第29話 体育祭 〜練習〜
体育祭の準備が始まって5日目。
今日は水曜日、体育祭は金曜日だ。
もう体育祭が明後日に迫っている。
先週から始まった体育祭の練習も本番が近づくにつれて徐々に練習時間が増えている。
今日は午前中授業で午後から体育祭の練習。
入場の行進と開会式、閉会式の練習、それからテントの設営をするらしい。
体育の先生の合図で一斉に足踏みを始める。
ピッピッ、という笛の音に合わせて足踏みを揃え、
グラウンドの石灰のラインに沿って行進して移動する。
・・・これやる意味あるのか?普通に歩いて行ったらダメなのか?
周りを見るとみんな結構真剣にやっている。
うちの高校は不良が多いからこういう行事ごとはみんなやる気ないと思ったが、
以外にもみんな真剣に取り組んでいて、不良はこういうのはちゃんとやるみたい。
行進の練習の後は開会式、閉会式のリハーサル。
選手宣誓としてそれぞれの色のキャプテンが前にでて旗を持っている。
キャプテンは全員3年生でみんなイケイケな雰囲気が出ている。
こういう体育祭とかで色のキャプテンやる人ってすごいよな。
尊敬する。
その姿はどんなイケメンよりもカッコいいと思う。
開会式と閉会式の練習も終わって、テントの設営をすることに。
俺たちのクラスは保護者用のテントの設営をすることに。
俺と橘はテント設営のための道具を取りに行くために体育倉庫に向かっていた。
周りの生徒はそれぞれ体育祭の設営に取り組んでいる。
学校中がワイワイしていてお祭りみたいだ。
みんな楽しそうだな。
こういうのって、準備期間が一番楽しい。
普段見ない他の学年の生徒も見ることができて面白い。
「みんな楽しそうだね」
「うん、私も体育祭楽しみにしてたんだよねー。いいじゃん、お祭りみたいで」
そんな話をしながら歩いていると体育倉庫に到着する。
みんな体育祭に必要なものを取りに来ているのか、他にも生徒がいっぱいいる。
っていうか放課後以外でここに来たのは初めてだな。
ここに来ると色んなことを思い出す。
梅澤たちにこき使われたこと
絵を破られたこと
あの時はここに来るのが本当に嫌だったな〜
まだ橘とも付き合ってなかったし。
あの頃を思い出して橘の顔を見る。
「ん?なに?」
「いや、なんでもない」
俺たちもテント設営に必要なものを探す。
確かテントを立てるための棒があったはず。
ここには何度も来ているし、どこに何があるかは知っている、
確かあそこらへんに・・・あった。
長い銀色の棒が沢山並んでいる。
結構大きいな。
橘と2人で運べるかな。
蓮も連れてくればよかった。
2人でテントの棒を持って運ぶ。
橘が棒の前を持って、俺が後ろを持っている。
こういう2人で協力して運ぶとかいいな、共同作業みたいで。
そんな気持ち悪いことを考えていると後ろから誰かに話しかけられた。
「ねぇ、そのテントの棒ってどこから持ってきたの?私もそれ持ってこいって言われたの」
肩につかないぐらいのサラサラの黒髪ボブで毛先が内側にクルンとなっている。
耳の先が髪からぴょこんと出ていて、
ハーフみたいに綺麗な顔立ちで大きな目が特徴的だった。
・・・なんだこの人は、めっちゃ可愛いな。
「あ、え、えっと、向こうの体育倉庫・・・です」
「ありがと!・・・君が噂の加藤くん?」
ん?橘と付き合ってることかな。
「あー、多分そうです」
俺がそう言うと、チラッと橘の方を見て、また俺に目線を戻した。
「教えてくれてありがと!」
そう言うと笑顔で去っていった。
・・・可愛かったな、あんな人この学校にいたのか。
「ちょっと」
「ん?」
橘が怒った口調で話しかけてくる。
「今の人、可愛いって思ったでしょ」
「・・・うん」
「正直ね!・・・あんなの全然可愛くない。っていうか私の方が可愛いし」
「負けず嫌いだなー、でもあの人はいい人そうだったよ」
「いーや、あれは腹黒いタイプね。裏で男を弄んでる」
「うーん、そうなのか?」
「そうそうそうそう、絶対そう。一馬くん、見た目に騙されちゃだめだよ」
「まあ、確かに橘も見た目に反して優しいところあるしね」
「うん、よくわかってるじゃん」
そう言うと、満足したのか橘がスキップで歩き始めた。
「・・・ああいうボブの髪型もいいよね」
俺がそう呟くと、持っていた棒が急に引っ張られる。
橘が俺を気にせず一人でどんどん進もうとしている。
「ちょ、ちょっと待てって!俺はロングヘアも好きだぞ!」
体育祭の練習6日目。
今日は前日だし1日中体育祭の練習。
最初の行進から競技、閉会式までをリハーサルする。
今は100m走の練習をしている。
全員本番と同じく、走ってみるようだ。
チラッと自分と一緒に走る相手を見る。
よしよし、足が速そうな奴はいなそうだ。
俺もそこまで足が遅い訳ではないが、流石に運動部には勝てない。
「なぁ、お前って橘と付き合ってる加藤?」
急に隣の奴が話しかけてきた。
この人も俺が一緒に走る相手だ。
多分だが、雰囲気的に上の学年の人だな。
「あー、そうです」
「やっぱり!なぁ、体育祭の日、橘と写真撮ってもいい?」
そうか、体育祭の日はそういうのがあるのか。
確かにうちは携帯OKだし、体育祭の記念に写真撮るのか。
「なぁ、いいだろ?記念にしたいんだよ」
っていうかこいつ言ってることヤバくないか?
初対面のやつに、お前の彼女と写真撮らせてくれよって。
まず橘って上の学年の生徒にも知られてるんだな。
めっちゃ有名人じゃん。
「いいですよ」
「やった!ありがとな!」
どうせこいつが写真撮らせてって言っても橘が断るだろ。
これで会話は終わりだと思ったが、まだ話しかけてくる。
「なあ、どうやって橘と付き合ったんだよ」
うるせぇな。黙っとけ。
「まあ、色々あって」
「へー。お前って国崎とは知り合いじゃないのか?知り合いだったら紹介してくれよ」
国崎?誰だそれ。
「ちょっと知らないですね」
「国崎志帆だよ!あっほら!噂をすれば!」
そいつが指をさした方を見る。
女子が隣で障害物競争のリハーサルをしている。
「どの人ですか?」
「ほら!あの黒髪ボブの!」
黒髪ボブ?
指をさしている先に他の女子と話している黒髪ボブの人がいる。
ん?あの人って・・・昨日の人だ。
橘と一緒にいるときに話しかけられた人。
あの人、国崎って言うのか。
「有名なんですか?」
「有名だよ!お前ら1年生は知らないのか?2年の国崎志帆、生徒会だぞ」
生徒会・・・
初めて知った。
そんなに有名なのか。
視線を感じたのか国崎さんが急にこっちを向く。
あっ、目が合った。
緊張して瞬きができない。
俺が固まっていると、国崎さんがこっちに向かって手を振った。
え?俺に手を振ったのか?
「おい!今、俺に手を振ったぞ!」
隣の奴が大はしゃぎして俺に報告してくる。
・・・いや、今のは俺に手を振ったな。
国崎さんは何もなかったと言う風に他の女子との話に戻っている。
ああ、完全に手玉に取られているな。
我ながら簡単な男だなと考えていると、
何か国崎さんとは別の方向からすごい視線を感じた。
なんだ、この視線は?
とてもすごい圧を感じる。
・・・ちょっと待てよ隣の女子のリハーサルは障害物競争か。
あ!まずい!
バッ、と視線の方に目をやると、
獲物を狙うような眼光の橘がこちらを睨んでいた。
まずい、手を振られたの見られてたか?
慌てて橘に小さく手を振る。
フンッ、と橘がそっぽを向く。
向こうが振ってきて、俺は何もしてないぞー。
念を送るが、届かない。
あとでしっかり謝ろう。
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