第44話 文化祭 〜後夜祭〜


 怒涛の文化祭の翌日。

今日は授業は無く、1日中文化祭の片付けだ。

掃除や教室の飾り付けを外したりやることは沢山ある。

使った資材は全てグラウンドに運び、

夜の後夜祭であるキャンプファイヤーに使う。


昨日蓮も言ってたが、



「キャンプファイヤーを一緒に見たカップルは一生一緒にいれる」



 とのことらしい。

そんなことを聞いたら橘と一緒に見たいって思うだろ。



「加藤ー、これグラウンドに運んできてー」



 クラスの男子にこき使われる。

でも実はクラスの人とこうして仲良くなれて嬉しい。



「オッケー」


「頼んだぞー」



 メイド喫茶で使った廃材を持ってグラウンドへ向かう。

学校の中ではどんどんと片付けが進んでいる。

昨日は廊下は飾り付けでいっぱいだったのに、

もういつもの学校に戻っている。



「あれ?加藤くんじゃん」



 急に後ろから名前を呼ばれた。

この声は聞き覚えがある。



「ねぇ、こっち向いてよ」



 ふわっとした雰囲気の甘い声。

男を手玉に取るのが得意なあの人。

後ろを振り向くと、国崎さんがいた。


 相変わらず綺麗な黒髪ボブだ。

でも前会った時より少し髪が伸びただろうか。



「あれ、どうしたの?私の髪をジロジロ見て。もしかして髪伸びたなって思ってる?」


「ま、まあ、前会った時より伸びたなって」


「さすが、私のことよく見てるね」


「見てないです」



 本当に魔性の女だな。

国崎さんの手の上で転がされているのがよくわかる。



「どこ行くの?」


「グラウンドに廃材を置きに行くんです」


「へー、私もついて行っていい?」


「え?なんでですか」


「いいじゃん。早く行こ?」



そう言って俺の手を握って引っ張る。



「ちょっとやめてください!」



バッ!と握られた手を離す。



「えー、なんで?」


「俺は彼女がいるんで」


「彼女彼女って手を繋ぐぐらい、いいじゃん」


「ダメに決まってるじゃないですか」


「バレないって」


「そういう問題じゃないです」


「まじめだねぇ〜」



 そう言って国崎さんはケタケタ笑っている。

この人は本当に何がしたいのかわからない。

俺をおちょくって楽しいだろうか。



グラウンドに向かって2人で歩く。



「メイド喫茶はどうでした?」


「大成功だったよ?そっちのクラスは?」


「こっちも大成功ですよ。色々ハプニングがありましたけど」


「ハプニング?」


「はい。前日に用意していたメイド服がザクザクに切られたんです」


「へー、そんなことがあったんだ。誰がやったの?」


「いや、犯人はわからないです」


「ふーん。それは大変だったね」



 ・・・こんなこと思いたくはないが、

同じメイド喫茶をやってるってことから、

犯人は国崎さんのクラスの誰かということも考えられる。

だって国崎さんのクラスの人以外、メイド服を切り裂くなんてやる理由がないから。

クラスのみんなも薄々そう感じているはずだ。

でも誰もそれを口に出さない。

文化祭が終わった後にそのことを掘り返して嫌な思いをしたくないからだ。


 でも国崎さんのクラスの誰かがやった確証なんて何もない。

ただの思い込みだ。

でもモヤモヤしたものが晴れない。



「橘さんとは最近どうなの?」


「別に変わらず仲良しですけど」


「へー、美人は3日で飽きるって言わない?」


「全然飽きませんけど」



 そんな話をしているとグラウンドに到着する。

すでにグラウンドの真ん中にキャンプファイヤーの準備ができていた。



「今日の後夜祭参加するでしょ?」


「はい。参加します」


「一緒に見たカップルは一生一緒にいれるらしいよ」


「そうらしいですね」


「あと一緒に見た男女は結ばれるとも言われてるんだよ」


「へー、そうなんですね」



それは知らなかったな。



「私と一緒に見ようよ」


「・・・は?」


「ダメ?」



 上目遣いでこちらを見てくる。

それに腕も掴まれる。



「いや、橘と見るに決まってるじゃないですか」


「えー、私は?」


「はい?ちょっと言ってる意味がわからないんですけど」


「・・・一馬くん?」



 後ろから呼びかけられる。

・・・この声はまずい。

国崎さんに腕を掴まれているこの状況で一番会っちゃまずい人だ。

ジリジリとゆっくり振り向く。



そこには鬼のような形相をした橘がいた。



「た、橘!?」


「・・・これはどういうこと?」



あれ?鬼がいるぞ?



「あー、ごめんね橘さん!私たちこういう関係なの〜」



国崎さんが冗談っぽく言う。



「ち、違うって橘!たまたま一緒になっただけだから!深い意味はないから」


「・・・」



橘から無言の圧を感じる。



「行くよ!」


「は、はい!!」



 橘に手を引かれて教室へ戻る。

国崎さんが手を振っているが、

橘はそれに対して中指を立てている。



「ちょっと!どういうこと!?浮気!?」



廊下を歩きながら橘に詰め寄られる。



「違うって!本当に!たまたま国崎さんに無理やり触られたとこで橘が来ただけだから!」


「・・・」


「俺が浮気なんてするわけないでしょ?」


「・・・」



 橘はそっぽを向いている。

全然答えてくれない。

これはまずいな。



「ほら!今日の後夜祭のキャンプファイヤー一緒に見ようよ!一緒に見たカップルは一生一緒にいられるらしいよ!」


「・・・じゃあ見る」


「う、うん!見ようね!」



まるで小さい子供をあやしているような話し方になる。





 そしてついに後夜祭。

後夜祭は強制参加という訳では無く、

参加したい人は参加するという感じだ。


 参加者はグラウンドに集まっている。

グラウンドの真ん中にはキャンプファイヤーが燃えている。

日も沈み、

暗いグラウンドにキャンプファイヤーの光が綺麗に浮かび上がっている。



「ねぇ!私たちも行こうよ!」



 橘に連れられてキャンプファイヤーの近くに座りに行く。

近くに行くととても暖かく、

この寒い11月なんて忘れるぐらいポカポカしていた。


 周りを見るとカップルばかりだ。

これは自由参加になるわな。

こんなのに一人で参加させられたら地獄だもんな。


 2人でキャンプファイヤーを眺めていると、

向こうの方に蓮と梅澤の姿が見えた。

俺たちと同じように2人でキャンプファイヤーを眺めている。



「あれって・・・」


「蓮と里奈だね」


「そうだよな?え、あいつらって」


「まだだよ」



橘が、俺が言おうとしたことを先読みして答えてきた。



「里奈の方から誘ったんだって」


「そうなんだ。一緒に見た男女は結ばれるって噂らしいぞ」


「だから里奈は誘ったんじゃない?」


「なかなか積極的だな。もしかして今日で付き合うんじゃないか?」


「さあ?それはあの2人次第だねー」



橘がニヤニヤしながら向こうの2人を見ている。



「・・・お前楽しんでるだろ」


「そりゃ楽しいでしょ。青春だねー」



恋愛ドラマを見てるような感覚だな。



「そういえばさっきも言ったけど、キャンプファイヤーを一緒に見たカップルは一生一緒にいられるらしいな」


「へー、何?私と一生一緒にいたいの?」



橘が意地悪そうに聞いてくる。



「別に?橘が一緒にいたいって言うならいてやってもいいけど?」


「何それ?素直じゃないなー」



 そっと橘の手を握った。

そこからは言葉なんていらなかった。

ただ2人でキャンプファイヤーをじっと眺めていた。



一緒にいれますように、と願いを込めて。

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