森のお家にようこそ
ムーレット導師に案内されたのは暗くておどろおどろしい
実際に生き物がたくさんいて、
「気味が悪いんでずけど」
「仕方がないのですよ。ここには
「魔素?」
私が首を
「今、舌打ちしました?」
「気のせいでは? そんなことより、エリザベート
「はい。初めて聞きました」
エリザベートさんは、『私の言う通りにやればいい』しか言わなかったから、魔素と言う言葉すらはじめましてである。
私がはっきりと
「舌打ちしてますよね?」
「気のせいですよ。では、
「はい」
元気よく返事をすれば、後ろを歩いていたダーシャン様がため息をついた。
「そりゃ、
ムーレット導師はしばらく遠くを見つめてから、
「この世界には
「
私が聞けば、ムーレット導師はパチパチと
「正解です。魔法として消費するのです。ですが、
私はサッと右手を高く上げた。
「ハイ。では、使いきれなかった魔力はどうなるんですか?」
「
魔素が溜まったからおどろおどろしい森になるってこと?
「魔素になってしまった魔力は使えないのですか?」
「そうです。その上、魔素に長く当たっていると
「大変じゃないですか」
「そう。大変なのです。そこで、聖女様の出番になります」
聖女は歌と
「歌って踊ると魔素が魔力になるのですか?」
「
空に持っていく? 日本の伝統的な
「だから、聖女様は月の神ルルーチェフの加護を持ってやって来るのだと言われているんですよ」
ああ、
「魔素が
「セイラン聖女は一を聞いて十を知る才女でらっしゃいますね」
「私が住んでいた世界には異世界に飛ばされた人の本がたくさんあって、似たような話を読んだことがあるだけです」
「そんな
うん。ラノベという名の文献です。
「なので、私が才女ってわけではないですから」
「ご
全然信じていないムーレット導師に私は苦笑いを
その後、どんなに才女じゃないと言っても謙遜だと思っているらしい
しかも、
主に私だけが。
「さあ、あと少しですよ」
ムーレット導師はずっと同じことを言っている気がしてならない。
もう、無理。
そう思った
空気も
その近くに岩を積んだような場所があり、そこから水が
「さあ、着きましたよ」
ムーレット導師は家のドアを開いてくれ、私はおっかなびっくり中を
中は私が想像していた
「ふあ。
都会の
「暖炉はどんな家にでもあるだろ?」
ダーシャン様が不思議そうにしている。
「聖女の世界では
ムーレット導師の言葉に苦笑いしてしまった。
「昔はそうだったみたいですけど、うちはなかったですよ」
「いろりとはどんなものか想像もできないのだが?」
私は、昔祖父と見ていた時代劇を思い出しながら説明をした。
「えっと、家のリビングあたりに穴を
囲炉裏なんて、今や観光地の見せ物だったり、高級な旅館のアトラクションのような
「火事にならないのか?」
「不思議ですよね。建物が全て木製なのに火事にならないんですよ」
ダーシャン様はかなり
「火の
ムーレット導師は何やら、コクコクと頷いていた。
そんな話をしながら部屋を見て回るうちに、私はあることに気づいた。
「
「いいえ。この辺は妖精がたくさんいるので、綺麗好きなやつが勝手に掃除していくのですよ」
「ああ、ほら部屋の
ムーレット導師が指差した先には、フワフワと毛玉のようなものが浮いていた。
毛玉は全部で三つ、ピンクと水色と黄緑色でふわふわと
「ファンシー」
思わず呟いてしまった。
「あの子らが、掃除をしてくれてたみたいです」
ムーレット導師はピョンと飛び上がると、ピンクの毛玉を
乱暴すぎるんじゃないだろうか?
「はい、どうぞ」
ムーレット導師は私にその毛玉を差し出した。
「あ、どうも」
反射的に手を出すとその上に毛玉がぽとりと落とされた。
毛玉は今気がついたが、
「お掃除してくれてありがとう」
よく見ると所々黒ずんでいる。
可愛い動きに何だか
「大して力の強い妖精ではないのに、我が主人様に気に入られるとは生意気な」
ムーレット導師が何かを呟いていたが、私にはよく聞こえなかった。
「ここまで護衛に来るのは、やはり遠いな」
ダーシャン様の呟いた言葉はまったくもってその通りであった。
「護衛なら私がしますよ。ダーシャン殿下」
「いや、そう言うわけにはいかない」
私は前々から思っていたことを、今聞くことにした。
「そう言えば、何で王太子様が聖女の護衛をするんですか? 王太子様ならむしろ護衛対象では?」
その瞬間、空気がピーンと
聞いてはいけないことだったのだろうか?
「逃がさないためですよ」
ムーレット導師がにこやかに
「へ?」
「聖女を
ドン引きする私と何故かニコニコしながら説明するムーレット導師を、ダーシャン様はオロオロしながら口をパクパクと動かしていた。
あれは、言い訳を探しているのかもしれない。
そう思った瞬間、ダーシャン様は
良い言い訳が思いつかなかったのだろう。
そんなダーシャン様を慰めるように水色の毛玉が、ダーシャン様の頭の上でポンポンと跳ねていた。
水色の毛玉は良く見れば犬? みたいな耳とふさふさの尻尾が生えていた。
もしかしたら、黄緑色の毛玉も動物のような見た目をしているのかもと思い、黄緑色を探すとムーレット導師の
毛玉にしか見えないと思ったら、小さな羽を広げだしたので、鳥のようだ。
毛玉に気を取られているうちに、ムーレット導師が私の肩を
「ダーシャン殿下は、王宮にお
ダーシャン様はグッと息を詰めた後、
「そういった意味合いがあるのは認めるが、護衛を導師だけに任せるわけにもいかない。王妃とかそういったことを除いてもセイランは良き同士で妹のような……いや、年上だし、姉のような存在だ。責任もあるし俺が守る」
真剣な
ムーレット導師の肩にいる毛玉も何故か緑の瞳を細めて胸をそらした感じが見下しているように見える。
えっ、なんなの? むっちゃ可愛いんだけど。
思わずニヤニヤしてしまう。
「セイラン、何を笑っている」
「えっ……あ、すみません。妖精さんが可愛くて聞いてませんでした」
はーっと
可愛い!!
両方の
幸せだと思ってしまった。
「ひゃぁぁぁぁぁモフモフ~~~~」
ええ、ダーシャン様とムーレット導師にドン引きした顔をされましたよ。
「セイラン聖女はモフモフしたものがお好きなのですか?」
「
まあ、アニメを見る時間以外で、ではあるが。
「モフモフドウガとは?」
不思議そうなダーシャン様を無視して妖精と
「キャンプとは何ですか?」
ムーレット導師の質問に、私は笑顔で答えた。
「野営のことです」
「遠くへ旅に出るのですか?」
この世界での野営は旅とイコールなのかもしれない。
「庭先にテントを張って焚き火で料理をして夜をあかすだけでもキャンプですよ。
としての野営がキャンプです」
ダーシャン様もムーレット導師も理解できないと言いたそうな顔をしていた。
私は気にせず毛玉達と戯れ、いいことを思いついた。
この毛玉達に名前を付けてあげよう。
ピンクの子の頭を撫でながら、私はぽつり呟いた。
「君達は瞳の色が宝石みたいに綺麗だね」
私は毛玉達を両手に乗せた。
「君はサンゴで君がルリで君がヒスイって呼んでいいかな?」
私がピンク水色黄緑の順に頭を指で撫でると、毛玉達は
「あー! セイラン聖女何をしてるんですか!!」
ムーレット導師が
何かダメだっただろうか?
腕を摑まれた反動で、毛玉達が
毛玉達は床に落ちる
「変身までできるなんて、妖精って可愛い」
はしゃぐ私の手を摑んだままのムーレット導師が深いため息をついた。
「違います。セイラン聖女がこの者達に名を
です」
「妖精は名をもらうと、姿を変えるのか」
ダーシャン様が優しく狼の頭を撫でると、狼はダーシャン様の回りをくるくると回って擦り寄る。
ダーシャン様も嬉しそうに狼の頭を撫で回していて仲良しだ。
「ルリだったか? お前、
完全に犬扱いするダーシャン様を
「ダーシャン殿下、ルリは
ムーレット導師と同調するように梟のヒスイが頷いている。
私は猫のサンゴを腕に抱き
「あっで、話は戻るのですが、ダーシャン様も王太子の仕事があるし、ムーレット導師も導師の仕事があるでしょ。だから、護衛はいりませんよ。ただ、一人ぼっちは
ダーシャン様は何と言ったらいいのか分からないようで口を引き結んだ。
「セイラン聖女、こちらに来ていただけますか?」
そんな中、ムーレット導師が
連れて行かれたのは色とりどりの
「こちらの白い扉を、開いてみていただけますか?」
私は
そこは、新緑の神殿の私の部屋だった。
訳がわからず扉を閉めるとムーレット導師がクスクスと笑った。
「これで、神殿のセイラン聖女の部屋とこの扉が
そう言ってムーレット導師が開いたドアを通るとそこはどこかの路地裏のような場所で、一本先の道でザワザワと
「街?」
私は
「これでこの扉は街に繫がりました。他に行きたいところはありますか?」
「こんな便利なものがあるのですか?」
アニメでしか見たことのない『あったらいいな~』が目の前にある気がしてビックリする私。
それを、慈愛に満ちた顔で見つめるムーレット導師。
「この扉は初代聖女様が作った魔法の扉です。神聖力の高い者にしか使えない扉で、初代聖女様以外では初めて、使える聖女様を見ましたよ」
そうやって言われると、私って結構
「再度聞きますが、他に行きたいところはありますか?」
ムーレット導師に聞かれた言葉に最初に思い浮かんだのは、元いた世界の私の部屋だっ
た。
でも、もうあの部屋すら私の部屋ではないし、行きたい場所など思い浮かばない。
「……行きたい場所……一個も思い浮かばないです」
「セイランはここに来て、まだ日が浅いんだ。行きたいと思える場所なんて知らないだろ?」
ダーシャン様の言葉はぶっきらぼうだったが、私を
「何だか気を使わせちゃいましたね」
「当たり前のことだろ」
ダーシャン様はニカッと笑った。
そんな気遣いに嬉しくなってしまう。
「ダーシャン様は憧れのお兄ちゃんって感じです」
実際の兄なんかより、よっぽど
「兄に対して良いイメージがないから喜んでいいのか困るな」
苦笑いするダーシャン様もダメ兄を持つ人だったと笑ってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます