第59話 メリークリスマス
「一馬、なんかきてるわよ?」
母さんがリビングのソファーでゴロゴロしていた俺に何かを手渡す。
「え、なにこれ?」
受け取ったものは赤い小さな封筒で、
金の印字でメリークリスマスと英語で書いてある。
開けてみると1枚の厚紙が入っていて、
綺麗な字で何か書いてあった。
・・・この字、見たことあるな。
紙には、
「私の大切なサンタさんへ。12月25日の夜から橘家にてクリスマス会を開催します!絶対参加です。金髪少女とそのバカ彼氏も参加する予定です。あとプレゼント交換会を行うので何か用意しておいてください。待ってます。あなたの愛しい彼女より」
・・・橘、お前は何を言ってるんだ。
しかも強制参加かよ。
そうして俺は橘家で開催されるクリスマス会に参加することに。
そして12月25日。
凍えるような寒さの中、俺は電車に乗って橘の家まで向かっていた。
電車の中の風景はいつもと変わらない。
でも気のせいかみんな幸せそうに見える。
今日は25日だけど24日の方がクリスマス感強いよな。
電車の俺の席の前にはお相撲さんほど体が大きく、
下腹がボテっと出て髭をもじゃもじゃ生やした年配の男性が座っていた。
・・・なんか本当のサンタみたいだな。
その男性は漫画を読んでいてたまにニヤッとして笑っている。
そんな男性を見かけつつ、電車から降りて橘の家まで歩く。
もう冬も本格化してきていて、マフラーや手袋がないと外に出られないぐらいだ。
吐く息が白い。
手袋をしていても寒さが指先から伝わってくる。
橘の家の前に到着する。
ピンポンを鳴らすと、待ってましたと言わんばかりにすぐに出た。
「一馬くん!待ってたよ!」
「うん!」
・・・全然開けてくれないんだが。
「ちょっと橘!寒いから早く入れてって!」
「合言葉は?」
「は?」
「だから!合言葉は!?」
「合言葉ってなんだよ!」
橘がわけわからないことを言っている。
合言葉?
「もう!送った招待状に書いてあったでしょ!」
急いで招待状を確認する。
すると確かに端の方に合言葉が書いてある。
「なんだよ・・・」
「早く言って!」
「・・・メリークリスマス!」
「うん!入ってよし!」
なんだよこの茶番は!
中に入ってエントランスから玄関まで進んでいくと、
すでに橘が玄関で待っていた。
橘はサンタの帽子を被っていた。
「はやくはやく!」
「はいはい」
催促されてリビングに入ると、
もうすでに全員揃っていた。
「遅いわよ」
「一馬遅いって!もう腹ぺこぺこだ!」
梅澤と蓮。
言い換えると金髪少女とそのバカ彼氏だ。
・・・お前らなんちゅう格好してるんだ。
梅澤はセクシーなサンタコスプレ。
蓮はトナカイのコスプレだが、ガタイがよすぎる。
すでにテーブルにはチキンやピザなど豪勢な料理が用意されていて、
使用人さんがせっせと歩き回っていた。
「はい!ここに座って!」
橘がパンパンと俺の座る席を叩く。
そして俺にトナカイのツノのカチューシャを強制的に着ける。
よく見たら使用人さんもサンタの格好をしている。
「じゃあ全員揃ったし、食べ始めよっか!」
「やったー!」
蓮が喜びの声を上げる。
「じゃあせーの!いただきます!」
すぐに食べ始める。
食べたいものが多すぎてどれから食べればいいかわからない。
「そういえば橘のお父さんは?」
「もうすぐ帰ってくると思う!」
「なんか悪いな先に食べちゃって」
「気にしないで!」
その時、ガチャッと玄関の鍵が開く音が聞こえた。
「あ!パパ帰ってきた!おかえり!」
「ただいまー、みんな揃っているね」
・・・お父さん、なんでサンタのコスプレしてるんですか。
橘のお父さんは全身サンタのコスプレに、白いもじゃもじゃのつけ髭までしていた。
「パパなんでサンタさんのコスプレしてるの?」
「みんなへのサプライズだよ」
確かに驚きのサプライズですけど・・・
そのあとは橘のお父さんも含めて楽しい食事会を楽しんだ。
食事会が終わってひと段落つくと、
「じゃあそろそろプレゼント交換会でもしようか」
橘のお父さんが言う。
全員でテーブルに集まってプレゼントを出す。
俺はアロマキャンドルを用意した。
まあ橘に急にクリスマス会に誘われて急いで用意したんだがな。
「私はこれだよ」
橘のお父さんがそう言ってテーブルにプレゼントを置いたが、
明らかに包装が高級感がある。
橘は全く気にしていないが、
俺と蓮と梅澤は橘のお父さんのプレゼントに目が釘付けだ。
「じゃあやるよ!音楽スタート!」
曲に合わせてプレゼントを横に回しているのだが、
蓮と梅澤が明らかに橘のお父さんのプレゼントを持っている時にゆっくり回している。
おい!早く回せ!
もちろん俺も橘のお父さんの時はゆっくり回す。
蓮と梅澤から早く回せという視線をひしひし感じる。
俺が橘のお父さんのプレゼントを横に回した時、
ちょうど曲は止まった。
結局俺は梅澤のプレゼントの入浴剤をもらった。
「あ!私パパのだ!」
橘のお父さんのプレゼントは橘に回った。
「香水だ!嬉しい!」
橘のお父さんのプレゼントは高級ブランドの香水だった。
それを見た蓮と梅澤があからさまにうなだれてる。
プレゼント交換会が終わると、
しばしの雑談タイムだ。
橘のお父さんは用事があるとかでどこかへ行ってしまった。
「今年はサンタさんちゃんと来てくれるかな?」
橘がそう呟く。
「俺のところはくるかなー」
「去年はいっぱいプレゼント持ってきてくれたんだよ!」
橘が無邪気に笑う。
「私、親と喧嘩中だから今年はこなさそうかなー」
梅澤が言う。
「なんで親と喧嘩してたらサンタさんきてくれないの?」
橘が不思議そうな顔をして聞く。
「なんでって、そりゃあ」
蓮が言おうとした時、
「おほん!失礼いたしました」
使用人さんが咳き込んだ。
「ねえなんで喧嘩してたらサンタさん来ないの?」
橘はまだしつこく聞いてくる。
「いや、親がサンタ・・・」
「ゴホンゴホン!すみません」
梅澤の言葉を掻き消すように使用人さんが咳き込む。
何か違和感を感じ、橘を除いた3人で顔を見合わせる。
橘、マジでサンタのこと信じてるんじゃね?
3人顔を見合っていた時、
「お嬢様!サンタさんが来られましたよ!」
使用人さんがそう言って庭を指差している。
「ほらみんな!サンタさんだよ!」
橘が嬉しそうに声を上げる。
庭には下腹がボテっと出て顎髭がたくさん生えているサンタがいた。
え、サンタさんて本当にいるの?
サンタの横には橘のお父さんも立っている。
「ほら京子!今年もサンタさんが来てくれたよ!」
「うん!今年も来てくれたんだね!」
橘が庭に飛び出てサンタに抱きついた。
サンタは想像通りの赤い衣装で、大きな白い袋を持っている。
「フォフォフォ!ほら、プレゼントだよ!」
サンタはそう言うと大きな袋から綺麗に包装されたプレゼントを橘に渡した。
「ありがとう!」
橘がわぁ!っと子供みたいな可愛い笑顔をしてプレゼントを見ている。
ちょっと待てよ。
サンタの顔をもう一度よく見てみる。
・・・行きしの電車で俺の前の席に座ってた人じゃね?
おい!そのサンタ絶対雇われて来たって!
トナカイじゃなくて電車に乗って来てるぞ!
あと普通に漫画読んでたぞ!
そんなこと言えるわけもなく。
橘は嬉しそうな顔でサンタに抱きついていた。
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