第30話 体育祭 〜当日①〜


 ついに金曜日。

体育祭当日だ。

空はピッカピカに晴れている。

青く澄んだ空に真っ白な雲。

それに程よく風が吹いている。

まるで夏が戻ってきたみたいだ。



 朝、学校に来たら、更衣室で体操服に着替える。

更衣室では学年問わず、男どもが盛り上がっていた。

そりゃあんなに前から練習してきたんだ、気合も入るか。


 生徒はみんな頭に自分の色のハチマキを巻いている。

赤、青、黄、緑の4色だ。

俺は赤色のハチマキを巻く。

噂によると赤色は今までも優勝することが多いらしい。


「よっ、一馬!ついに当日だな!」


蓮はすでに着替え終わっていた。


「おはよう蓮。みんな気合入ってるね」


「そうだな、俺も昨日の夜眠れなかったぜ!」


「そんなに楽しみにしてたのかよ」


着替え終わって蓮と教室に荷物を置き、グラウンドに向かう。





 グラウンドは昨日の時点ですでにトラックなどの線が引かれており、

それを囲むように生徒用や保護者用のテントが張られている。

いつもと違う風景を見て、急にテンションが上がってきた。

周りの生徒もみんな楽しそうな表情を浮かべている。

それは蓮も同じだった。


「やっべ、なんかめっちゃワクワクしてきたんだけど」


 わかるぞ、その気持ち。

中学の体育祭とはまた違った雰囲気だ。

なんていうんだろう、青春?

なんかそんなものを感じる。





 自分のクラスの場所に向かう。

テントが貼られていて、そこに椅子が並べられてる。

なので今の教室は机だけになっている。

すでにクラスの生徒が多く着席していた。


 女子はハチマキの巻き方で個性を出している。

リボンみたいにしたり、横で結んだり。

いいな。

なんか女子が3割増で可愛く見える。

橘はどんなのでくるんだろう。



「おはよっ!」


 噂をすればだ。

橘は・・・特にリボンなどにはせず、普通に頭の上から結んでいる。

いや、シンプルなのもいい。

個性を出さない普通の巻き方。

それでも普段より抜群に可愛く見える。

ハチマキに頼らず、自分のビジュアルで勝負している。

勝者の余裕だ。


「おはようー」


「はよー」


「蓮と一馬くんは100m走終わったら棒倒しまで時間あるでしょ?

私、100m終わったらすぐに障害物競走だからちゃんと見ててね?」


 そう、最初に全学年が100mを行う。

その次に障害物競走だ。


「わかった、ちゃんと見とくよ」


「絶対だよ?」


「はいはい」


  体育委員が体育祭本部の前の台に登って話し始めた。

 そろそろ体育祭が始まりそうだ。






 行進をしてグラウンドに入場する。

グラウンドを一周してから開会式の開始。

行進をしながら周りを見てみる。


 たくさんの人が見にきている。

俺のお母さんも見にくるって言ってたな。

でも中学の体育祭はこんなに人、見にきてなかったぞ。

やっぱ注目されてるんだな。

体育祭のために電車もいつもより本数が増えてるとか。


 行進をしながら体育祭本部のテントを横切る。

その横には来賓や学校関係者のテントがある。

・・・あれ?あの人。

来賓、学校関係者のテントの一番前の真ん中に見覚えのある人が座っている。

高そうなスーツに真っ黒のサングラス。

明らかに他の人とは違ったオーラを放っている。



 ・・・橘のお父さんだ。

めっちゃ目立ってますよ。



 そうか、この学校と強いつながりがあるもんな。

っていうか、こういうの見にくる人なんだ。

会うのは前に停学事件の時に車で送ってもらった以来かな。

あとで挨拶行った方がいいのかな。

停学の件のお礼も含めて。






 行進を終え、開会式の選手宣誓や長い校長の話を聞いて、

いよいよ体育祭がスタートする。


 まずは100m走だ。

女子が走ってから男子が走る。

列に並んで自分の番を待つ。

BGMとして今流行りの曲が流れ、放送部が実況をして盛り上げている。

初めの競技から大盛り上がりだな。


 どんどんと自分の番が近づいてくる。

この緊張とは違う、ワクワクする感じ。


 前の列がスタートする。

ついに自分の番だ。

よーい、の合図で構えて、スターターピストルの音を待つ。

ドキドキが最高潮に達する。


 パンッ、という音と同時にスタートする。

良いスタートダッシュを切れて前に人がいない。

追い風なのかいつもより足の進みが早い。

このまま突っ切ろうと思うが、普段運動していないせいか体力がもたない。


 結果は僅かに及ばず2位だった。

あー、悔しい。

もっと運動しよう。

でも楽しいな。




テントに戻って蓮と合流する。


「おお、2位だったな」


「惜しかったー。もうちょっとだったのに」


「そういえば橘の障害物競走、そろそろ始まるんじゃないか?」


 そうだ、橘が障害物競走に出るんだった。


 テントの前の方に行って観戦する。

すでにグラウンドではハードルや網が設置してあり、女子が並んでいる。


 橘は・・・いた。

真ん中辺りだ。

あっ、国崎さんもいる。

あれ?橘と国崎さん、同じレースじゃね?

・・・これは面白くなりそうだ。


  障害物競走が始まった。

女子が網をくぐってハードルを超えて、ずた袋に足を入れてぴょんぴょん飛んでいる。

最後は三輪車だ。

なんか可愛いな。


 ついに橘の番だ。

なんだか橘と国崎さんが睨み合っているようにも見える。



 スターターピストルの合図と同時に橘が飛び出す。

すげぇ、相当気合い入ってるな。


 橘は網とハードル、ずた袋を1位で抜けた。

でも最後の三輪車で橘が漕ぐのに苦戦してる。


 その隙に国崎さんが三輪車に到着し、先に進み出した。

少し遅れて橘が進み出す。


「おっと!英翔高校を代表する美少女の対決だ!」

実況が盛り上げる。



めっちゃいい勝負だ。



 橘と国崎さんの2人が争っている。

でも少しだけ国崎さんが先にいっている。


「ああ!これは国崎さんの勝利か?」


実況にも気合いが入る。


 橘が後ろからすごいスピードで三輪車を漕いで爆走し、

猛スピードで国崎さんにぶつかった。

おい橘、わざとぶつかっただろ。



国崎さんはスピードが落ち、その隙に橘がゴールした。


「いやー、面白いもの見たな。お前の彼女は怖いなー」


「女同士の壮絶な闘いだったな」



 橘があんなに必死になるとは。

よっぽど国崎さんに負けたくなかったんだな。



 次の競技は棒倒しか。

始まるまで結構時間があるな。

蓮と競技を見ながら駄弁るか。


「あ、あの鞍馬君、一緒に写真撮ってもらえますか?」


 後ろから可愛い声が聞こえた。

他のクラスの女子が蓮に話しかけてきたようだ。


「あー、おっけー。一馬、ちょっと行ってくるわ」


 蓮はそう言って女の子の所へ写真を撮りに行った。

そうだ、蓮はモテるんだった。

背も高いし顔も整ってる。


・・・こういうので残された方の気持ちは最悪だ。


 蓮が女子とキャッキャしている。

くそがっ!ちょっとモテるからって調子に乗りやがって!


蓮が戻ってくる。


「さっきから写真撮ってくれってめっちゃ頼まれるわー」


「あー、俺も言われる」


 嘘です。

まだ誰にも声かけられてません。


橘がテントに帰ってきた。


「お疲れ様」


「お疲れー」


「ちゃんと見てた?」


「見てたよ。最後デッドヒートだったね」


「そうね、あの女なかなかやるわね」


「橘、わざとぶつかったでしょ?」


「いや?たまたまだよ?」


 これは嘘ついてる時の顔だ。

女の子って怖いな。


俺は午前中はあと棒倒しだけだ。


 まだ時間はある。

テントで競技を見るか。


「そうだ、写真撮ろ?」


 そう言って橘がスマホを取り出す。

あーよかった、俺にも写真撮ろって言ってくれる子がいました。


 蓮と橘と3人での写真、

そして橘との2ショット。


これは記念だな。



棒倒しに出場する人は集まって下さいと、アナウンスが入る。


さあ、いよいよ棒倒しだ。







俺と蓮は攻撃側。


 リハーサルの時は動きの確認だけで実際に飛びかかったりはしなかった。

ぶっつけ本番ってことだ。

向こうで棒が立っていてその下を防御側が抑えている。

・・・今からあそこに飛び込むのか。


 色ごとの勝負なので学年関係なくチームが組まれている。

さすが不良が多い学校、チーム全員が殺気立っている。

この棒倒しに参加しているのは、いかつい見た目のやつばっかだ。


 赤色の3年生から作戦が伝えられる。

まず先頭集団が棒に飛び込んでから、後続が飛び込むらしい。

俺は後続に、蓮は先頭集団に。




準備が整ったようだ。



 よーい、

グラウンドが静まり返る。

ピーッ、

笛の合図で走り出す。

みんな怒号を上げながら棒に向かって走っている。


 先頭集団が飛び込む。

俺も合わせて飛び込む。


 もみくちゃだ。

倒れてもまたすぐに飛び込む。


うちの防御側の棒も倒れそうだ。


 蓮を含め、2〜3人が立っている棒の先端に飛びかかる。

重さから棒が傾く。


 蓮が手でこい!と強く手招きする。

俺は飛んだ。


それがきっかけで棒は俺たちの勝利となった。






テントに戻りながら蓮と話す。


「どうだ?楽しかっただろ?」


「・・・めっちゃ楽しかった」


 スリリングで何にも変えられない興奮だった。

攻撃側はいいが、防御側は絶対にやりたくないと思った。

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