過ぎ去る時間 (ムーレット目線)

 

 ようせいである私にとって聖女様とは母であり姉であり妹のような存在と言っても過言ではない。

 生まれたての私に『ムーレット』と名前を付けてくれたのが初代聖女様だった。

 夜空のやみすらしっしそうなくろかみ黒目が印象的な方だった。

 名をあたえられ、力をつけた私は聖女様のために生きている。

 初代聖女様はこの国の国王と大れんあいをし、死ぬまで国を守護した。

 私はそれを助け助言する存在に、おのずとなっていった。

 むかえられる聖女様はみな平等にあいに満ちた美しい女性達で、皆等しく国王とこいに落ちた。

 聖女様と国王がけっこんすれば国が栄える。

 そういったことではない。

 それが運命だと言わんばかりにかれ合うのだ。

 じゃすいする者もたくさんいるし、悪意のあるぶんけんを残すやからもいる。

 だが、いつも近くでことのだいを見てきた私に言わせれば、国王は聖女様に恋をする。

 聖女様の内面の美しさに惹かれない男などいるものか。

 聖女様達はそんなおもいを寄せる男性の中から、王に相応ふさわしい相手に心惹かれるのだ。

 だから、今回もきっと国王になる人物と恋に落ちるのだ。


 今回の、聖女として呼ばれたのは二人の女性。

 一人は第一王子が勝手に呼び出した聖女ヒメカ。

 もう一人は決められた日時の決められたしきで呼び出された聖女セイラン。

 明らかな力の差は、月の神であるルルーチャフ様のさいはいなのだろう。

 ただ不思議だったのは、セイラン聖女のかみひとみの色が今までの聖女様達とはおおはばに異なる色だったことだ。

 赤い髪はこの世界ではめずらしくないし、赤と青のオッドアイも黒や茶色の暗い色でない限り、色ちがいでも珍しくはない。

 だが、見た目がどうこうで判断するなんて馬鹿の考えだ。

 彼女からあふれる月の気配は今まで感じたことがないレベルだった。

 ルルーチャフ様が姿を変えて出てきたのではないかと思うほどの月の気配。

 それを感じることができるのも、私が月明かりの妖精だからだとは今までだれにも話したことがない。

 ゆいいつ知っているのは、初代聖女様だけだ。

 そんな月の気配を身にまとったセイラン聖女は見た目のせいで、力不足のらくいんを押されてしまっていた。

 彼女がそんなふうにかろんじられる存在でないことは私が一番良く分かっていた。

 だから、セイラン聖女の思う通りにしようと思った。

 げてしまいたいならのがしてさしあげよう。

 彼女がこの国がほろんでしまえばいいと願うなら、そうしてみせる。

 だが、彼女はゆっくりとおだやかな生活だけを望んだ。

 森の初代聖女様が使っていた家に連れて行けば、彼女はすごく喜んだ。

 一人で住むとなれば、さびしかったりしないだろうか? と思っている私を嘲笑あざわらうかのように、彼女は妖精とけいやくしてしまった。

 灯火ともしびの妖精サンゴ、雪風の妖精ルリ、そして、の妖精のヒスイだ。

 この妖精達は月明かりの妖精である私より力の弱い妖精で、けものの姿をしていた。

 サンゴはねこの姿でセイラン聖女をやし、ルリはおおかみの姿で彼女を守り、ヒスイがふくろうの姿で危険を察知して私にれんらくしてくれる。

 らしいれんけいができるはずなのに、ルリとヒスイはあまり仲が良くない。

 サンゴがいてくれて良かった。

 あの三びきの中で一番力があるのはサンゴだ。

 灯火とはいえほのお系の妖精だけあって、雪風の氷と風の属性にも、木漏れ日の緑の属性にも勝てる。

 二匹はサンゴをおこらせないはんけんをしているようだ。

 セイラン聖女に、私とダーシャン王太子がめるから代理戦争のようにルリとヒスイがぶつかり合うんじゃないか? と言われたが、私の場合いずれセイラン聖女の心をうばうであろう男にってかるのは仕方がないと思うんだ。

 私にとって聖女様は母であって姉であって妹なのだから、家族をよめに出したくない気持ちや、多少の意地悪ぐらいにはえてもらわないと。

 そう簡単に嫁に出してたまるか。

 いずれ誰よりも大事にされるにくらしい男に少しだけかんかせぎにこじれればいいのに、とか思ったってバチは当たらないはずだ。

 これまでの聖女様とこいなかになった王族は全て、私の試練に耐えてきたのだ。

 一人だけ例外なんてあるものか。

 今だって、おを口に運んでもらうダーシャン王太子のじゃはしなかった。

 セイラン聖女が何だか楽しそうにしていたからのがしてあげたんだ。

 だから、さっさと帰ればいいのに。かなりうらやましいからもっと意地悪しなくて済むように。

 また、ルリとヒスイが参戦してきて、セイラン聖女があきれている気配を感じる。

 ああ、この楽しい時間が長く続けばいいのに。

 まあ、毎回聖女様のお子様達がそうめい可愛かわいくて、私を見てジィージと読んでくれた時に全て許す気になってしまうのが不思議なところですよ。

 それまでは、事あるごとに邪魔したり意地悪してしまうかもしれませんが、許してください。



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