事件は突然に
その日も私は、街に遊びに来ていた。
いつもと変わらない
昔、聖女様がもたらしてくれた調味料なのだと言う。
このことに関しては、聖女様様だと思う。
日本人としては和食が食べられないってだけで死活問題だからだ。
「おや、ルルハちゃんいらっしゃい。今日は何が
味噌と醬油を
「どうしようかな〜って
「ゆっくり見ていきな」
私は
うどんなら見よう見まねでできそうな気がすると思いながら味噌を買うことを決めた。
そんな時、店の外が
「どうしたんだろうね?」
お婆さんは外を気にして窓から外を
「広場に人が集まっているね」
街の中心にある広場で何かをやっているようだ。
「ちょっと見てきますよ」
私はお婆さんにそう言って広場に向かった。
広場には、ヒメカ聖女と第一王子率いる真っ白い
周りは野次馬で
「あの、何を
近くにいた野次馬の一人に聞いてみれば、第一王子達が広場で何かするので見に来いと白い甲冑の人達に呼ばれて来てみたら、第二王子が
「ナルーラもダーシャンも私のために争わないで!」
ヒメカ聖女の
「ヒメカ聖女のためにではなく、街の住民の安全のために言っているのです」
ダーシャン様の冷えきった冷静な返しに彼の心労が
「心配する必要はないと言ったはずだ、何せこれから真の聖女が
ヒメカ聖女達の後ろに
人がたくさんいて良く見えないが、何だか黒々としているということは何となく分かる。
「さあ、
第一王子の声に今まで彼の
同じ日本人のならどこかで聞いたことのある人気のアイドル曲を
あのアイドルの振り付けってそうなってたんだ。
少し感動しながら彼女の踊りを見ていたら、さっきの籠に入っていた黒い
すると、周りで一部始終を見ていた人々から
「これで安心して暮らせる」
「さすが聖女様だ」
「
人々の声に
だが、私からしたら何だか
ルリが
それに、あの黒いものが本当に
「今回の聖女は
気がつけば、
「というか、あれは本当に魔物だったのかね?」
周りは
「ルルハちゃん。あんなのほっといてお店に
店に入っても聞こえる街の人達の歓声にお婆さんは深いため息をついた。
「あの中でまともだったのは第二王子と副団長とルルハちゃんだけだなんて、本当に情けない話だね」
お婆さんは私にお茶を出しながら文句が止まらない。
「私はね、小さい
お
「前聖女様はこれが好きでね」
昔を
「私は胡瓜に味噌を付けて食べるのが好きです」
お婆さんはキョトンとした顔をした。
「それはやったことがないね」
「
そんな世間話にお婆さんはクスクス笑ってくれた。
「ルルハちゃんみたいな子が聖女なら何も問題ないんだけどね」
私が首を
「この街はね、二代前の聖女様が張った結界の中にある街なんだよ。それがどういうことか分かるかい?」
私は腕を組んでしばらく考えた。
「魔物は入れないんじゃないんですか?」
お婆さんはフンっと鼻で笑った。
「その通り、ということは、さっきのは魔物でないか、結界がなくなってしまったかのどっちかということだ」
えっ、それって一大事じゃないか?
「結界」
森の家に張った結界を思い出してみても、あのダンスをどれだけ踊れば街全体を
「お婆さん、前の聖女様のお話もっと聞かせて」
私が
「前の聖女様は今の国王の母親だ。優しくてそれでいて
そ、それは王宮スキャンダル的な話では?
「宰相様はエルフの血筋だったから美しいし話は
何ともゴシップ誌に書かれていそうな展開に私は胡瓜とお茶を口にしながら聞き入った。
「そんな聖女様の側にいつも
「なにそれ
私には
「宰相様は前聖女様が死ぬまで、やり直してほしいと
はー、いい話を聞けた。
聖女とは国に利用されるために
少し安心した。
「さっきの広場にいた聖女様は前聖女様と似たような
「まあ、世間話はこれくらいにして、さっきの黒いのが何だったのか、ちゃんと調査してほしいものだよ」
私は先程ヒメカ聖女が歌って踊っていたのを思い出していた。
決して下手ではない。
いや、歌は踊りながらだったし、ちょっと下手かもしれないが、踊りは
あれが本当に浄化の踊りだったのかはよく分からないが、効果はあるのだろう。
実際、黒いものは彼女の歌と踊りで消えたのだから。
「……私、そろそろ帰りますね。あ、それと、
「ああ、いいよ」
お婆さんは私に醬油と味噌を
「あ、お金」
「それは味見用だよ。次はどっちを買うか決めておいで」
私はお婆さんの優しさに感激してしまい、
◇◆◇
青い
「仕事はちゃんと終わらせてから来ましたよ」
そう言って笑うムーレット導師にさっき見たことを事細かに説明することにした。
私の話を終始笑顔で聞いていたムーレット導師はゆらりと白い扉に歩いて行ってしまった。
しばらくすると、首根っこを摑まれてプラーンとしているラグナスさんを連れて戻ってきた。
「ダーシャン殿下は何かと
忙しくなさそうだったら、ダーシャン様をこうやって連れてくるつもりだったのか?
「俺、副団長なのに老人に……」
両手で顔を覆ってしまったラグナスさんが
私とダーシャン様には本来の姿が見えるようにしているようだが、ラグナスさんは
「あー、うん。
私のお願いに、ムーレット導師はふーっと息をつくと、ぽいっとラグナスさんを投げて捨てた。
「さあ、広場であったことを洗いざらい話しなさい」
ムーレット導師の
「ことの始まりは、第一王子が突然の思いつきで森に行くと言い出したことでした。俺とダーシャン様に報告が上がってきたのは門を出た後で、慌てて追いかけたのですが、思ったよりも早くお帰りになり安心したのも
言われた内容にムーレット導師は腕を組んでしばらく悩むと、口を開いた。
「それは魔物でも魔獣でもないでしょうね。門をくぐれたということは」
「そうなの?」
ムーレット導師はニッコリと笑った。
「
私だって家にかけた結界を一度もかけ直していないのに持続しているのだから結界って長持ちするものなのかも。
「普通でしたら聖女様が
ダーシャン様の言葉に私はスッと手を上げた。
「じゃあ、この家にかけた結界はどれぐらいもつんですか?」
ダーシャン様は不思議そうに私を見つめて言った。
「最短で五百年とかですかね?」
私には自分では計り知れない力があるのだと、その時初めて理解した気がした。
「あれが、魔物でも魔獣でもないとなると何だったのでしょうか?」
ラグナスさんが不安そうにムーレット導師に聞く。
「さあ、ですが、ヒメカ聖女の力は
ムーレット導師の言葉に、ラグナスさんはあからさまに
「俺もダーシャン様も必死に止めに行ったのに」
ラグナスさん、街でたまに会う時はちょっとチャラそうだけどモテ男子だと思ってたのに、不憫な人の印象が強くなってしまった気がする。
「ラグナスさん、とりあえずリラックスできるお茶でも飲みませんか? ガトーショコラもありますよ」
私がお茶を
「ルルハちゃん、マジ天使!
軽いノリの悪ふざけに私は苦笑いを
「女の子はプロポーズに憧れがあるんです。だから軽々しく言っちゃダメですよ」
私が軽く注意すると、ラグナスさんはまた項垂れてしまった。
そして、ゆっくりとお茶とガトーショコラを食べた。
「もっと
ラグナスさんは
行きと変わらずムーレット導師に首根っこを摑まれてぷら〜んとしていることが気になって話の半分も頭に入ってこないけど、とりあえず
ラグナスさんを返しに行ったムーレット導師は、次にダーシャン様を連れて帰って来た。
連れて来たとはいえ、さっきのラグナスさんのような雑さがあるわけではなく、ダーシャン様がついて来てしまったという印象だ。
「お
私は
お疲れなのは分かっている。
ムーレット導師が代わりにラグナスさんを選ぶぐらい忙しそうにしていたのなら、甘いもので疲れを
ダーシャン様は家のダイニングの
「づがれだ」
ダーシャン様は顔を上げずに、何があったのかを話して(
「何だか解らない黒い生き物を街に入れないように注意していたはずが、ヒメカ聖女が何を血迷ったのか『私のために争わないで』とか大声で叫んだせいで、兄からヒメカ聖女を
「甘いものでも食べて、落ち着きましょう」
ダーシャン様はゆっくりと頭を上げて私を見上げた。
上目
心臓に
思わずフォークでガトーショコラを一口大に切り口元に運んであげたら、
人様に食事をさせるなんて家族にもしたことがないから何だか楽しくなってきて、全てのガトーショコラを口に運んであげた。
達成感が
満足する私を
「ダーシャン殿下、
ムーレット導師の言葉に、ダーシャン様はダイニングテーブルを抱え込むように摑み、一歩も動いてたまるかと言いたげな態度を示した。
帰る帰らないの
毎度のことながらルリはダーシャン様を守るように横に立ちグルグルと
私は足元に
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