第58話 二人で一つ


 部屋の中には俺と橘の二人。

何気に橘を俺の家に入れたのは初めてかもしれない。



「・・・何しにきたんだよ」



こんなに強い言葉を橘に向けることなんて普段はない。



「謝りに来たの、ごめんね迷惑かけちゃって・・・」



 ・・・迷惑かけてるのは俺の方だろ。

橘を心配させて振り回して。



「ちゃんと全部説明したくて」


「・・・なんで屋上の時にちゃんと話してくれなかったんだよ」


「ごめん・・・」



 最近の橘はよくわからない。

なにか隠しているような感じがしていた。



「最近の私、変だった?」


「・・・うん」


「だよね」



自分でも気づいてるんじゃないか。



「俺に隠してなにかしてるような感じだったから」


「・・・それには理由があるの」



怖いけど先に聞いておこう。


「・・・浮気とか?」


「何言ってるの!?そんなんじゃないから!」


「いや!あんだけ俺になんか隠してたらそう思うだろ!」



思わず語気が強くなってしまう。



「嘘!そんなこと思ってたの!?」



気づいてなかったのかよ・・・



「私がそんなことすると思ってたの?」


「いや、そういう・・・うん」



 そんなこと初めからわかってたじゃないか。

橘が俺を裏切るはずなんてないのに。

なんでこんな当たり前のことに気づいてなかったんだ。

・・・でも



「でも何をあんなに隠してたんだよ!」



 声を抑えて静かに怒る。

橘が申し訳ない顔をして話し出す。



「実は・・・一馬くんにサプライズでクリスマスにプレゼントしようと思ってたの」


「・・・プレゼント?」


「うん。だから隠してたの・・・これ」



橘はそう言うと鞄の中から高級ブランドのショップ袋を出して俺に渡してきた。



「あけて?」



 言われた通り俺は袋をあけた。

するとシンプルだが高級感のある小さな箱が入っていた。

箱を開けると中にはシルバーのリングが入っていた。




「一馬くんに似合うと思って。それに・・・」



橘が鞄の中から俺に渡した袋と全く同じ高級ブランドの袋を出してきた。

同じ箱を開けると、ピンクゴールドのリングが入っていた。



「私とペアリングなの」


「え、そうなんだ!」



 俺はめちゃくちゃ嬉しかった。

それだけで今までのことを納得しそうな自分がいた。

でもだめだ。



「でも・・・この前男女2人と車に乗って行ってたじゃん」


「それは!」



 橘がすぐに何か言おうとする。

でも俺が続ける。



「それに・・・この前、橘のスマホチラッと見えたんだけど、遅くまでごめん、とか積極的だったねとか送られてきてたぞ!」


「違う!あれは私の友達のカップルでリングのことで色々相談に乗ってもらってたの!送られてきたメッセージもその女の子からだもん!」



 2人とも感情的になっていた。

確かに橘の言う通りならこれまでの橘の行動も納得がいく。



「ごめん、誤解されるようなことして・・・」



橘が俺の目を見つめて眉毛を八の字にして謝ってくる。


「俺こそごめん。勝手になんか誤解して・・・橘の言葉を信じたいな」


「うん。もうこんなことしないから・・・」


「いや、サプライズは嬉しいよ?でももうちょっと俺に誤解されないようにしてほしいかも・・」


「ごめん・・・」



 やめておこう。

これ以上責めると橘が泣き出しそうだ。

橘がピトッとくっついてくる。



「でも信じてほしい。私はこんなに好きなんだから・・・リングつけて?」



 箱からリングを取り出して指にはめる。

橘がじっと見ている。

リングは俺の指にちょうどの大きさだった。



「よかった!ぴったりだった!」



 橘が安堵の声を漏らす。

すぐに橘も自分のリングを指にはめる。

2人で手を出してリングを見る。



「ペアリングなんて初めてだ」


「私も・・・これ見て私のこと思い出してね?」


「わかった」



 橘がペアリングをつけた俺の腕を両手で抱きしめてくる。

誤解があったからか、今日はスキンシップが激しい。

俺の肩に寄りかかりながらこちらを見つめてくる。


 俺も橘の瞳を見つめる。

雰囲気に酔わされ、顔が近づく。

あ、これはキスするな。

そう思った時、ドンドンと階段を上がってくる音が聞こえた。


急いで橘と距離を取る。



ガチャ!と勢いよくドアが開く。



「こんにちは!一馬の彼女さんよね?私、一馬の母です!」


「あ、一馬さんとお付き合いさせて頂いています、橘です」



橘が立ち上がって母さんに挨拶する。



「名前はなんて言うの?」


「京子です!」


「あら!いい名前ね!こんな美人さんが一馬の彼女なんて信じられないわ!」



母さん、頼むから早く出て行ってくれ・・・

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