第57話 後悔と無視


 やってしまった。

暗い部屋のベッドの上で寝転がり、

天井を眺めてそんなことを思う。



「もういい」



 俺はそう言って屋上を出て行ってしまった。

今思えばもっと話し合えたかもしれない。

もしかしてあの選択は間違っていたのかな。

ストーブとため息の音だけが耳に入ってくる。


 そんなこと忘れて眠ろうと目を瞑る。

布団をいつもより深く被り、布団にこもる。

何度も寝返りを繰り返す。

ダメだ、こんな状態で寝れるわけがない。


 またさっきのことを思い出す。

グルグルと同じ内容が頭を回る。

もう頭から消し去ることは難しそうだ。


 やっぱり俺が悪いのか?

でもちゃんと言ってくれない橘も悪いんじゃ・・・

もうよくわからなくなってきた。


 ピコン、部屋の中に新しい音が聞こえた。

スマホの通知音だ。

スマホの電源をつけると、暗い部屋にスマホの光がボワッと映し出される。

通知には橘からのメッセージが表示されていた。



「ごめんね」



 今は返す気分になれなかった。

俺自身よくわからなくなっていた。 

メッセージに気づいていないフリをする。


 クリスマス前だっていうのに。

これじゃあ今年のクリスマスは例年通り一人になりそうだな。


 ・・・でもなんで橘は頑なに自分の行動を教えてくれないのだろうか。

やっぱりやましいことがあるからじゃないのか?


 俺の誤解だと話を無理やり持って行こうと頭の中で想像するが、

浮気、男など、悪い考えばかりが浮かんでくる。


 俺の何がダメだったんだろうか、

この前だって蓮と梅澤も入れて4人であんなに楽しく花火をしたし、

その前だって一緒にコンサートを見に行って星座を見たじゃないか。




ベテルギウス




橘、俺はあの星座の名前、忘れてないぞ?




 ピコン、ピコン、

連続で音が響く。

橘だろう、でも無視する。

今は連絡したくない。


 あー、学校に行きたくないな。

今日は金曜日、

次に学校に行くのは月曜日だ。

土曜日、日曜日の2日間もこの憂鬱な気持ちを抱えないといけないのか。


 その日は、グルグルと思考が回っていたが、

いつの間にか眠ることに成功していた。




 朝起きると布団がはだけていて、

起きたと認識した途端に強烈な寒さが襲ってきた。


 慌ててストーブを点け、

はだけた布団を自分にかける。


 スマホを確認すると、

橘から大量の連絡が来ていた。

昨日の夜から俺が無視していてもずっと送り続けていたようだ。


 内容を確認してみると、



「ごめん」


「もう一度話したい」


「電話していい?」



 というような内容が何度も送られてきていた。

最後の連絡は、



「会いたい」



と送られてきていた。



俺はそれに、



「会いたくない」



 と返信してスマホを裏向けにしてテーブルの上に置いた。

送信ボタンを押すか悩んだことは気づいていた。

でもそんなこと考えないようにしていた。


 本当は会いたかった。

あってどういうことなのか話したかった。

今の橘なら話してくれそうな雰囲気だったから。


 でも今、会ってしまうと俺と橘の為にならないと思った。

自分でもよくわからないが、少し距離を置いてお互いの存在をもう一度確かめる必要がある気がした。


 なんでこんなに二律背反な気持ちになるんだ。

土曜日になっても完全に昨日の気持ちを引きずっている。

ベッドに寝転んで枕に顔をうずめる。


 ピコン、ピコン、とスマホが鳴る。

俺が会いたくないって送ったからそれに対する返答が返ってきてるんだろう。

音が聞こえないように布団を頭まで被ってもう一度眠ろうとする。

でもピコン、ピコン、とスマホの通知音は容赦なく聞こえてくる。

痺れを切らし、布団からバッと出てスマホを乱暴に取る。



「ねぇ、私の家に来てくれない?2人でもう一回話そう?」


「無理」



 2文字だけを送る。

たった2文字だが、この2文字には強い感情が込められている。



「じゃあ私が一馬くんの家まで行く!」


「くるなって!」



 俺ももう意地になっていた。

気づいたら橘の真相を知りたいという気持ちはどこかへ行っていた。

俺は朝ごはんも食べずに二度寝を始めた。



誰かに体を強く揺さぶられる。

ブンブンと体が揺れ、目が覚める。

母さんだろう。

休みなんだからまだ寝させてと言おうとするが、



「一馬!京子ちゃん来てるわよ!」



その一言で目が一瞬で覚めた。



「え、本当に?」


「本当よ!寒いのに家の前で待ってくれてるのよ」



 ほんとに来たのかよ!

俺はベッドを飛び出し、寝間着のまま階段を駆け下りる。

玄関で靴も履かずに玄関を開ける。



 すると外には白いロングコートに手袋にマフラーを巻いている橘が立っていた。



「ごめん、どうしても話したくてきちゃった」



橘のサラサラで綺麗な黒髪がマフラーに包まれていた。



「なんで来たんだよ」



 寒いのか、橘の頬は赤く染まっていた。

橘はこんだけ厚着していてもまだ寒そうだ。



「昨日のことは謝るから!だからお願い、もう一回話そ?」


「・・・わかったから、入って」



 橘を家に招き入れた。

目の前で橘を見るとどうしても優しくしてしまう。

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