新生活を始めます
【画像】
あの後、護衛に残ると言うダーシャン様を送り返そうとするムーレット様をどうにか説得して城に帰ってもらった。
あの扉があるなら、あの
ムーレット導師にそのことを言えばもし万が一、扉を使えなくなった時に迷子にならずに
ごめん。道なんて覚えてない。とは口が
二人が帰る前に、三人で街に行き買い物をした。
この世界のお金を初めて見た。
物価はかなり安いと思う。
街に出てみて一番
派手な色もパステルカラーの人もいたが、黒や茶色といった日本に
普段はできるだけセイランのコスプレをして、街に馴染むためには、別のアニメのコスプレにし直すのもいいかもしれないと思った。
その日は
次の日、ムーレット導師が朝やって来て不自由はないかと聞いてくれたが、不自由なんてないし楽しくてしょうがない。
何せ
しかも。ムーレット導師は毎朝様子を見に来てくれるという。
心配だからそれだけは許してほしいとお願いされた。
ダーシャン様はどうしているか聞くと、ムーレット導師が作った私の
時間を有意義に使っているようで安心した。
たまに、白い扉を
私はスローライフを
「あ! ルルハちゃん今日も
「お兄さん、どんなフルーツ? 見せて見せて」
街に行く時の私はフリルのたくさんついたガーリーな服装の『マジカル少女、ルルハル♡ルルハ』の主人公のルルハのコスプレをしている。
髪色はパステルピンクでポニーテール、瞳も両方ピンクのカラーコンタクトを入れている。
明るい元気っ子で
「ほら、味見してみな。『いちご』っていう
この世界の野菜や果物は地球と同じ
昔から聖女を
「
「ルルハちゃんが美味しそうに食べてくれたら、みんな食べたくなっちゃうからね! ほら一つどうぞ」
果物屋さんのお兄さんから、いちごを
「う〜〜ん。美味しい〜。ジャムにしてもいいかも……どうしよう。買おうかな?」
もたもたしているうちにいちごは売り切れてしまった。
残念である。
まあ、慣れたもののように言っているが、森で暮らすようになってから一週間しかたっていない。
街の人達はみんなフレンドリーで治安も悪くないように感じる。
勿論、悪い人がいないわけではないが、
何とも平和に見えるが、街の人達に聞けばあまりいい顔はしない。
「街は
調味料屋のお
「街の中は
調味料屋のお婆さんは困った困ったと言いながら去って行った。
「ルルハちゃん、こんにちは」
街の人達と世間話をしながら買い物を続けていると、
そこにいたのはよく声をかけてくれる騎士様とダーシャン様だった。
「あっ、騎士様! こんにちは」
そして、さよなら〜と言いたいのを
ちょっと
「ルルハちゃんこの街には慣れた? 困ったこととかない?」
騎士様が
「え〜と、
騎士様に話しかけられたのが一番困っている。
「騎士様はお仕事ですよね。頑張ってください」
ニコニコしながら逃げるタイミングを
「おいラグナス、そろそろ行くぞ」
こちらをチラッとも見ないダーシャン様って
そのおかげでバレないようで、そのままこっちを向くな〜っと強く念じた。
「国民を気にかけるのも騎士の仕事じゃないですか!」
「お前の場合は下心が
不満そうな騎士様を
「あいつ、無愛想なんだよ。許してあげて」
「許すだなんて。
「後で文句言われたくないから、行くよ。今日は森に
はーっと深いため息をつく騎士様に私は苦笑いを
「それ、機密情報なんじゃないですか?」
「あっ……ルルハちゃんはそんな情報悪用しないでしょ! 信じてるもん」
私はニコッと笑って騎士様の手を取ると言った。
「とにかく、
「う、うん。じゃあ」
私は手を振って騎士様を送り出した。
しばらく騎士様達の背中を見送っていた私は背後から
「いやー、この街にこんな
絵に
「あの、手を放してもらえませんか?」
私の手を摑んでいる男が
「ええ〜どうしようかな〜?」
こんなあからさまなチンピラはアニメや映画でしか見たことがない。
「俺達と一緒に来てくれるんなら放してもいいよ」
手を放してもらったらダッシュで逃げようと思いながら
「何をしている?」
低くドスのきいた声に、男から小さな悲鳴が聞こえた。
「手を放してやれ」
男の後ろには、立っているだけで存在感のあるオーラを放つ男。
ダーシャン様だ。
見れば調味料屋のお婆さんが、後ろの方で肩を上下させながらゼーハーと
わざわざ私を助けてもらうために、ダーシャン様を呼びに行ってくれたのだと
「この辺は比較的治安がいいと思っていたんだがな、早く手を放せ」
男は
「クソッ」
私の腕を摑んでいた男とは別の男が、ダーシャン様を
ダーシャン様はそれを動じることなく
短剣を投げてきた男は簡単に意識を失い倒れた。
そんな素早い動きで簡単に武器を持った人を制圧できるなんて、ダーシャン様はやっぱり顔面
これは、
「
固まる私を心配して、ダーシャン様が私の顔を
「セイラン?」
バレた!
私は
「あ、いや、
動物的
「とにかく、こいつらは騎士団に任せろ」
そう言って、ダーシャン様は私に背を向けた。
これ幸いと、不自然にならないようにダーシャン様にお礼を言ってから家路を急いだ。
◇◆◇
青い扉をくぐれば、目の前にムーレット導師が立っていた。
「お帰りなさいませセイラン様、それは……変化の
ルルハのコスプレ姿を見ても驚いた様子のないムーレット導師にこっちが驚いてしまう。
「
ムーレット導師は
「私はセイラン聖女と
ムーレット導師は妖精だから、魂の色が見えるようだ。
「そんなことより、この家に結界を張った方がいいのではないかと思ってまいりました」
結界?
首を
本をパラパラとめくると、どうやら
「この踊りでこの辺一体を
「明日聖女が森に行くと聞いたのですが、そのせいですか?」
ムーレット導師は困った顔をした。
「ご存知でしたか。ここまでヒメカ聖女が来るなんてことはないでしょうが、護衛の騎士が来ないとも限りませんから、念には念を入れましょう」
私はムーレット導師の肩をバシバシ叩いた。
「そんな心配そうな顔しないでください。ちゃんと結界張りますから。ただ、街を見て歩いていても平和そうに見えますけど、聖女を森に連れて行くのですか?」
私の疑問にムーレット導師は答えようとした時、緑の
ヒスイはムーレット導師がお気に入りのようで、ムーレット導師の顔に
「この森の家以外は結構な数の魔物がうろうろしているんですよ。セイラン聖女の聖女の力が強いからか、何故か魔物達はセイラン聖女を
心当たりなんて全くない。
私がうーんうーん唸りながら考えていると、ヒスイがホーっと一鳴きした。
「なんだって? そう言うことか」
ムーレット導師は
「ヒスイが何を言っているのか解るんですか?」
「私も妖精ですから。どうやらルリが頑張っているみたいですね」
朝勝手にお散歩に行って夕方帰って来る水色の
「近くに寄って来る魔物はルリが
な、なんて
私が驚いている中、ヒスイが
「夜は、ヒスイが警護していると言っています」
心なしかヒスイが胸を張っているように見える。
「いつもありがとう」
私が口に出してお礼を言うとヒスイは私の肩に移動してきて私の顔にモフモフの
可愛いかよ。
「サンゴは……癒やしを与えると言ってます」
「存在するだけで癒やしですよね。分かります!」
ムーレット導師は納得できないような顔をしていたが、気づかなかったことにした。
まあ、気を取り直して振り付けの本を読む。
本自体には三曲分の振り付けが書いてあるようで、棒人間のような絵で分かりやすく書いてある。
ただ一つ問題があるとすれば、曲が分からないのだ。
「ムーレット導師」
「はい」
いい笑顔でいい返事をされた。
「曲は?」
「?」
あからさまに首を傾げられた。
曲はないのかもしれない。
私は本を見ながら軽くステップを
頭の中でワン、ツー、スリーとカウントしながらリズムを取る。
決して難しい振り付けではない。
「ちょっとやってみるので、
ムーレット導師に本を預けて、少し距離を取って
また、頭の中でカウントをしながら手の振りも合わせる。
気持ちよくステップを踏む足元が何だか
私がゆっくりとお
「ムーレット導師?」
「すみません。あまりにも……」
ポロポロと涙を流すムーレット導師はあまりにも美しくて近寄りがたい雰囲気を出していて、肩に乗ったままだったヒスイが心配そうにムーレット導師の顔を覗き込み、そのくちばしを涙に向かって突き
えも言われぬ悲鳴が
ヒスイは目を押さえて転がるムーレット導師から離れて私の肩に乗った。
気持ち申し訳なさそうにしているから、
しまいには、目を押さえたまま動かなくなったムーレット様を死んでいないか、確認するはめになった。
「だ、大丈夫ですか?」
「ダメです」
キッパリとした返事に、怒っていることだけが伝わってきた。
私は仕方なく目を押さえたままのその手の上に手を置き、
「え〜と、痛いの痛いの飛んで行け〜」
すると、明らかに指先が温かくなった。
もしかして、ただのおまじないが効いてる?
私は何度もおまじないの言葉を呟きながら目の上にある手を
「どうですか? まだ痛いですか?」
しばらくおまじないを続けた後に聞けば、ムーレット導師の目はだいぶ良くなったようだった。
このおまじないも、リズムがあるから歌判定なのかもしれない。
「セイラン聖女、私は数百年生きてきて初めて、こんなに感動しました」
ムーレット導師がしみじみと語る言葉に、
「ダメなところはありませんでしたか?」
「素晴らしいとしか……言葉が出ません」
褒め言葉が
「で、本番はどこでやればいいですか?」
「本番?」
しばらくの
「いや、結界を張る本番」
「もう、張れていますよ?」
私は
すると、家から百メートルぐらいの
あんな音のないダンスでこんなのが張れるなんて。
信じられない気持ちで頭を
「えっ? じゃあ、鼻歌とか歌ったらどうなるの?」
「それはどういった歌でしょう?」
背後からムーレット導師の声がして、そこで自分が考えていたことを口に出してしまっていたことに気がついた。
「鼻歌とは? 初めて聞く歌です」
瞳をキラキラとさせたムーレット導師に歌いたくない! は通用するはずもなく、軽く少しだけと約束をして私は鼻歌を
かと言って、鼻歌は別に鼻歌という曲なわけではない。
鼻歌とはハミングである。
ってことは、何かしらの曲が必要だ。
私はハミングに適している曲を考えた。
簡単なもので言えば、CMソングだろう。
だが、その曲によっては頭から離れなくなり勝手に鼻歌として無意識に歌ってしまう可能性がある。
私の聖女の力が強いのは何となく理解したつもりだが、無意識の鼻歌なんてどんな効果を
なら、何がいいのか?
私は悩んだ末に
簡単な割に最後まで歌える自信のない雰囲気に丁度良さを感じたからだ。
最後は穴に落ちた時の効果音的なものにして、短縮もできそうだ。
「じゃあ、少しだけですからね」
そう前置きをして私はハミングを始めた。
思い出せるところをとりあえず考えながらハミングしているともっと歌いたい
ムーレット導師が私の目の前に
私がムーレット導師の方を見ると、彼の周りに色とりどりの光の玉が飛んでいて、それを気にした様子もなくムーレット導師が音を
拍手は嬉しいが、光の玉の説明が
光の玉はムーレット導師から離れると私の周りをクルクルとひとしきり飛び、外に向かって消えていった。
「軽快な音楽に低級妖精達が一気に集まってきましたな」
少し興奮した様子のムーレット導師に
「さっきの光の玉が低級妖精なんですか?」
私が首を傾げると、ムーレット導師がクスクスと笑った。
わけも分からず笑われるのは気分が悪い。
「何がおかしいのですか?」
ムーレット導師がコホンと
「妖精達はセイラン聖女をかなり気に入って飛び回っていたのに
ムーレット導師は気を取り直そうと、深呼吸をした。
そして、今気づいたと言いたそうな顔をした。
「空気が清められたのがお分かりですか? 軽い病気であれば直ぐに治ってしまいそうですぞ」
ムーレット導師の言葉から読み取るに、私の鼻歌は空気
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