第43話 文化祭 〜本番〜


 いよいよ本番当日。

クラスのみんなの協力もあり、

前日に誰かによってビリビリに破られたメイド服をなんとか本番までに集めることができた。



 文化祭が開催されるまであと10分前。

開店の最後の準備としてクラスのみんなは忙しく動き回っている。

女子はメイド服の調整やビラの準備などをし、

男子はキッチンで仕込みをしている。


 例年メイド喫茶は大混雑になることがわかっており、

先生いわく、開店前に準備をしておかないと店が全然回らないらしい。



「おい加藤!皿持ってきて!」


「オッケー!」


「加藤!さっき頼んだのできたか?」


「もう終わる!」



 俺は料理の具材を準備する担当だ。

キッチンはこのように大忙しだ。

常にどこかで誰かに何かを頼む声が聞こえる。

すでに料理の調理が始まっており、

教室にいい匂いが広がっている。


 蓮は調理担当で、

大きなフライパンを持って頑張っている。



「次の具材準備してくれぇぇ!」



 蓮がそう叫んでいる。

楽しそうだな。



「加藤!ボーッとするなって!もう開店するぞ!」


「ごめんごめん!」



 普段あまり話さないクラスメイトとも今だけは話せるようになる。

1つのことに向かって全員で努力する。

文化祭ってこういうことを学ぶ大事な機会なんだな。


 めちゃくちゃ忙しい。

でも楽しい。

この忙しさがとても心地いい。



「それでは英翔高校の文化祭を開催します」



 教室のスピーカーからアナウンスが流れる。

いよいよ始まるようだ。



「じゃあビラ配りの人たち行くよー、ホールの子と男子は頑張ってー」



 橘がそう呼びかける。

橘はビラ配りの担当らしい。

まあそうだろうな、

橘ぐらいの可愛い子がビラ配りしてたらメイド喫茶行ってみようかってなるもんな。


 橘が教室を出る前にキッチンの俺に向かって、

頑張って、と拳を握ってガッツポーズをとる。

俺も同じようにガッツポーズを返す。



「おい加藤!惚気てる暇なんてねぇぞ!こっちは戦場なんだよ!」


「ごめんごめん!」



クラスの男子から総攻撃を受ける。



 文化祭開始のアナウンスが流れると、

早速お客さんがダーーとなだれ込んでくる。

すぐにメイド喫茶の教室のテーブルは満席になり、

ホールからオーダーの嵐が飛んでくる。


 マジで開店前から準備しておいてよかったな。

準備してなかったら恐ろしいことになってたぞ。


 やはり1番出るのはオムライスだ。

次から次にオムライスのオーダーが飛んでくる。

オムライスはクラスの女子にケチャップでハートを描いてもらえるから、

それを目当てで頼む奴が多い。


メイド喫茶のお客さんは男性が多い。

クラスの女子のメイド服目当てだろう。

他校の生徒もたくさん来ている。



キッチンは、



「おい!あいつ彼氏いたのかよ!」


「あの女の子可愛くね!?」


「次のオーダー来てるぞ!」



など、忙しいながらも文化祭の雰囲気を楽しんでいる。

時間を忘れ、次々と来るオーダーに怯えながらキッチンで文化祭を楽しんでいた。


始まって数時間経った時、



「加藤!交代!橘ももう待ってるぞ!」



 俺の休憩の時間になった。

生徒はそれぞれ休憩時間がある。

俺は特別に橘と休憩時間を合わせてもらって、

一緒に文化祭を回れるようにしてもらった。

なんて優しいやつらなんだ。



「ごめん!お待たせ!」



 俺が橘の元に行くと、

橘は大勢の男子に囲まれていた。



「あ!一馬くん!待ってたよ!」


 橘がそんなことつゆ知らずという風に俺に声をかける。

それを聞いた橘を囲んでいた男子が、



「チッ!彼氏持ちかよ!」



 そう呟く。

ナンパだったのか。

そういう目的で文化祭にくる奴もいるよな。




模擬店を見ながら歩いて話す。



「ビラ配りの方はどうだった?」


「すぐになくなっちゃった。だから追加で印刷してもらってるのー」


「マジか。そりゃこんなに可愛いメイドさんがいたらビラなんてすぐなくなるわな」


「え、あ、ありがと・・・」



 橘が照れてそっぽを向いている。

あ、普段あんまり直接橘を可愛いとか言わなかったな。

俺も文化祭の雰囲気に飲まれて普段言わないことを言ってしまった。



「そ、そういえば里奈のクラス、見に行かない?」


「いいよ、梅澤のクラスは何やってるの?」


「コスプレ館?なんかコスプレして写真撮れるらしいよ」


「へー面白そうだね。でも橘、もうメイドのコスプレしてるじゃん」


「私はいいの!それより一馬くんなんかコスプレしようよ!」


「俺はいいって!」


「するの!早く行くよ!」



そう言って俺の手を握って引っ張る。



「里奈来たよ!」


「京子!いらっしゃい!加藤も!」



 梅澤のクラスは橘の言う通りコスプレ館をやっていて、

たくさんのコスプレや撮影機材が置いてある。

梅澤は胸元がざっくり空いたナースのコスプレをしている。

大丈夫なのか?このコスプレは。



「一馬くんに似合うコスプレ何かある?私のメイド服と一緒に写真撮りたいんだけど」


「何かあるかな?こっから好きなの選んで?」



梅澤がそう言ってコスプレのある場所へ案内してくれる。




結局俺はヴァンパイア のコスプレをすることに。

黒いマントに黒が基調のタキシード。



「あー!似合ってる!」


「ちょっと恥ずかしいんだけど・・・」


「いいじゃん!早く写真撮ろ?」


「似合ってるよ」



梅澤からもお褒めの言葉をいただく。



「はやくはやく!」



 橘に撮影場所に催促される。

2人でカメラの前に立つ。

橘がぎゅっと俺の腕を抱きしめてくる。



「おい!学校ではまずいって!」


「いいじゃん!ヴァンパイア とそれに仕えるメイドってことで!」



カシャ、とシャッターがきられる。



「うん、お似合いの2人だね」



梅澤が撮った写真を見せてくる。






「じゃあ!里奈も頑張ってね!」


「うん!メイド喫茶も頑張って!」



 梅澤のいるコスプレ館を後にする。

その後も模擬店を回ったりして短い時間だが文化祭を楽しんだ。

休憩時間が終わってメイド喫茶のキッチンに戻ると、



「加藤戻ってきたぁ!」


「具材切ってぇ!」



クラスのみんなからすぐに役割を渡される。



「一馬ぁぁぁ!急げぇぇぇ!」



蓮からも必死の催促をもらう。

そこからはさっきの橘との楽しい時間はどこへやら、

地獄のように忙しい時間が続いた。

そして客足も少なくなってきた時、



「これにて文化祭を終了します!」



スピーカーからアナウンスが流れた。



「終わったぁぁぁぁぁ!」



教室が喜びと達成感の声で溢れる。

あんなに忙しかったことを思い出すと達成感がすごい。




 文化祭が終わった後、

クラスのみんなでメイド喫茶の教室でお疲れ様会をする。



「明日のキャンプファイヤー楽しみだな!」



蓮がそう話しかけてくる。



「え?何それ?」


「知らねぇの?明日の夜に学校で文化祭で使った木とか燃やしてキャンプファイヤーやるんだよ」


「へー、そんなのあるんだ」


「そのキャンプファイヤーを一緒に見たカップルは一生一緒にいれるっていう噂もあるらしいぞ」


「それは気になるな。蓮はそういう相手はいないのか?」


「俺はいないって。俺のこと好きなやつなんていないよ」


「そっか」



 蓮はモテるからいると思うんだけどな。

それに一番近くにそういう人がいるのに気づいていないようだ。

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