第70話 ストーカー

それは突然だった。


 俺は夜、寝る前、自分の部屋で寝転んで漫画を読んでいた。

漫画を読んでいるうちに眠くなってウトウトし始めていた。


 するとテーブルの上のスマホがピロン、と鳴った。

今は眠いから後にするかと漫画に目を戻したが、何か嫌な予感がした。


 なんでかは分からない、でも、今すぐスマホを見ないといけない気がした。

そんな衝動に動かされてベッドから起き上がってスマホを取ると、橘からメッセージが来ていた。



「誰かがずっと付いてきてる気がする」



 そのメッセージを見た瞬間、すぐに橘に電話をした。

橘も待っていたようにすぐに電話に出た。



「も、もしもし橘!どうした!?」


「ごめんね急に・・・メッセージ見てくれた?」


「もちろん!」



早く状況を把握したくて食い気味に言葉を返す。



「今、里奈の家からの帰りなんだけど・・・なんか後ろを付いてこられてる気がするの・・・」



 スマホからはコツコツと、橘の足音が聞こえる。

早足だ、橘の足音から焦りを感じる。



「い、今もだよね?」


「うん・・・なんか距離が縮まってきてる気がする・・・」



サーっと一気に体が冷たくなる。



「周りに他の人は、いないの?」


「うん・・・住宅街だし・・・」



 どんどんと焦りがひどくなる。

なんでこんな夜遅くに出歩くんだよ橘!

怖い、もしものことがあれば・・・


 ・・・いや、今は冷静になろう。

橘はもっと怖いはずだ。



「駅はもうすぐ?」


「うん、ちょっと行ったとこにある」


「じゃあそこまで走ろう、今すぐ」


「でも、私の気のせいって可能性も・・・」


「気のせいだったらそれでいいから!早く走って!」



スマホ越しからコッコッコッと、橘の走る音が聞こえる。



「橘!電話切っちゃダメだよ!」


「わかった!」



 橘の走る音と焦りを感じる息遣いが聞こえる。

駅はまだ先だろうか。

俺も息が荒くなる。



「た、橘!まだ付いてきてる?」


「わかんない!とにかく駅まで行く!」


「なんかあったらすぐ言ってね!」


「うん・・・あっ!」



橘のあっ・・・という言葉に心臓が跳ねる。



「おい!だ、大丈夫か!?」


「うん!駅前のコンビニがあった!とりあえずそこに入るね」


 よかったー。

スマホ越しからコンビニに入店した音と、店員さんのいらっしゃいませという声が聞こえた。



「橘?大丈夫?」


「うん、とりあえずは大丈夫だと思う・・・」


「よかった・・・ど、どうしようか、近くに交番とかあるのかな?」


「わかんない・・・一馬くん、どうしたらいい?」



橘も焦っているのか判断力が低下している。



「とにかく家まで帰れば安全だし・・・そうだ!使用人さんに電話して迎えにきてもらおう!」


「そっか!そうする!じゃあ、一回電話切るね?」


「う、うん」



 電話は切れ、部屋に静寂が訪れる。

ひとまず安全な場所に避難できてよかった・・・


 ・・・まさかコンビニの中まで入ってきたりしないよな?

電話を切った途端、心配になる。

どうしよう、これで橘に電話が繋がらなかったら・・・


 急いで橘に電話をかけようとしたら、

橘から電話がかかってきた。

急いで電話に出る。



「もしもし!大丈夫?」


「うん!使用人さんが迎えにきてくれるって!」


「よかった・・・でもなんでストーカーなんて・・・」


「わかんない・・・」



でもそうか、橘ぐらい綺麗だとそういうこともあるのかもな。



「っていうかダメだろ?そんな時間に外歩いたら・・・」


「ごめんね・・・里奈と話してたらこんな時間になっちゃって・・・」


「うん、次に夜遅く出歩くしかない時は俺に言って?迎えに行くから」


「わかった・・・ありがと、ごめんね?心配かけて」


「大丈夫だよ、橘が無事ならそれで」



 そうして使用人さんが迎えに来るまで橘と電話を繋いでいた。

ストーカーがこれっきりで終わるといいけど・・・

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