第20話 日帰り旅行 〜買い物〜

快速の電車に乗って海水浴場近くの駅を目指す。

2人席の窓側に座って橘は景色を眺めている。


 外はかんかん照りだ。

雨が降るという予想もあったが晴れてよかった。


「私、朝ごはん食べてないからお腹ぺこぺこだよー」


「そっかー、お昼は海の家で食べるか」


「あ!見て!飛行機飛んでる!」


「ほんとだー」


橘はだいぶはしゃいでいるようだ。


「海、綺麗かな?」


「晴れてるし大丈夫じゃない?それにちょっと調べたけど遠浅で魚とか結構いるみたいだよ」


「え!楽しみ!」



そんな話をしていると海水浴場近くの駅に到着した。


 駅前の海水浴場行きのバス停に向かう。

これが最後の移動だ。

バス停にはちらほら俺たちと同じように海水浴場にいくであろう人がいた。


 バスが到着して乗り込む。

バスの空いている席に橘と座る。


「みんな海に行く人かな?」


 橘が聞いてきた。

バスの中はカップルや家族づれなど海水浴場に行く人がいた。


「そうじゃない?ビーチサンダル履いてる人もいるし」




 バスが動き出す。

バスは電車よりも揺れる。

揺れるたびに橘の肩があたる。


「バスってこんなに揺れるの?」


橘はバスに乗ったことないのか?


「え、バス乗ったことないの?」


「あんまりないかも。なんかアトラクションみたいだね」


 橘が目を細くして楽しそうに笑う。

俺が独り占めできるこの笑顔。

本当に無邪気だな。電車の中でも飛行機見て喜んだり。

でもそういうところが好きだな。

一緒にいたらずっと楽しいんだろうな。


告白の時に


「誰よりも橘のことを笑顔にするから」


って言ったけど俺が笑顔にさせられてるな。


「ねぇ見て!海だよ!」


ほら今も。




目的の海水浴場が見えてきた。


「海沿いにカフェとかあるみたいだよ。行ってみる?」


 橘が窓の外を指差して言う。

海沿いにお店が並んでいる。


「帰りだと疲れてそうだし、海行く前に行こっか」




バスが到着する。


 バスを降りると目の前は海で、潮の香りが広がってきた。

久しぶりだ、この感覚。

セミが鳴いていて日差しがジンジン照らしてくる。

ビーチサンダルで歩く人のペタペタという音、波の音や海水浴場ではしゃいでいる人の声が聞こえる。



 時間はお昼前、

先に橘が言っていた海沿いに店が並んでいるところに行く。

海水浴場のすぐ横にあって、入り口の上には大きなアーチがある。

その先に地中海がモチーフのような白を基調にした建物が並んでいる。

歩行者専用になっており、道の左右におしゃれなカフェや雑貨屋さんが並んでいる。


「すごい!海外に来たみたい!」


「綺麗だね」


至る所で写真を撮っている人がいる。


「写真撮ろ?」


そう言って橘がスマホを取り出し、建物が映るように片手でスマホを持ってピースする。


「早く!もっと近づいて!」


言われたとおり、橘の横に立ってピースする。


 カシャ、多分ぎこちない笑顔だったな。

撮った写真を橘が確認している。

橘がなぜかニヤニヤしている。


「なんでニヤニヤしてんの?」


「思い出だから、嬉しくって」


 思い返せば橘と写真を撮るなんて初めてだったかもな。

だから嬉しいのか。


「・・・あとで俺に写真送って」


「オッケー!」



通りを進み始める。


 本当に海外に来たみたいだ。

日本じゃない。

白い建物に囲まれているからか涼しく感じる。


 麦わら帽子を被った橘はこの外国のような景色と、とても似合う。

ショートパンツから出ているスラッと伸びた足が美しい。


「このお店いこ!」


 橘が俺の腕を引っ張って連れ回してくれる。

入った雑貨屋で橘がペアブレスレットを見つける。

レザーでプレートがついており、合わせるとハート型になる。

シンプルなデザインだ。


「これ欲しい!2人で買おうよ!」


「え、なんか恥ずかしいな」


「今更なにいってんの?いいじゃん!」


 強引に押し切られて購入することに。

橘はブラウンで俺は黒のものを買った。

買って早速つけることに。


 どちらからともなく手を繋ぐ。

ペアのブレスレットが2人の手首についている。

いつもなら恥ずかしがるが、俺も雰囲気に飲まれていたみたいだ。


「これでずっと一緒だね」


橘が俺をみて言う。


「・・・重いです」




海が近いということもあってか、海をみながらお茶できるカフェがたくさんある。


 2人で飲み物を買ってパラソルの付いているベンチに座って海を眺めながら飲む。

海は太陽に照らされて輝いている。

入ったら冷たいんだろうな。


「海、綺麗だね」


「うん、楽しみだね」


橘が買ったお揃いのペアブレスレットを見つめて指で触っている。


「そんな嬉しかった?」


「うん、大切にしてよ?」


「もちろん、大切にするよ」


 誰かとお揃いのものをつけるなんて初めてだった。

そんなに高価なものじゃないのに、橘とお揃いっていうことだけでこんなに大切なものに感じるなんて。


絶対大切にしよう。このブレスレットも、橘も。

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