何でこうなった?
キョロキョロ周りを
何だこれ。
「あはは、まるで異世界転移みたいだな〜」
言ったそばから
その中にいた騎士様が私と目が合うと深々と頭を下げた。
「ようこそおいでくださいました聖女様」
いやいやいや、異世界転移の定番とか無理なんだけど。
コスプレイヤーとしてアニメや
いや、だって、私の能力値は私が一番
ゲームで高成績を
そういうのは十代のピチピチの女学生を呼び出せば良いと思う。
「あ、あの〜。
人違いであってほしいと願いながら
「
いや、だから、本人の許可もなく勝手に
「ちなみに、聖女とは何をするのですか?」
ローブの老人は
「聖女様は歌と
世界を浄化ってスケールでかいなー。
「歌と踊りって、私ができないって言ったらどうするんですか?」
「
ローブの老人の
「えーっと、帰っていいですか?」
その場は
いや、だって、
そこで、口を開いたのは騎士様だった。
「まことに申し訳ない話なのですが、聖女様が元の世界にお帰りになった記録は
うわ、帰れないパターンの異世界転移だったのか。
思わず
「導師様、本当にこの者が聖女様なのですか? 聖女様と言えば
ローブの男の一人が私を
言われて気づいたが、私は今コスプレ姿で、コスプレしていなければ、漆黒は別として
「この
「ですが、どう見ても聖女様とは言いがたい見た目で」
ローブの老人はゆっくりとため息をついた。
「……」
せっかく
もし、
「この者はお気になさらず、城にまいりましょう」
導師と呼ばれた老人に
◇◆◇
体感的に一時間ほど歩き城にたどり着いた。
それから長い
「聖女様には、城の奥にある新緑の神殿にてお過ごしいただきます」
「新緑の神殿ですか……」
緑豊かな場所なんだろうな。
周りも
「アレは?」
私の言葉に、導師の老人が
「あれは花の神殿で、あそこにはヒメカ・チョウノと言う聖女様がいらっしゃいます」
え? 聖女? 私以外にいるの?
私が
「我々には貴女様が必要でございます。ご説明は神殿の中で」
老人の後を追いながら他のローブの人達を見ると、
新緑の神殿の中は古い建物だが、
案内された部屋は応接室のようになっていた。
「お座りください聖女様」
促されるままソファーに座ると
「さて、
色々ツッコミたいのを
「ヒメカ聖女様は第一王子様がきちんとした手順を
言いづらそうに言葉を
「私だって聖女らしい見た目もでもないみたいですし、能力がないかもしれませんよ」
導師様は
「それでも、私を信じてここまでついてきてくださったではありませんか」
「それだけで? あの、お疲れ
導師様からは言うことを聞かない新入社員と
「慣れてますので。それよりも、こういった理由で聖女様が二人いる状態ですので、お名前をうかがってもよろしいでしょうか? 我々が
私はしばらく考えた。
本名を名乗るのは大丈夫だろうか?
もう一人の聖女はフルネームを明かしているのか?
名前で
それでも、絶対にないとは言いきれない。
「私のことはセイランとお呼びください」
私、本名 「
「セイラン様ですね。美しいお名前だ。自分は魔導師を
導師様も優しく自己
「そして、最後にこちらの騎士様ですが、彼は我がランダラ
「え?」
思わず口から不信感が
目の前にいる騎士様が第二王子で、更に王太子であるとか……深く考えたら負けだ。
見た目は
「ダーシャン
王太子で騎士団長って、
「えっと、聖女って危険なんですか?」
私の質問に全員が視線を
「あの、本当のことを言ってください」
私が食い下がると、導師様がニッコリと笑った。
「なあに、我が国では月の神の加護があるため、
こともあり、聖女様はどんな国でも
「帰りたい」
小さく呟いてしまったのは、悪くないと思う。
「自分が
耳に
◇◆◇
召喚されたその日の夜、ようやく一人になれた私は考えた。
もし、今の
はっきり言って三日生きられたらマシだろう。
その理由としてあげられるものの一つとしてもっとも重要なのは、私の社交性のなさである。
仕事であれば、社会人コスプレをしてできるいい女になりきることにより社交性のある人間を演じられるが、中身の私は社交性なんてないに等しい。
ないに等しい社交性をコスプレすることで補っているというか、装備していたのだ。
だが、今している『セイラン』というキャラクターは社交性があまりない。
装備としては不十分だし、やる気で言ったらゼロのキャラクターである。
作中で言えば、常にだらけている上に無気力、他人の評価には関心がないがやれば天才的なダンスを踊れるキャラである。
そんな『セイラン』の性格が、この世界で生きていけるのか?
『セイラン』にこだわる必要はないから、トランクの中にある別のキャラクターになることもやぶさかではないのだが、いかんせんこの世界の
その上、魔法があるのは分かっていたが、魔法を使える人は
お金の単価も解らないし、このままでは生存すら難しいと思う。
その点、ムーレット導師は私が聞いたことを一から十まで教えてくれる優しいおじいちゃんなので着実に常識を手に入れることができ始めていた。
そして、数日新緑の神殿にいたことで見えてきたのはムーレット導師の他に力を持つ導師がいて、そのもう一人の導師がヒメカ聖女を召喚し力をつけていっているということ。
その導師は、ムーレット導師が今いる筆頭導師の地位が欲しいのだと聞いた。
おのずとムーレット導師がダーシャン第二王太子の
今までの人生で派閥争いなんて
会社なんて
召喚されてから三日目、そんな派閥争いなんてものが神殿には関係ありませんよ! と言いたいがために選ばれた講師がやって来た。
ムーレット導師は反対したようだが、前聖女から直接の指導を受け、聖女の歌と踊りに関して
「これより、聖女に歌と
このエリザベートさんがなかなかの食わせ者で、周りに人がいれば害はないのだが、
脅しだけとはいえ、そんな仕打ちをされれば、意地でもできないフリをしようと思ってしまう私は
朝起きてから三時間みっちり発声練習、その後
体操、ハードな筋トレの後にお昼ご飯を出されてもお
午後もたくさん発声練習したり基礎体操させられたり国の歴史を習ったり、一般常識を習ったり多忙すぎる。
こんな生活に
ああ、
「ヒメカ聖女様は直ぐにできたことが貴女にはできないのですのね」
そして、エリザベートさんはやたらとヒメカ聖女と私を比べた。
私から言わせてもらえるなら、この人の歌も舞も見たことがない。
様子見で歌も舞もできない演技をしたら鼻で笑い、鞭を取り出してきたのだ。
SMの女王様気取りも
まあ、幸い本気で鞭を
私を
いつかこの新緑の神殿を出て行く時には、あの鞭へし折ってやりたい。
まあ、基本
そんなことより、実は気づいたことがある。
聖女の歌は音楽の教科書で習うレベルの歌だ。
一番初めに習ったのが小学生の時に誰もが習う春の歌だった。
よって、聖女は日本人女性であると決まっているように思えた。
「こんな基礎中の基礎もまともにできないなんて、ムーレット様の顔に
彼女の嫌味は社会人をしてきた|私にはいささかパンチの少ないものに感じた。
「そんなふうに言ったら
この日、私は初めてもう一人の聖女に会った。
発声練習中、勢いよく
ザ・ライトノベルのヒロインといった見た目だ。
ダークブラウンの髪に茶色い瞳の純日本人顔から、この子が
「ヒメカ様! ヒメカ様がこんな何もないところにお
エリザベートさんは
「貴女がセイランさんね! へー赤髪にオッドアイとか日本人じゃないのね。ってか地球人でもないか。フフフ私がこの歌のお手本を見せてあげるね」
そう言ってヒメカ聖女は、やはり小学生の時に誰もが習う春の歌を歌い出した。
その歌のおかげか、今まで植物の生えていなかった新緑の神殿の周りに小さな雑草の芽が生えたのだと窓の外を見て分かった。
「
エリザベートさんに
「フフフ、セイランさんも私を見習って
それだけ言うとヒメカ聖女は帰って行った。
私は課題だらけで大変だけど、あの人
「ああ、ヒメカ様はなんて美しく
私に聞こえるように独り言を言うエリザベートさん。
独り言に返事をしては失礼だろうから聞こえないフリをしてあげた。
私は空気の読める大人だと実感する
「聞いてますか? これだからダメ聖女は」
どうやら独り言ではなかったようで、聞こえないフリは正解ではなかったみたいだ。
「もう一度言ってもらっていいですか?」
「もういいです」
ぷりぷり
◇◆◇
その日の夜、過度の理不尽な課題にストレスで
ウィッグとコンタクトを付け直すのは、はっきり言って
そんなわけで、コスプレ
「君の召喚した聖女はどうやら残念な女性だったみたいだね」
「自分は残念だと思っていません」
「フフフ。ヒメカに力を貸してほしければいつでも言ってくれていい。王太子の座を
「……そんな時が来れば」
自分が巻き込まれるのは嫌だが、話だけなら気になる乙女心。
いや、野次馬
そんなことを思った瞬間。
「クソ、誰が王太子になんかなりたいと言った」
悪態をつきながらガサゴソと音を立てて出てきたのは間違いなくダーシャン王太子だった。
「あーお散歩ですか? セイラン聖女」
「はい。あの、たまたま聞いてしまいまして……ダーシャン様も何かと大変なんですね。もし、話して気持ちが楽になるならお話聞きますよ。
前の会社の
たんじゃないか? とたまに思ってしまうことがあったから出た言葉だった。
ダーシャン王太子は数回
「聖女様、愚痴らせていただいてもよろしいでしょうか?」
「勿論です……あっ、ちなみに聞かなかったことにしてなかったことにもできますが?」
話したくなかったかもしれないから聞いたのだが、ダーシャン王太子の瞳には
「いや、むしろ聞いてください」
ブラック
「場所を移しましょう」
ダーシャン様はそう言って私の
逃がさないと言いたげな意志を感じてしまい、
連れて来られたのは新緑の神殿の何もない庭にポツンとある
「ここなら誰が近づいてきても解ります」
誰にも聞かれたくないから全方位を確認できる場所を選ぶとは。
「どこから話しましょうか? ああ、さっき話していた男が
「勿論、アレが最初は王太子でした。学園を卒業後、
この人、無口キャラかと思ってたけどむっちゃ
彼はゼーハーしながら喋り終わると、深呼吸をした。
「自分は王位
「ダーシャン様は、頑張ってますよ」
項垂れたままの彼の頭を優しく
ダーシャン様はゆっくりと顔を上げ、困ったように
「子ども
「
私が胸を張って言えばダーシャン様もハハハと笑ってくれた。
「それに、そんなに嫌だったら逃げちゃいます? 私も
ダーシャン様はキョトンとした顔の後
相当
元より『逃げる』と言う言葉を
誰もが仕事と理不尽を抱えていて、私にいたっては心的外傷を負っている。
心的なら元々ブラック企業で働いていたから
「素晴らしい案ですね。逃げてしまえば無責任だと王太子から外してもらえるかもしれない……一緒に逃げちゃいましょうか」
ダーシャン様はその辺にいそうな
「ダーシャン様って王族ですけど、
「
「わ、便利~」
「せっかくだから酒でも持って来ればよかった……いや、セイラン聖女は未成年ですよね?」
「いや、成人してます。えっ? いくつに見えてます?」
ダーシャン様はアゴに手を当てマジマジと私を見た。
「十二、三ぐらいかと」
「若! そんな幼く見えるんですか?」
「最初は十五、六ぐらいの少年かと……」
ダーシャン様の視線が
「セクハラって知ってます?」
「セクハラ?」
言っておくが胸にはサラシを巻いているから、少年に見えてもおかしくない。
「女性をジロジロ見るのはマナー
「……失礼、セイラン聖女は実際いくつでしょうか?」
私は苦笑いを浮かべた。
「二十一歳です」
「えっ? 自分より二歳上……」
「年下だったんですね。この国の成人っていくつですか?」
「十五ですね」
十五歳で成人か、その年の私は夢も希望もある若者ではなく、ただ漠然と学校に通っていた気がする。
「ヒメカ聖女はいくつですか?」
「さあ、興味がないので……」
ダーシャン様は私から視線を逸らし遠くを見つめる。
「やっぱり酒を持ってきましょうか」
ダーシャン様がバッと立ち上がった。
「いいですね」
ダーシャン様はちょっと待っていてほしいと言って走って行った。
しばらく星を見ながら待っているとお酒とグラス、簡単なおつまみを乗せたおぼんを持ってダーシャン様は帰ってきた。
「
楽しそうにお酒をグラスに注ぎ私に差し出す。
もう一つのグラスにお酒を注ぎ、
お酒の入ったグラスを優しく合わせて乾杯をすると、私達は一気にグラスの中身を飲み干した。
ゆっくりちびちび飲むのが正解だと解るほどの高そうな
「いい飲みっぷりですね」
「セイラン聖女も
ダーシャン様の『聖女』呼びが何だか鼻につく。
「聖女をするつもりはないので、セイランとお呼びください。あと、
「そうだな。ではセイラン、もう一
美味しいお酒に、お
「そう言えば今日、ヒメカ聖女の歌と踊りを見せてもらいました」
「そうなのか?」
「
ダーシャン様は少し私を
「聖女は歌も踊りも生まれ持って
私は声を上げて笑った。
「そりゃそうですよ。わざと下手なフリをしてるもん」
「へ?」
この人は
私は楽しい気分のまま、キラキラと
歌い終わりダーシャン様の顔を見ようとしたが、彼は私ではなく東屋の周りを見て固ま
っていた。
「ダーシャン様?」
「セイラン……
首を
東屋の周りは森になっていたのだ。
数分前まで土しか見えてなかった場所に木々が
「……逃げよう。こんな
ダーシャン様はしみじみと呟きながらグラスに残ったお酒を飲み干したのだった。
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