第80話 バレンタイン
2月14日、この日は男子なら誰でもドキドキする日。
俺、バレンタインなんて興味ないからって言う奴はバカです。
まあ俺も橘と付き合う前はそう思ってたけど。
そんなバレンタインデーだが、
去年は彼女はもちろんいなかったからチョコなんて母親からしかもらえなかった。
しかし今年は違う、
俺の彼女である「超絶美少女黒髪清楚ギャルお嬢様」の橘がいる。
最近、橘をこの肩書きでふざけて呼ぶことがある。
橘はやめて、と嫌がってるが、
橘を表すのにこれほど良い表現は他にない。
橘はどんなチョコをくれるのだろうか。
手作りかな?市販のいいやつかな?
どれでも気持ちがこもっていたら嬉しい。
お返しは何にしようか。
すでにホワイトデーのことを考えてしまう。
そしてバレンタインデー当日。
「今年は京子ちゃんから貰えるわね」
母さんが玄関でそうからかってくる。
「いや、去年も貰ってたし」
謎の強がりをみせてしまう。
男は強がりたい人間だ。
そんなやりとりをしながら家を出る。
学校までの通学路を歩いていると、
いつもと違う様子が見られた。
通り過ぎる男子生徒がなんかカッコつけてる。
昨日まで髪がボサボサだった奴が散髪して髪を整えている。
中には新しい靴や背筋をピンと伸ばして歩いている奴もいた。
いや、当日にカッコつけても遅いんだって。
急にチョコ渡そうとか思わないだろ!
なぜ気づかないんだ・・・
男子たちがあからさまに女子の横を通りすぎる時にそわそわしているのがわかる。
まあその気持ちはわかる。
でも今年の俺は少し違うぞ!
彼女がいるという絶対的な安心感があるからな!
フフッ、これが優越感か。
校門を通って昇降口まで行くと、
何人かの男子生徒が自分の下駄箱を覗き込んでいた。
そう、下駄箱は男子のバレンタインの第一のチャンスだ。
持論だが、バレンタインでチョコが貰えるポイントは大体3つだ。
まず下駄箱、そして次に机の中、最後は放課後だ。
俺も自分の下駄箱をよく確認する。
・・・チョコは入っていないな。
うん、まあいい。
橘は教室で渡してくれるんだろう。
机の中に入れてたりして。
そして教室に行く。
教室に入ると甘い匂いが香ってきて、女子たちがそこら中でチョコを交換し合っていた。
友チョコってやつか。
さあ、第二のチャンスだ!
自分の席に座る。
いつも教科書は机の中に置きっぱにしているが、
昨日のうちに全部家に持って帰った。
決してチョコが入れやすいようにしたとかではない。
うん、決して違う。
机の中に手を入れる。
周りにはチョコがあるか確認していることを悟られないように、
平然とした顔でノールックで確認する。
・・・ない。
何度も机の中を確認する。
ない、ない。
いや!まだ焦る必要はない・・・うん、大丈夫だ!
橘は直接渡してくれるんだろう。
そうだろう、いや、そうであってくれ!
少し不安になっていると、
「おはよ!」
はい、待ってました。
来ました、愛しの橘さんが。
「おはよー」
今日はバレンタインだよ?ということは自分から言わない。
待とう、チョコを渡してくれるのを。
さあ、いつ渡してくれるんだい?
橘は俺との挨拶が終わると鞄を机の上に置き、
中から大きめの紙袋を取り出した。
キタキタ!
どんなチョコなんですか!
橘の方を向いて受け取る気でいると、
橘はその紙袋を持って離れていく。
・・・あれ?
橘はクラスの女子たちに紙袋の中に入っていたチョコを配りだした。
な、なるほど!その紙袋は配る用のやつね!
俺のは別に用意してあるんだよね!?
なんだか不安になってきた。
橘がチョコを配り終えて席に帰ってくる。
手には女子からもらった大量のチョコを抱えている。
「こんなに貰っちゃった!食べきれるかな?」
「へーよかったねー」
「なんか変だよ、一馬くん?」
「え、変?気のせいじゃない?」
「目がバキバキなんだけど」
「ソンナコトナイヨー」
橘、なぜくれないんだ。
もう俺はチョコの口になってしまっている。
「おい一馬!今日はバレンタインだぜ?」
蓮がいきなり話しかけてきた。
「そうだな」
「チョコもらえるかなー」
お前は梅澤から貰えるだろ。
「あ、蓮、チョコあげるー」
「え、マジで!?」
橘が蓮にチョコを渡す。
ちょっと!どういうこと!?
俺は?横に一番渡さないといけない人がいますよ!
蓮は橘からチョコを受け取るとすぐに開けて食べ始めた。
俺も食べたい・・・
すると、
「蓮くん!これ!」
教室に入ってきた他クラスの女子が蓮に丁寧に梱包されたチョコを渡した。
しかも手作りだ。
そうだ、こいつがモテるの忘れてた。
「え、ありがとう!」
蓮が嬉しそうにチョコを受け取る。
いや!彼女がいるのにチョコもらうなんて、そういうのダメだと思う!
うん!そのチョコ俺に渡してくれ!俺が責任を持って食べるから!
そんな羨望の眼差しで蓮が受け取ったチョコを見つめる。
「・・・一馬どうした?」
「蓮は人気者でいいねー」
「なんか怖いんだけど」
怖くないよー。
「ちょっと蓮、そのチョコ誰から貰ったのよ」
梅澤が教室に入ってきた。
手には小さな箱を持っている。
「これは、他のクラスの女の子だよ」
「ふーん、じゃあこのチョコはいらないねー」
梅澤が帰ろうとする。
「ちょっと待てって!頂戴そのチョコ!」
「えー、どうしよっかな?」
イチャイチャすんじゃねぇー!
俺は今甘いもの不足なんだよ!
「あ、あんたにもね」
梅澤が俺にチョコをくれた。
透明の小さな袋にチョコがいくつか入っている。
手作りだ。
「え!俺のために作ってくれたの!?」
「違うわ!蓮のために作ったやつの余り物よ!」
よかった、これで報われた・・・
あとは橘のチョコを貰えれば大満足だ。
しかし橘は一向にチョコをくれる気配はない。
そして昼休み、授業終了と時間は過ぎていった。
授業終了のチャイムが鳴る。
さあ、放課後、これが最後のチャンスだ!
ゆっくりと帰る準備をする。
橘、いつでもいいぞ?
「よし!一馬くん!」
きたぁぁぁ!
「帰ろっか!」
あら?
「え、もう帰るの?」
「うん!今日は部活休む!」
もう我慢できない!
「橘!今日ってなんの日か知ってる!?」
「え?バレンタインデーでしょ?」
「そう!バレンタインデーはチョコをあげる日だよ!?」
「うん、そうだね」
「いや、もうわかるだろ!?」
まさか、俺の存在を忘れてたとかじゃないだろうな?
「え、チョコ欲しいの?」
「・・・うん」
橘がニヤッと笑う。
「用意してます」
「マジで!?」
「じゃあ私の家まで来てくれる?」
「え?う、うん、いいけど」
そして橘の家に連れてこられた。
リビングで目隠しをされたまま待たされる。
なんか遠くで音が聞こえる。
なにしてるんだ?
ゴロゴロと運んでくる音が聞こえる。
え?チョコをくれるんだよな?
「準備できた!じゃあ目隠しとっていいよ!」
言われた通り目隠しを取るとそこには、
橘の等身大のチョコがあった。
完成度が高すぎる。
細かい姿勢や肉付きが完全に橘だ。
まるで橘にチョコをぶっかけたみたいだ。
「え、これなに?」
「なにって私の等身大チョコだよ!」
「いや、それはわかるけど・・・」
「え!?嬉しくないの!?」
「う、嬉しいよ!?でもちょっと予想外だったから」
「ならよかった!じゃあ食べて?」
食べてって、どこから食べたらいいんだ?
じゃあ、手から。
ガブリと橘の等身大チョコの手にかぶりつく。
「あー!一馬くんが私の手を食べてる!」
「美味しい!橘の手、美味しい!」
「高級チョコだよ!」
そのまま手以外もかぶりついていると、
チョコが溶けてきたのか、橘の等身大チョコの首がゴトンと落ちた。
「あー!私の首がぁ!」
床に落ちた橘の首がリビングをゴロゴロと転がっていく。
「待て!私の首!」
2人で首を追いかける。
まさかバレンタインデーにこんなことをしてるとは。
橘と一緒にいたら飽きないな。
楽しい、幸せなバレンタインデーだ。
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