第52話 冬の花火



夜、橘と電話していた時のことだった。



「花火したい!」



橘がそう言い出した。



「花火?花火って今は冬だよ?」


「いいじゃん!冬だからってやっちゃいけないってわけじゃないでしょ?」


「冬に花火って聞いたことないけどなー」


「私はあるよ!」



橘の熱意がすごい。



「でもなんで急に?」


「いいじゃん!やりたくなったの!」



 とんだわがまま彼女だな。

ここで1人でやれば?とか言えばぶっ飛ばされるんだろうな。

・・・まあ、冬の花火も風情があっていいか。



「・・・やるでしょ?」


「はいはい、やりますよ。でも花火なんて冬だし売ってないんじゃない?」



 俺がそう言った時、もう橘が次に何を言うかわかった。

この前のコンサートのチケットが手に入った理由を思い出す。



「お父さんに聞いてみる!」



 でました。

最強お父さんの登場です。



「えー、でも場所はどうするの?」


「場所なんていくらでもあるじゃん!私の家の庭でもいいし!」



 確かに橘の家の庭ならいけるな。

クッソでかい庭があるからな。

もう庭と言える大きさを超えてるけどな。


 そして無理矢理、橘に誘われて

急遽明日の放課後、橘の家で冬の花火大会を行うことに。



そして当日。



「いやー!冬に花火なんて最高だな!」


「ほんとにー!京子、誘ってくれてありがとね!」



 もちろん蓮と梅澤も来ました。

全員学校終わりだから制服だ。



「どうぞどうぞ!こっち!」



 橘が庭まで案内してくれる。

すでに日は落ちているが、外壁や地面にライトが設置してあってる。

庭は天然芝が綺麗に生えている。

ヒーターが置いてあり、まあ寒さは我慢できるレベルだ。

また、ハンモックやオシャレすぎるガーデンチェアが置いてあり、

まるで高級ホテルにでも来たかのようだ。


 そしてすぐ奥にはプールがある。

もちろんビニールプールじゃない。

ちゃんと芝生の中に掘ってあって7mぐらい長さがある。

余裕で泳げる程の広さだ。


芝生の緑と水面がユラユラ光ってとても幻想的に見える。


 ・・・俺の家と大違いだな。

こんなん見たら家に帰れねーわ。



「ほら!いろんなの用意したから!」



橘が庭の真ん中にある木製のテーブルの上に広げてある花火を見せてくれる。



「めっちゃあるじゃん!」



 梅澤が喜びの声をあげる。

テーブルの上には様々な種類の花火がある。

これなら十分楽しめそうだ。

ん?なんだこれ。



「橘?これも花火?」



テーブルの上の桐箱を指差す。



「花火だよ?線香花火!」


「マジで?開けていいか?」



 蓮がウキウキと桐箱を開ける。

中には小さな蝋燭と綺麗に並んでいる線香花火が入っていた。



「京子、なんでこんな箱に入ってんの?っていうかどこにこんなの売ってんのよ」



 梅澤が言いたいことが大いにわかる。

桐箱に入った線香花火なんて聞いたことがない。



「え?線香花火ってこれが普通でしょ?」



 橘さん、普通じゃないです。

あなたが異常です。

桐箱に入ってる線香花火なんて初めて見ました。



「おい、全部いっぺんにやってデッカい火の玉作ろうぜ!」



蓮がそんなふざけたことを言う。



「そんなことしたらぶっ飛ばすわよ」



梅澤が蓮を諌める。



「じゃあやろっか!」



 橘がそう言うとマッチを擦って、

高級そうなキャンドルに火を灯す。



「よし!準備完了!はい、花火持って!」



それぞれが手に花火を持つ。



「じゃあつけるよ!」



 橘がそう言うと持っていた花火をキャンドルの火に近づける。

すぐに花火に火がつき、

プシュ!という音と同時に勢いよく橙色の火花が現れる。


 綺麗だ。

火の勢いは強く、暗い夜を明るく照らす。

全員が季節外れの花火に見惚れていた。



「わぁー!綺麗!みんな早く!早く!」



 橘の合図で俺たちも花火に火を付ける。

すぐに色とりどりの火花が出る。



「あー!すごいね!」


「綺麗だな!」



花火にみんなの顔が照らされている。



「俺2本同時にやっちゃお!」



 蓮が花火を2本持って火をつけ、

ブルブル振り回している。


 一通り遊び終わると、

次はいよいよ線香花火だ。


 4人同時に火を付ける。

すぐにパチパチと火種から火花が出てきて、

火種がどんどん膨らんでいく。



「一馬のめっちゃ勢い強くね!?」


「蓮のちっちゃいなー」


「京子のすぐ落ちそうー!」


「あ!落ちた!」



 橘の線香花火が一番最初に落ちた。

下唇を突き出して悔しそうな顔をしている。



「やばい!落ちそう!」


「マジで?私もなんだけど!」



 蓮と梅澤がギャーギャー言って楽しんでる。

・・・こいつら距離近くね?

文化祭の後夜祭のキャンプファイヤーを思い出す。

あの時、蓮と梅澤は一緒にキャンプファイヤーを見ていた。

もしかしてもう・・・



 蓮と梅澤はほぼ同時で、俺が一番長かった。

その後も夢中になって線香花火を楽しんでいた。




「最後の1本だね」



 いつの間にか最後の1本になっていた。

橘がものさびしそうに火を付ける。


 火を付けるとパチパチと火花が散る。

さっきから何度も見ている光景だ。

でもさっきとは違う何かを感じる。


 対角線上の橘が見える。

目があった。

笑顔で俺を見てくる。

話さなくても橘が言いたいことがわかった。




楽しいね。




「あー!落ちそう!」



 梅澤が叫ぶ。

火の玉のパチパチがなくなり、ポツンと地面に落ちる。



「あー、落ちちゃった」



それは今回の冬の花火終わりを告げるように感じた。




「楽しかった!冬の花火も良かったね!」



橘が言う。



「ああ、またやろう」



 ん?

妙に蓮と梅澤が静かだな。



「あー、実は話があるんだけど・・・」



そう切り出したのは梅澤だった。

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