第81話 秘密の和室
それを知ったのは橘の家に遊びに行った時だった。
俺がトイレに行こうとした時、
なんとなく橘の部屋に戻る前に回り道をした。
階段を上がれば橘の部屋に行けるが、
そこを通り過ぎて奥の和室を見に行った。
和室には高級そうな置物や掛け軸があり、
清掃が行き届いているのかモデルルームのように綺麗だった。
そんな綺麗な和室に足を踏み入れる気にはなれずに戻ろうとすると、
和室の奥に障子で仕切られたもう一つの部屋があった。
あそこも和室だろうが、
少しだけ障子が開いていてそこから何か置いてあるのが見えた。
何か肌色のものだ。
障子の開いた隙間が小さくて分かりづらいが、
よく見るとそれはマネキンの足のようなものだった。
・・・なんだあれ。
なんで和室にマネキンなんて置いてあるんだ?
気になって手前の和室に踏み入ってマネキンが置いてある奥の和室に行こうとすると、
「あー!ダメー!」
声がすると思ったら橘が後ろから勢いよく走ってきて、
俺の前に出てきた。
「あ、ごめん、入っちゃいけないとこだった?」
「いや、いいんだけど・・・また今度ね」
そう言う橘は障子の隙間をサッ!とすぐに閉めた。
それからずっと後ろの和室をチラチラ見て気にしている。
・・・なんか怪しいな。
「その和室何があるの?なんかマネキンみたいなの見えたけど」
すると橘が目を見開いて驚いた顔をする。
「もしかして・・・見たの?」
「いや、なんかマネキン見たいのなのがあるとしかわかんなかったけど」
「そっか、それはよかった」
怪しすぎる。
なんで和室にマネキンなんて置いてあるんだ?
しかも人に見られたらいけないやつなんて。
俺はいきなり走り出し、
橘を押しのけて障子を開けようとする。
「あー!ダメー!」
橘が体で無理矢理止めてくる。
「お願い見せて!誰にも言わないから!」
「ダメなの!」
思ったよりも力が強い。
これは本当に見られたくないんだろうな。
「わかった見ないから!じゃあ何があるかだけ教えて?」
「・・・ダメ」
「えー!そんなにやばいものなの!?」
「やばくないけど・・・とにかくダメなの!」
橘はそう言うと無理矢理、
俺の体を押し込んで和室から出そうとした。
結局その日はマネキンのある和室に入ることはできなかった。
そして後日、また橘の家に遊びに行く時があった。
俺はあの和室が気になっていた。
「ちょっとトイレ」
「すぐ帰ってきてよ!回り道なんてしちゃダメだよ!」
「はいはい」
俺はそう言って橘の部屋を出た。
もちろんあの和室を見に行くけどな。
橘に怪しまれないために普通に階段を降りる。
よし、大丈夫だ。
階段を降り、トイレに行くフリをして和室に向かう。
和室はこの前と同じだが、
今回はしっかり障子が閉められている。
ゆっくりと和室に踏み込んで障子に近づく。
そーっと開けるとそこにはやはりマネキンがあった。
でもそれは厳格にはマネキンではなかった。
それは俺の等身大フィギュアだった。
和室の真ん中に俺と瓜二つのフィギュアが置いてある。
顔の細部まで再現してあって、
まるで動かない俺がそこにいるみたいだった。
そういえばバレンタインデーの時も、
橘の等身大チョコとかくれたよな・・・
「見たな・・・」
恐ろしい声が聞こえてバッ!と振り返ると
こちらを鋭く睨んでいる橘がいた。
ゆっくり、しかし着実に一歩一歩力強い足取りでこちらへ進んでくる。
怖い!殺される!
「見たなって、なんだよこれ!俺じゃん!」
「そうだよ!一馬くんの等身大フィギュアだよ!悪い!?」
なんか開き直ってやがる。
「なんでこんなのあるんだよ!」
「・・・寂しいから」
「え?」
「だから寂しいからって言ってんの!」
「ど、どういうこと?」
「どういうことってそのままだよ!一馬くんと会えない時、寂しいから一馬くんのフィギュア作ったの!」
寂しいから俺の等身大フィギュアを作る?
ぶっ飛んでやがるな。
「普段は私の部屋に置いてるんだけど、一馬くんが遊びにくるときはこの和室に隠してるの」
「そ、そっか」
「バレンタインデーに私の等身大チョコ渡したでしょ?あの時に閃いたの」
「でもこんなので寂しさ紛れるか?」
「もちろん!手とか本物みたいな感触なんだよ!触ってみて!」
橘に無理やり誘導され、
俺が俺の等身大フィギュアと手を繋ぐ。
確かに人間っぽいな。
でも俺が俺と手を繋いでるってなんだよこの光景は。
「それにストレス解消にもなるし!」
橘はそう言うと急にシャドーボクシングを始め、
俺に軽いジャブを当てる。
「いや、寂しさ紛らわすためのやつでしょ?ストレス解消に使わないで?可哀想だから!」
「大丈夫!そんなボコボコにしたりしないから!」
と言うと橘が俺の等身大フィギュアの股間を思いっきり蹴り上げる。
「あー!やめて!俺も痛くなってきたから!」
「どうだ!私に逆らうとこうなるよ!」
橘はその後も俺の等身大フィギュアと遊んでいた。
大切にしてるのかボコボコにしたいのかどっちなんだよまったく・・・
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