第19話 日帰り旅行 〜電車〜


 今日は橘と日帰り旅行で海に行く日だ。

俺たちの住んでいる近くに海はないので、電車を乗り継いで少し離れたところの海水浴場に行くことに。 

朝一で出発して、帰るのは夜になるかもな。


 それにしても暑い。電車の中でも暑い。

電車の冷房が効いているが、自分のところに風が回ってくるまで耐えられない。

たまらず持ってきたうちわで扇ぐ。

電車の中は夏休みなので子供達が多かった。

これからプールとか遊園地に行くんだろうな。


 最寄駅を出発して橘の駅で合流して終点の駅まで行く。

さらにそこから快速に乗って海水浴場近くの駅まで行く。

さらにさらに、そこからバスに乗って海水浴場へ向かう。

結構な移動距離だ。


 橘の運転手さんが海水浴場まで送ると言ってくれたのだが、断った。

・・・なんか橘とのこういう自分たちで行く長旅もいいかなと思ったから。

それにこの長距離移動も思い出になるだろう。


橘にメッセージを送る。


「電車の一番後ろに乗ってるから」


「わかった!もうホームで待ってる!」


 昨日も橘とメッセージでやりとりしていたけど、相当楽しみにしているみたい。

最初橘は何時にここに行ってこうするとかめちゃくちゃ綿密に計画を立ててた。

でも俺が気楽に向こうで見つけたところに行こうと言ったら了解してくれた。


電車が橘の駅に到着する。


「おはよっ!」


 橘は肩の出た白のオフショルに足がスラッと綺麗な黒のショートパンツという夏っぽいファションだった。ショルダーバッグを肩にかけていて、麦わら帽子を首にかけている。

いつもの甘い香水が香ってくる。

対して俺は黒のスキニーに白Tシャツという普通のファッション。


 橘は美人だ。これが俺の彼女か。自慢できるな。

俺ももっと橘に似合うようにかっこよくならないとな。


隣に座った橘に見惚れてしまう。


「どうしたの?」


「・・・俺らって美男美女カップル?」


「もちろん!」


ありがとう橘。気を使ってくれて。




電車で終点の駅まで向かう。


ふと思い出だす。


「もちろん水着持ってきたよね?」


「持ってきたよ!」


「ふーん」


「今想像したでしょ」


「してないわ!」


よくおわかりで。


「今日何持ってきた?」


女の子の鞄って何が入ってるんだ?


「えっとね、メイク道具でしょ?それに日焼け止めに水着、それから・・・」


そんなに入ってるのか。


「日焼け止め塗った?」


橘が聞いてくる。


「塗ってない。男は塗らないもんでしょ」


男は日焼け止めなんて塗らないだろ。偏見だけど。


「塗らなきゃ!」


 そういって橘が俺の肘から手首にかけてビューッと日焼け止めを出してくる。

そして手のひらでそれを塗り込んでいく。

橘の手のひらの感覚が伝わってくる。

なんかめっちゃドキドキする。


「はい!反対の腕も!」


そうやって反対の腕も塗ろうとしてくる。


「いいって!自分でやるから!」


橘から日焼け止めをとってドッと手のひらに出して雑に塗り込む。


「もう!ちゃんと塗らないと焼けるよ!」


 あー、これがイチャイチャか。

橘と付き合う前の俺がこんなカップル見たら睨みつけてただろうな。




終点の駅に着く。


海水浴場の近くまで行く快速の乗り場を探す。


「どこだっけ、あんま来ないからわからないんだよなー」


「ねぇ、腕組んでいい?」


「・・・いいよ」


 橘と腕を組んで歩く。

俺がよくカップルを見て憧れてたやつだ。

周りに見られて恥ずかしいという思いより橘に触れたいという思いの方が強かった。



 快速の切符を買って電車に乗り込む。

二人席に座る。

電車が動き出した。

腕を組んでいる橘を見つめる。


「海、楽しみだね」


「そうだね」


二人の思いは一緒だった。

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