第72話 襲撃

ストーカーが橘に向かって一直線に走っていく。


 橘はまだ気づいていない。

メッセージを送る時間なんてない。


 あまりの突然の出来事に、俺は反応が少し遅れた。

蓮が俺を抜かしてストーカーに向かって走っていく。

俺がその後ろ姿を追いかける。


 まずい、まずい、まずい。

もし危ないものでも持っていたら!


 考える暇はない。

ただストーカーを追いかける。


 しかし俺は全然距離が縮まらない。

ストーカーはあと数秒もすれば橘にたどり着く。


 ダメだ!俺じゃ間に合わない!

蓮に任せるしかない!


 蓮は俺よりもずっと足が速く、

どんどんとストーカーとの距離を詰めていく。


間に合うだろうか。



「京子!」



 後ろから梅澤の声が聞こえる。

ダメだ、梅澤の声じゃ橘まで届かない。



「橘ぁーー!」



 自分に出せる最大限の大きい声を出した。

橘が振り向いた姿が見えた。


 ストーカーはもう手の届くところまで近づいていた。

遠くからだが、橘の恐怖の顔が見えた。


 ストーカーが橘に触れる寸前、

ギリギリで蓮が後ろからストーカーに思いっきりタックルをした。


 蓮とストーカーが勢いよく地面に倒れこむ。

よかった!ギリギリ間に合った!


 俺も急いで橘の元へ走る。

ストーカーはあまりの突然のことに、地面で這いつくばっている。



「橘!大丈夫!?」


「う、うん・・・」



橘も状況がよく理解できていないような感じだった。



「一馬、そいつ捕まえろ!」



 蓮が地面に倒れながら俺に向かって叫ぶ。

俺が動き出そうとした時、

ストーカーはバッ!と立ち上がって走り出した。



「ま、待て!」




 その時、一瞬だけ顔が見えた。

若い、俺らと同世代の男だった。


俺が追いかけようとすると、



「一馬くんダメ!危ないもの持ってるかもしれないし!」



橘が叫んで俺を止める。



「みんな!大丈夫!?」



後ろから梅澤が走ってくる!



「京子!怪我はない!?」


「うん、大丈夫!それより、動画は撮れた?」


「バッチリ撮れてるから心配しないで」



男の姿はもう見えなくなっていた。

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