム処理って本当に疲れる。

 そう思いながら長いため息をつく。

 すると、エルマさんがばやくお茶とおを用意してくれた。

「セイラン様、本当にらしかったです! ナルーラ殿下を言葉でだまらせる人を初めて見ました」

 エルマさんは興奮したようにそう言ってひとみをキラキラとかがやかせた。

 私は出されたお茶をゆっくり飲み、また長いため息をついた。

 第一王子が頑張って、ヒメカ聖女とエリザベートさんが二度と新緑のしん殿でんに来なくなりますように、と願わずにはいられなかった。


◇◆◇


 あの日から、平和な日々がおとずれた。

 なんてことはいっさいなかった。

 ヒメカ聖女は度々新緑の神殿に来ては文句を言って帰るようになった。

 それというのも、エリザベートさんが込んでしまったらしく、それが私とエルマさんのせいだと言っているのだ。

 まあ、婚約していないのに婚約者だと言うストーカーこうをしてしまったのだから、ごうとくではないだろうか?

 たちが悪いことに、ヒメカ聖女はダーシャン様がいる時だけがいしゃぶるのだ。

「私はずっと信じていて、だからあんなふうにしちゃって。ダーシャンなら分かってくれるよね?」

 ことづかいが気になって内容が頭に入ってこないが、ダーシャン様にだけはいい子であると思わせたいようだ。

 私とムーレット導師はそんな二人を見ながらお茶をすすった。

「セイラン聖女、ダーシャン殿下を助けてあげないのですか?」

「いや、だって、助けてって言われてませんし」

 そんな私達にお茶菓子を出しながらエルマさんがつぶやく。

「目が助けてほしそうですが?」

 言われて見れば、どうこうがゆらゆらとれている。

 しかも、たまにチラチラとこっちに顔を向けているようだ。

 私は気づかなかったフリをしながら言った。

「うわ〜今日のお茶菓子も美味おいしそう」

 今日のお茶菓子はクリームのたくさん乗ったシフォンケーキで、テンションが上がる。

「聖女の羽っていうケーキです」

 ファンシーなネーミングにちょっとたじろいでしまった。

「美味しいですよね。このケーキは前回の聖女様が広めたのですよ。最初は違う名前だったのですが、この名前にしてから急激に広まったケーキです」

 口に入れるとフワフワのが幸せな気持ちにしてくれた。

「ヒメカ聖女、仕事があるのでお引き取りください」

 ダーシャン様がとうとうしびれを切らして口を開いた。

「仕事? 私にもお手伝いさせてください」

 ダーシャン様はヒメカ聖女の後ろからやって来た人を見てうなずいた。

「では、文官長のしつ室に行きヒメカ聖女がここ一ヵ月でこうにゅうしたものの伝票の整理をしていただけませんか? 毎日たくさんの伝票の整理で文官はヒーヒー言っているので助かります」

 やって来たのはアーデンベルグさんだった。

 たくさんの書類をかかえている一枚をヒメカ聖女の前に差し出す。

 びっちりと数字でまる紙を見たヒメカ聖女はいっしゅんにして顔をそむけた。

「あ! 私、もうおいのりの時間だわ!! 手伝いたいのはやまやまだけど、自分の神殿に帰りますね! ダーシャン、送ってくれない?」

 名指しでダーシャン様を連れ出そうとするヒメカ聖女のガッツに、はくしゅしたくなった。

「申し訳ないですが、ダーシャン様に確認してほしい書類もあって……ろうに護衛のが四人ほど立ってらしたようですが、あれは確かヒメカ聖女様の護衛では? 人事の書類もありまして、そちらも見ていただけるのであれば直ぐにお持ちしますが?」

 アーデンベルグさんがニコニコしながらヒメカ聖女に近づくと、大きな舌打ちをして、ヒメカ聖女は逃げて行った。

「品位のかけらもない」

 アーデンベルグさん、小声でも聞こえちゃいましたよ。

 見れば、嬉しそうにアーデンベルグさんとダーシャン様用のお茶をれていたエルマさんに何だかやされる。

 アーデンベルグさんは申し訳なさそうに、抱えていた書類を私に差し出した。

「いつも手伝っていただいて申し訳ございません」

「私、書類仕事得意なんでだいじょうですよ。それに、簡単な計算ばかりですから」

「本当に助かります」

 最近では、文官一人分の書類を手伝うようになっていた。

 私がお手伝いすればお休みをもらえる文官が増えるらしいし、私は暗算でできるからスピードが速い。午前中にパパッと終わらせられる。

 伊達だて無駄にブラック企業で朝から晩まで働いていたわけじゃない。

「アーデンベルグ様もお茶で一息ついてください」

「エルマ、ありがとう」

 幸せオーラ振りまく二人とは対照的なダーシャン様の疲れきった顔に苦笑いしてしまう。

「ヒメカ聖女はダーシャン殿下のことが好きなようですな」

 ムーレット導師の言葉にさらいやそうな顔をするダーシャン様。

「そうでしょうか? 彼女の場合、コレクションしたいだけでは?」

 アーデンベルグさんの言葉に、私達は首をかしげた。

「要するに、見た目のいい男をそばに置きたいだけな気がします。あと、自分はモテると思い込んでいる」

「ああ〜」

 ダーシャン様が理解したように頷く。

「だから、アーグも『私の専属文官にしてあげてもいいのよ!』とか言われてたのか」

 ええ、ダーシャン様の地味に似ているヒメカ聖女のモノマネにムーレット導師がせいだいにお茶をいてしまったのは、仕方がないことだと思う。

 エルマさんにいたっては、何が起きたのか理解できなかったように固まっている。

「ダーシャン様、前にも言ったけど似てないからね」

なごむかと思って」

 私の横で呼吸困難になりそうなぐらい笑い転げているムーレット導師が死なないか心配になる。

「おじいちゃん大丈夫」

 思わず背中をさすりながら聞いたが、大丈夫そうには見えない。

 和むどころか、ごく絵図である。

「昔はおう様のモノマネしてよくおこられてたよねダーシャン様」

 しみじみと遠くを見つめるアーデンベルグさんを見て、心中お察しするだいだ。

「そう言えば言われたね。ただでさえ死ぬほど忙しい原因がヒメカ聖女のろうなのに個人の文官になんかなったら数日で死ぬと思ったからお断りしたんだ」

 ああ、文官が忙しいのってヒメカ聖女のせいだったんだ。

 だん、ヒメカ聖女は派手なドレスや宝石をつけているが、そういうことなのだろう。

「あの、それで言ったらなのですが……最近ナルーラ殿下がセイラン聖女に会いに来るのも何か意図があるのでしょうか?」

 エルマさんの質問に、私は思った。

 あの人はまんばなしをしたいだけで私に会いに来ているだけだと。

 だって、こんな凄いことができるとか、あんな貴重なものを持っているとか、自分のことばかり話して満足して帰って行くのだ。

「それは、いつの話ですか?」

「最近は良くいらっしゃいます」

 ムーレット導師とダーシャン様の目つきが変わった気がした。

「昨日もいらしてました」

 さっきから思案顔だったアーデンベルグさんが、わかったというような顔をした。

「ダーシャン様とムーレット導師が会議などで、絶対に来られない時をねらって訪問しているみたいだね」

 アーデンベルグさんの言葉に、ムーレット導師がニッコリと笑顔を作ったが、目が笑っていない。

「害虫ってやつは本当にやっかいですなー。早めにじょしなくてはのさばらせてしまうことになるのでは?」

「同意見だ。あの二人が絶対に入ってこられない結界でも張るか? ルリをけしかけて二度と寄ってこないようにするか?」

「素晴らしい。空からヒスイにかんさせれば神殿に近寄る前に対処できるかもしれませんね」

 いつも言い争って代理戦争までさせようとする二人が、同じ敵を得て仲良くしている様に何だか感動してしまう。

「ヒメカ聖女の評判が悪いからってセイラン聖女を自分のものにしようとしているってこと?」

 アーデンベルグさんが聞けば、ムーレット導師の額に青筋がいた。

「うちの聖女があんな頭空っぽの男にちょっかい出されるなんて、虫唾むしずが走りますね」

 分からなくもないが空っぽまで言わなくてもいいんじゃないかな?

「セイラン様の見た目がお気にさないようで、かみぐらい染めたらどうだ? とかその色じゃなければな〜とか言って帰っていくんですよ。本当に失礼なんです」

 エルマさん、その話を今する必要あった?

 見れば、ダーシャン様からもドス黒いふんただよっている。

「セイランはそのままで、じゅうぶん可愛かわいい。ふざけるな」

 ダーシャン様の突然の言葉に心臓がビクッとねた。

 何を言ってるんだこの人と思いながらも、心臓のダメージはでかい。

「おお! さすが王太子だけある。セイラン聖女の真実の姿を知らずとも、可愛いと言えるとは」

 ムーレット導師の言葉に、私はび跳ねそうなぐらいおどろいた。

「真実の姿とは何のことだ?」

 ダーシャンの疑問にムーレット導師が口を開こうとするのを、私はあわてて手で押さえて黙らせた。

 何故なぜ私に真実の姿があるってこの人は知っているんだ?

 しんそうなダーシャン様とエルマさんとアーデンベルグさんに私はりそうになる口元を無理矢理上げて笑った。

「ムーレット導師は何を言っているんだか」

 言いながら、かなり無理があると理解できた冷静な頭がにくい。

「セイラン、秘密の一つも打ち明けられないほど、俺はそんなにたよりない男か?」

 ダーシャン様の捨て犬のような瞳に、じゃっかんイラッとする。

 この人、自分の顔面へん高いこと分かっていてやってるのだろうか?

 質が悪いんじゃないか?

「ダーシャン様、乙女おとめの秘密を暴こうなどとはいささかすいなのでは? その点、私は同じ女ですしかくすより打ち明け、共に歩むかくがあります! どうかセイラン聖女の侍女であるこの私にお話しください!」

 エルマさんの演説に怯む私。

 エルマさんの後ろで苦笑いを浮かべるアーデンベルグさん。

「エルマは、僕と共に歩んでくれなきゃ困るな〜」

 もっともなアーデンベルグさんの呟きは、エルマさんによって聞こえなかったフリをされた。

 私にも聞こえたのだから、絶対に聞こえていたはずだ。

 どうようする私がオロオロする中、ムーレット導師がぐったりし始め、そこでようやく、ムーレット導師の口と一緒に鼻まで押さえていたことに気づいた。

「ひゃ! ごめんなさい」

あやうく召されそうになりました」

 ムーレット導師は大きく深呼吸をしていた。

「ムーレット導師だけ知っているのは不公平だ!」

「そうです。そうです」

 不満そうなダーシャン様とエルマさんに、私は深いため息をついた。

「何でムーレット導師は知ってるんですか?」

「私はようせいですので」

 そんな言葉で、片付けられてしまう秘密だったのかと悲しくなる。

「絶対に他言しないでくれますか?」

「ああ、分かった」

「私もちかいます」

 私は、クローゼットにしまっていたトランクを引っ張り出してきて、開いた。

 そこには色とりどりのしょうにウィッグ、コンタクトレンズが入っていた。

「こ、これは?」

 明らかに異様なトランクに、動揺するダーシャン様。

「人の髪ですか?」

 不思議そうにウィッグの一つを手に取るアーデンベルグさんに、私は笑いながら言った。

「これは化学せんですよ。自信ないけど、人の髪から作るウィッグは高額だって聞くし、この手の色で生まれる人は、私の世界にはあまりいませんから」

 私の説明を聞きながら、エルマさんがコンタクトレンズの入ったびんを日にかざす。

「それはガラスです。目に入れると目の色が変えられます」

「目の色が?」

 私は自分の頰の上に人差し指を乗せた。

「これもガラスです」

 周りから、不思議そうに見られる。

「ピンクの髪がここにあるということは、街で見かけた姿も作りものだったということだな」

「はい」

「髪がズレたり取れたら大変だから、頭を撫でられたくなかったのか?」

「そうです」

 ダーシャン様はふーっと息を吐いた。

 言っていなかっただけで、うそをついていたわけではないのだからそんなあからさまなため息はやめてほしい。

「本来の色は何色なんだ?」

 ダーシャン様の核心をついた質問に、私は苦笑いを浮かべた。

みなさんを信用しているから見せます。絶対に誰にも言わないでくださいね」

 私はそう前置きしてから青い方のコンタクトを外した。

 ウィッグは外したら付け直すのが大変だからコンタクトにした。

「この色です」

 そう言って見せたしゅんかん、時が止まったように全員が固まった。

「初代聖女様のようなしっこくの瞳だ」

 ムーレット導師が泣きそうな顔で呟いた。

「えっ? 知っていたんじゃ」

「瞳の色までは」

 騙されたのだろうか?

 他の人には見られたくないから、直ぐにコンタクトを付け直す。

「夜空のような漆黒の瞳、私、初めて見ました」

「僕もです」

 エルマさんとアーデンベルグさんがウキウキとした雰囲気で言えば、ダーシャン様がゆっくりと深刻そうに言った。

「それは、ここにいる人間以外に知られるのはマズイな。凄く危険だ。この世界の人間ならば、のどから手が出るほどしい存在ということだからな」

「だから、隠していたんです」

 私のもっともな言葉に、全員が黙った。

 知りたいと言ったのはそっちだ。

 私は悪くない。

「すまない」

 ダーシャン様は申し訳なさそうに頭を下げた。

 まだ私には名前という秘密があるのだが、そっちは言う必要もないだろうと口をつぐんだのだった。


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ただのコスプレイヤーなので、聖女は辞めてもいいですか? soy/ビーズログ文庫 @bslog

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