第21話 日帰り旅行 〜海〜


海沿いの店で買い物をして今日のメインの海に向かう。


 更衣室で水着に着替えて海の家の前で待ち合わせする。

海水浴場には海の家があり、かき氷やフランクフルトなどが売っている。

パラソルやビーチチェアもあって日差しに照らされ続けるという訳ではなさそうだ。

ビーチバレーをしたり、浮き輪で海にぷかぷか浮いている人がいたりでそれぞれ海を楽しんでいる。


 それにしても橘遅いな。

まあでも、男なんて水着履くだけだが、女の子は色々準備があるんだろうな。

俺の水着はヤシの木がプリントされたハワイアンな海パンに上は裸。



 ・・・ドキドキするな。

橘はどんな水着を着てくるんだろう。

めっちゃ布の面積が少ないやつとかだったらどうしよう。



「お待たせ!」



 後ろから声が聞こえた。

振り返ると、水着姿の橘がいた。


 黒色のフリルがついたビキニだ。

・・・デカい、何とは言わんが。

そして滑らかなくびれがあって程よい肉付き。

健康的でスラっと長い足が太陽に照らされて眩しい。

綺麗な黒髪ロングがさらに水着の美しさを際立たせている。

スタイルはいい方だと思っていたがまさかここまでとは。

なんて魅力的なんだ、さっきの数倍も可愛く見える。

合法的に生で水着の女の子を凝視したのは初めてで、

なんだか頭がクラクラしてきた。

これは夢か?

この美少女が俺の彼女だなんて。




「・・・ちょっと、恥ずかしいからそんなジロジロ見ないで」


「あぁ、ごめん、い、いこっか」




 橘を横目に見ながら、空いてる場所を探す。

海の家はもう場所が埋まっていたので他の空いているパラソルを探しにいくことに。


 砂を踏む感覚が気持ちいい。

通り過ぎる男たちが橘を見ているのがわかる。

見るんじゃねえ!という思いを胸に歩き続ける。



「見て、あんな遠くまでいけるみたいだよ。」



 橘の視線の方を見ると、めちゃくちゃ遠くの方に浮き輪でぷかぷか浮いている人が微かに見える。

遠浅だからだろう。


 少し遠くの方に誰もいないパラソルを見つけたので向かう。

結構海の家から離れたとこだが、まあいいだろう。

荷物を置くと早速俺が持ってきた浮き輪を膨らますことに。



「頑張ってー」



橘は日焼け止めを塗り直しながら俺を応援する。



「オッケー!終わった!」



浮き輪を膨らませ終わる。



「よし!いこ?」



橘が海に向かって裸足になって走り出す。



「はやくはやく!」



橘の手招きに応じて膨らました浮き輪を持って俺も裸足で海に走る。



「あー!冷たい!」



 橘は躊躇なく海へ入っていく。

俺は波打ち際で足だけ海に入る。



「冷たっ!」



ゆっくり海に入っていると、橘に海水をすくってかけられた。



「やったな!おりゃ!」



すぐに反撃する。



「きゃー!もう!」



 海水を掛け合う。

はたから見たらバカップルだろうな。

でもどう見られてもいいです。

水着の橘とキャッキャしている。





お父さん。お母さん。僕は今幸せです。





 海の冷たさにも慣れたところで、

遠浅の少し奥の方まで一緒に行ってみる。



「みてみて!魚!」


「ほんとだ!」



 足元を小さい魚が泳いでいる。

捕まえようとするが素早くてダメだ。




「ほんとにいるんだね、魚」


「もっと奥までいこ?」





 俺のお腹ぐらいの高さまできたところで2人で浮き輪に入る。

二人とも向かい合って、浮き輪に手を置くような形になっている。

けっこう狭くて橘と密着している。

これはマジでやばい。

濡れている橘の体を見てドキドキする。


 ぷかぷか浮かんで身をまかせる。

2人の体が波に揺られる。



「サメとかきたらどうする?」



橘が冗談混じりに言う。



「置いて逃げるわ」


「ねぇー!」





 最高だ。

空は綺麗な青と白でまるで絵みたい。

日差しが照らしているが、海に入っていて気持ちいい。

俺の前には橘がいる。

最高のロケーションだ。




「・・・今、周り誰もいないね」




いつのまにか海水浴場の端の方まで流されてしまっていたようだ。


 上目遣いで俺を見つめる。

・・・そういうことか。

確かに周りは誰もいないし浜からは遠くて見えないだろう。

わざとそっぽを向く。

橘がむくれた感じで俺の首に手を回して乗っかってきた。

完全に当たってます。


2人の顔が近づく。



2回目のキスをした。



「・・・へへっ」



 橘が照れて笑う。

花火大会の時ぐらいドキドキした。

何回やっても慣れないんだろうな。






海から上がってパラソルに戻る。



「かき氷食べたいな」



大きなタオルを肩から被った橘が呟く。



「わかった、海の家で買ってくるよ、ここで待ってて」



 そう言って橘をパラソルに残して海の家に買いに行く。

途中で何人ものビキニの女の子とすれ違ったが、全く興味を感じなかった。

やっぱ橘だな。

のろけかな。


 海の家でかき氷とフランクフルトを買ってパラソルへ戻る。

橘は砂で山を作ってそこにトンネルを開通させようとしていた。



「みて!トンネル!」



無邪気なのは変わらないな。



「ほら、買ってきたよ」


「砂洗ってくる!」



 そう言って橘は海に砂を洗い流しに行った。

・・・砂まみれの橘は、なんか、妖艶だった。




橘がフランクフルトを食べている。



「おいしい?」


「おいひぃ」



 口にフランクフルトを頬張って答える。

俺もかき氷を口に入れる。

一気に食べて頭がキンキンする。

あー、いい夏を全身で感じてる。



今は15:00頃か。



 食べ終わってパラソルのビーチチェアに寝転がって少し休憩する。

お腹を満たして眠くなったのか、橘が寝ている。

海で散々遊んだし、買い物で歩き回ったからな。




目を瞑ると色んな音が聞こえてくる。


 はしゃぐ子供達の声が聞こえる。魚を見つけたみたいだ。

セミの鳴き声が聞こえる。うちの地元とは違う種類かな。

スースーと、橘の寝息が聞こえてくる。


俺も少し眠ろう。






 子供達のはしゃぐ音で目が覚める。

体を起こして大きく伸びをする。

んー、今何時だろう。


スマホを確認すると15:30だった。


 30分ほど眠っていたようだ。

隣の橘はまだ眠っている。


 綺麗な寝顔だ。

・・・写真とってやろ。

スマホを取り出してバレないように構える。

カシャ、

この写真は俺だけの特権として大切に残しておこう。


 橘の頬に触れる。

小さくてパーツの整った顔立ち。

黒髪ロングが肩にかかっている。




「んっ」


慌てて手を離す。



「あー、寝ちゃってたみたい」



眠っていた橘が目を覚ます。



「んーっ、気持ちよかったー」



寝起きの細い目で橘が俺に笑いかけてくる。





 海水浴場が閉まる時間が近づく。

時刻は16:00前。


 最後に砂浜に2人で座る。

まだあたりは明るいが、周りはみんな帰る支度を始めている。



「楽しかったね」


「うん」



まだ帰りたくないな。





 橘が木の棒で砂浜になにか書き始める。

相合傘だ。

傘にハートマークが上に乗っている。

橘が「京子」と自分の名前を書く。

俺に書けと言わんばかりに木の棒を渡してくる。

ふざけて俺たちのクラスの担任の名前を書く。



「ねぇー!違うじゃん!」



 2人で手を叩いて笑い合う。

消して「一馬」と俺の名前を書く。


 橘が嬉しそうに俺と橘の名前が書かれた相合傘の写真を撮っている。

2人の名前が書いてある相合傘。






 明日には消えているだろうか。

でも俺たち2人の心の中では永遠に消えない。







 水着から服を着替えて海水浴場を後にする。

周りは帰る人でいっぱいだ。


 バス停に並ぶ。

人が多く、バスに乗るまで時間がかかりそうだ。


ようやくバスに乗れた頃にはあたりが夕焼けに染まっていた。


 運良くバスの2人席に座れた。

バスが動き始める。


 さっきまでいた海から遠ざかっていく。

海面が夕日に照らされている。

なぜかノスタルジックな気持ちになる。


 行きもそうだったが、バスの中は揺れる。

でもこの揺れがなんだか心地よくて眠気を誘う。

それは橘も一緒だった。



「眠くなっちゃった。寝てもいい?」


「いいよ」



 そう言って橘は俺の腕を組んだまま、俺にもたれかかって眠り始めた。

今日1日はしゃぎすぎて疲れたのだろう。








 幸せってこういうことなのかもな。

俺に寄りかかる温もりを感じてそう思った。

橘がいれば他に何もいらない。


 橘と出会ってから俺も前より明るくなった。

橘と距離が近くなるにつれて俺が橘の色に染まっていくのを感じていた。

2人の色が混じり合ってグラデーションを生み出す。

お互いのいいところも悪いところも全て受け入れる。





 今回の日帰り旅行は今までで1番と言っていいほど、本当に楽しかった。

行きの移動、買い物、海、その全てが夏の、いや、橘との思い出として強く刻まれた。

大切に心にしまっておこう。

写真も動画もいっぱい撮った。

数年後、数十年後とかにこの写真を見返すんだろうな。

ここ行ったな、懐かしいなって。






その時に隣に橘はいるだろうか。






 高校の恋愛なんてお遊びだって言うけど、

そうじゃないって信じたい。

だってこんなにお互いを大切にして愛し合ってるんだから。



 バスの外には綺麗な夕日。

オレンジに染まった夕日に照らされ、少し考え過ぎてしまったようだ。



 眠っている橘の手をそっと握る。

俺よりもずっと小さな橘の手を、俺の手で包み込んで願う。






ずっと一緒に居れますように。






俺に寄りかかってスヤスヤ寝ている大切な人を何があっても守ろうと思った。

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