第71話 ストーカーのストーカー


 橘のストーカー事件から数日が経過した。

昼休みの時間、教室の俺の席にいつものメンバーで集まる。



「え!京子ストーカーされたの!?」



橘の前に座っている梅澤が驚きの声を上げる。



「実はそうなの・・・この前、里奈の家で遅くまで遊んだ時があったでしょ?その帰りに・・・」


「マジかよ。ストーカーなんて本当にあるんだな」



 蓮がそんなことを言う。

確かに男でストーカーされるってあんまりないのかな。



「ほんとごめん京子・・・私があんな遅くまで遊ばせたから・・・」



 金髪の派手な見た目の梅澤がしょんぼりとうなだれている。

なんかいつも見ない姿で面白いな。



「気にしないで!里奈のせいとかじゃないから!でも一馬くんが電話してくれて本当によかった!」


「危なかった。俺が気づいて本当によかったよ」


「だね、怖くて外も出歩けないよ〜」



 確かに・・・

このまま放っておけば2回目があるかもしれない。



「京子、警察とかには相談したの?」


「したんだけど・・・全然動いてくれなくて・・・」


「どういうこと?」


「証拠がないからって言われて」



 マジか。

なんで動いてくれないんだろう。



「被害が出てからだと遅いのに!」



梅澤が怒っている。



「証拠がないと警察が動かないなら、証拠を集めようぜ!」



蓮がそう提案する。



「どうやって?」


「ストーカーをストーカーするんだよ!」



 ストーカーをストーカー?

蓮が訳わからないことを言っている。



「でも・・・そんなの危険じゃない?もし相手が危ないものとか持ってたら・・・」


「別にストーカーを捕まえようって訳じゃないって!ただ遠くから動画を撮るとかさ!」



 なるほど。

それなら安全かもな。



「でもそれって、私が囮になるってこと?」


「・・・まあそうだな」



蓮がバツが悪そうに答える。



「そんなの京子が危ないじゃん!」


「大丈夫だって!もしもの時は一馬が守ってくれるって!」


「いや、俺何もできないぞ?」



ということで、俺たちはストーカーのストーカーをすることにした。





 そして後日、橘がストーカーされた時と同じシチュエーションを作った。

梅澤の家を橘が遅く出て、駅までの暗い住宅街を橘が一人で歩く。


 その後ろを遠くから俺と蓮、梅澤で後をつける。

3人で電信棒の影に縮こまって隠れる。



「本当にストーカー来るのかな?・・・私たちがストーカーみたいになってない?」



梅澤が疑問をぶつける。



「絶対来るって!」



蓮がそう言いながらスマホで動画を撮る準備をしている。



「っていうかこの道、暗いな」


「そうなの、この道、街灯が少ないのよ」



道には街灯が数える程しかない。



「あ、スマホの充電切れた」


「ちょっと何やってんのよ!」


「おい蓮、頼むぞ・・・」



3人で電信棒の影でわちゃわちゃしていると、



「ちょっと見て!」



 梅澤が俺たちの背中をバンバン叩く。

前を見ると、フードを深く被った黒ずくめの男が橘の遠く後ろを歩いていた。



「ちょっとあいつ怪しくない?」



 梅澤が訝しむ目をフード姿の男に向ける。

見るからに怪しい。


 全身黒づくめで橘の後ろを間隔を開けてついてきている。

すぐに梅澤がスマホを構えて動画を撮る。



「キッチリ証拠として残してやるだから」



橘にメッセージを送る。



「後ろを全身黒の男がついてきてる。この前と同じ男?」



すぐにメッセージは返ってきた。



「わかんない。・・・でもそんな気がする」


「わかった。ちょっと道を曲がってみて?」



 そう送ると、橘が道を曲がった。

少しして男も同じように道を曲がる。



「やっぱりストーカーはあいつだ!」



 蓮が小声でそう決めつける。

橘にもう一度メッセージを送る。



「多分こいつで間違い無いと思う」


「わかった。ちょっと怖いよ一馬くん・・・」



 怖いよな。

でももう少しだけ我慢してくれ・・・



そう思っていた時、ストーカーが橘に向かって走り出した。

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