第22話 仲間割れ


 長かった夏休みが終わった。

気温も夏の気温から秋の気温に変わり始めるみたいで、セミの鳴き声もあまり聞かなくなった。

思えば夏休みは色んなところに遊びに行ったしいっぱい思い出を作ったな。

夏祭りで橘と付き合うようになったこと、橘の家に遊びに行ったこと、橘と日帰り旅行に行ったこと。

どれも橘との思い出ばかりだ。


蓮とも何回か遊んだが、橘と3人では遊ばなかったな。


 楽しかった反面少し寂しい気持ちもあるが、また秋になったら体育祭や文化祭もあるし秋は秋の楽しみがある。

今年は芸術の秋にしようかな。





 始業式も終わって2学期の授業が始まり、夏休み前と同じ生活が戻ってきた。

相変わらず席は窓側の1番後ろで橘の隣だ。

まだみんな夏服だが、だんだんと長袖になったりカーディガンを着たりするんだろうな。


 隣を見ると橘が机の下でこっそりスマホでゲームをしていた。

最近ハマってるらしい。

俺にもめっちゃ勧めてくる。

橘は夏休みでちょっと大人っぽくなったように感じた。

夏休み前は綺麗の中にまだ子供っぽい可愛さがあったが、今は綺麗の割合の方が大きくなった気がする。

ステージをクリアしたのか、机の下で小さくガッツポーズをしている。


「一馬!見て!」


 そういって俺にゲーム画面を見せてくる。

橘は俺のことを下の名前で呼んでくれるが、

俺はまだ恥ずかしいのでタイミングを見てたまーに「京子」って下の名前で呼ぶ。




 休み時間、お昼ご飯を買うために購買へ向かう。

すれ違う男子は夏休みの影響か、肌が焼けた人が多い。

特に野球部は真っ黒になっている。

日がカンカンに照らすグラウンドでいっぱい練習してたんだろうな。

比べて俺は焼けておらず、夏休み前と変わらない。

橘と日帰り旅行に行った時も橘が日焼け止めを塗ってくれたおかげで焼けなかった。



 購買に着くと梅澤たちがいた。

夏休みを挟んで梅澤たちのことなどすっかり忘れていた。

梅澤の髪色は夏休み前よりも金髪の色が明るくなっていた。

もう金すぎて白に見える。



 ・・・帰ろう。

橘がいない状態でこいつらに会うのはまずい。

そう思い、購買に背を向けて歩き出そうとした時、


「おー、加藤じゃん」


遅かった。


「久しぶり、お前全然変わってないじゃん。地味なまんま」


うっせえ。何が悪い。


「2学期もいっぱい遊んでやるからな〜」


そういって俺の横を通り過ぎていく。





そうだ俺はこいつらにいじめられてたんだ。





 放課後、久しぶりに体育倉庫に呼び出されている。

ここに来るのはだいたい1ヶ月ぶりか。

ここは嫌な思い出が多くてあまり来たくない。


 いつになったらこの体育倉庫に呼ばれるのが終わるんだろう。

もう許してくれないかな。

誰か他の人に変わってほしい。


・・・そんなこと絶対思ってはいけないな。


 橘は梅澤たちと夏休みのことについて話している。

夏休みに橘は梅澤たちとちょくちょく遊んでたらしい。


「私、髪明るくしたのー」


「プール行って焼けちゃった」


「海楽しかった」


 久しぶりの学校で梅澤たちは話が弾んでいる。

確かにこいつらは夏休み前と変わった。

全員大人っぽくなったかもな。


「っていうかこいつ夏休み前と全然変わってなくない?」


 梅澤が俺の方を指差して笑う。

購買の時と同じことを言ってくる。


「黒髪で地味なまんま。お前そんなんじゃ絶対彼女できないよ」


残念だったな。お前の仲良い橘は俺の彼女だよ。


「髪でも染めたら?まあ、似合わねぇと思うけど」


 こいつマジでムカつくな。

お前が大人になったか知らんが、こっちだって色々経験したんだよ。


「お前は一生パシリがお似合いだよ!わかったら早く私たちの飲み物買ってこい!」


 梅澤たちが俺を笑い者にしてバカにしてる。

ここで俺がブチギレたらどうなるかな。



そんなことを考えた時、橘が呟いた。




「自分で買いに行けば?」



 ・・・今の梅澤に言ったのか?

橘の一言で体育倉庫が静まり返る。

俺もまさか橘がそんなこと言うとは思ってなくて驚いた。



「え?」



 梅澤が聞き返す。

緊張が走る。

橘が、


「だから自分で買いに行けばって言ってるの。楽しい?人のことパシリに使ったりして」


空気が凍る。梅澤が、


「何言ってんだよ京子、いつもやってることじゃねーか」


「私はそういうのやらないって決めたの、それにそういうことするのダサいよ」


「京子もやってたじゃねーか!・・・京子、最近なんか変だぞ」


 やばい。喧嘩になってる。

止めなきゃ。

さっきまであんなにうるさかった体育倉庫が静まり返っている。



「・・・私はもうそういうの辞めたの」



橘が下を向いて呟く。


「・・・帰る」


 そういって俺の手を引っ張って体育倉庫から出ていく。

梅澤が何か言おうとしていたが、構わず橘は俺の手を取って体育倉庫の扉を開けた。

橘以外の全員が戸惑いの表情を見せていた。





 駅までの長い一本道を2人で歩く。

何を話せばいいかわからない。


「なんかごめん、俺のせいで」


「いいよ別に、悪く言われるのが気に入らなかっただけ」


 なんだか空気が重い。

やっぱり橘は俺をいじめていたことをまだ悪く思ってたんだな。

橘が梅澤たちを友達として大事にしていたのも知っている。

でも俺をバカにされて黙ってられなかったのかな。


「・・・私、どうしたらいいのかな?」


橘の頬に涙が流れるのが見えた。


「・・・もう里奈たちに嫌われちゃったかも」


俺も梅澤たちもどっちも大事な存在でどうすればいいかわからないのか。


 泣いている橘の手をそっと握った。

これぐらいしかできなかった。

橘の手は弱々しく感じた。

何も話はしなかったが、握っているだけで橘の気持ちが伝わってきた


 梅澤たちと仲が悪くなったことで、

何か俺たちの関係が壊れてしまうような気がして少し怖かった。

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