第14話 何気ない会話


 テスト最終日。

生物のテストの時間。

時間はあと5分。

すでにペンを置き、時間がすぎるのを待っている。

寝ている人、最後の追い込みをかける人、俺と同じくペンを置いている人。

周りを見ると皆それぞれだ。

隣の橘はというと、半分ぐらいの時間で解答し終わったのか足と腕を組んで寝ていた。


 この前、橘と夜の学校のプールに行ったことを思い出す。

綺麗だったな。プールも・・・橘も。

あの日は非日常だった。

また行きたいな。


 そんなことを考えていると残り時間は1分を切る。

時計の秒針が進むのを見つめる。

秒針が1周した時、終わりを告げるチャイムが鳴った。


クラスではやっと終わったー、などそこら中で歓喜の声が上がっている。



「終わったね、お疲れ様」



橘が声をかけてくれる。



「お疲れ様。次からはちゃんと授業受けるようにするよ」



これで高1初めてのテスト期間が終わった。





 休み時間。

もう随分慣れたいつもの席。教室の一番後ろの窓際の席で、隣の橘と何気ない会話をする。夏休み前の貴重な時間だ。



「橘って・・・ギャルだよね」


「え?ギャル?・・・違うよ」


「でもほら、喋り方とかたまにそういう時あるよ。特に梅澤たちといる時は」


「あー、里奈たちはギャルだからね。つられちゃってるのかも」



梅澤たちはギャルだな。梅澤は金髪ロングで髪をかきあげてるし、イケイケだ。



「うーん、でも橘は・・・清楚系ギャル?」


「清楚系?それって褒め言葉?」



 橘は黒髪ロングでメイクもあまりしていないし、可愛いというより綺麗な顔立ちをしている。

見た目だけ見ると清楚に感じるけどな。



「でも私、メイク薄いからなー」


「いつも学校行く前にメイクやってるの?」


「軽くだけどね」



 うちの学校はメイク、携帯、髪型、バイト、全部OKという校則ユルユルのとても珍しい高校だ。



「橘は髪染めたことないの?」


「ない。でも染めてみたいんだよねー」


「何色?」


「メッシュ」


「メッシュって何?」


その後、メッシュについて熱く説明してくれたが、まったくついていけなかった。



「わかった?」


「わかった!そういうことね」



全然わかってなかった。



「橘だったらモデルとかになれるんじゃない?スカウトとかされたことないの?」


「あるよー。全部断ってるけど」


「なんで?」


「なんか怪しいし、雑誌の撮影ですとか言って脱がされそう」


「そうなんだ・・・」



怖い世界だな。



「橘は流行りに敏感だし、そういうの向いてるんじゃない?今は何が流行ってるの?」


「えー、流行ってるもの?」



橘が急に人差し指と親指を交差させてこちらに見せてきた。



「・・・何やってんの?」


「えー!指ハート知らないの?ギャルっていうかJKはみんな知ってるよ!」


「ごめん。初めて見た」


「そんなんじゃ流行に乗り遅れるよー」



 橘との何気ない会話。

でもこういう時間が好きだったりする。


 そうだ・・・

いつか駅で地元の祭りのポスターを見かけたことを思い出す。

開催はもう数日後に迫っている。

夏休み前最後に学校に行く日、全校集会の日だ。

橘を誘ってみようか・・・でも断られたらどうしよう・・・

橘は夜の学校のプールに誘ってくれた。

誘ってくれるのはいつも橘の方だ。

今度は俺が誘う番だ。



「ねぇ、橘、今度、うちの地元で祭りがあるんだけど一緒に行かない?」


「え!行きたい!行く行く!」


「もうすぐだよね!?浴衣もいるし、それにうちわも、あとは・・・」



 よかった。オッケーしてくれて。

橘は嬉しそうに準備するものを口に出して考えている。


・・・一瞬、蓮も誘おうと思った。でも二人で行きたいと思った。

ごめん蓮!今回だけは許してくれ!



「もちろん屋台とかも出るよね?」



橘が楽しそうに聞いてくる。



「うん、出るよ。それに花火もある」


「え!すごい!花火なんて見るの久しぶり!」



 俺は今からワクワクしていた。

これは楽しい夏の始まりになりそうだ。

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