第12話 勉強会
テスト1週間前。
テスト勉強に集中するため、全ての部活動が休みになる。
もちろん美術部も休み。
あの事件の後、蓮とは意気投合し、仲良くなった。
いじめられていたこと、橘のこと、橘を含む梅澤たちギャルグループ5人のことなど、蓮には俺の現状を全て話した。
蓮は俺を下の名前の一馬で呼んでくれている。
ふと思ったが、橘は俺の下の名前を知ってるのか?
橘京子。すごい名前だな。アニメとかに出てきそうでめっちゃかっこいい。
鞍馬蓮。こちらもかっこよく、喧嘩が強そうだ。
加藤一馬。・・・普通だな。
今日は放課後、蓮と英翔高校近くのファミレスで勉強会を開く予定だ。
二人とも授業中寝てたりぼーっとしているので全然テスト範囲を理解が進んでいない。
ちゃんと授業を受けておけばよかったと後悔している。
ということで1週間前から急いで勉強することに。
数学の授業中、テスト範囲の学習が終わって自習の時間となる。
なので少し眠る。
昨日も遅くまで勉強・・・ではなく絵を描いていた。
睡魔に耐えられない。
「ねぇ、起きてる?」
意識の遠くの方で橘の声が聞こえる。
「寝てるのかな?」
隣の席の橘が小さな声で話かけて来る。
机に突っ伏したまま顔だけ動かし、橘の方へ向く。
「なに?」
「今日の放課後、暇?」
「あの、よかったら、どっかで勉強会しない?」
橘は賢いから勉強する必要はないんじゃないか?
机に突っ伏していた重い体を起こす。
「あー、実は今日他の友達とファミレスで勉強する予定なんだ」
ギロッ、橘の目が鋭くなる。
橘が低い声で
「友達?・・・誰?・・・女?」
「いや、違うよ。ほら、あそこの」
俺と同じように机に突っ伏してぐーぐー眠っている、軽くパーマがかかった茶髪の蓮を指差す。
「あいつ?」
橘が目を細くしてなんだあいつという目で見ている。
「最近仲良くなったんだ。優しくて喧嘩も強いし、いい奴なんだよ」
「ふーん」
まだ怪しげな顔をしている。
「よかったら来る?蓮に聞いてみるよ」
橘と蓮なら仲良くなれると思った。
放課後、あたりはまだ明るい。
3人でファミレスへ向かう。ファミレスは駅の向こう側にある。
俺を挟んで両隣に橘と蓮。
3人で長い1本道を歩く。
橘と蓮はさっき軽い挨拶は交わしたが、さすがに初対面ですぐ仲良くなれないよな。
蓮が、
「美術部って何すんの?」
「デッサンとか、好きに絵描いてるよ」
「そっかー」
「俺も入っていい?」
「ほんとに?」
蓮が美術部に入ってくれるのはとても嬉しい。
体育倉庫に行っていたせいで悲しいことに美術部に友達は1人もいない。
それを聞いて橘が
「え、私も入りたいって言ってたじゃん、聞いてくれた?」
そういえばそんなこと言ってたな。完全に忘れてた。
「あー、忘れてた」
「ちょっとー!」
3人でファミレスまでの長い1本道を歩いている。
ピーッ、と駅から聞こえた。
電車が発車するみたいだ。
セミの鳴く音が聞こえる。
なんかいいな。こういうの。
「そういえばこの前の体育の時間、なんか揉めてなかった?」
橘が心配そうに聞いてくる。
やっぱ見てたのか。
「あー、ちょっとね」
蓮と顔を見合わせて笑い合う。
「?」
橘は不思議な顔を浮かべている。
「ピッチャーやってなかった?」
「うん。少年野球やってたから」
「え!野球やってたんだ」
「へー、俺より長い付き合いなのにそんなことも知らないんだ〜」
橘の反応を見て蓮がイジワルそうに言う。
「なに?」
橘が蓮を睨みつける。
「お前らそんなに仲良くないんじゃね?」
蓮がニヤニヤしながら言う。
橘が蓮の足をおもいっきり踏みつける。
「いってぇ!何しやがるこの女!」
「あんたが余計なこと言うからでしょ!」
二人が俺を挟んでギャーギャー言い合っている。
まるで最初から3人で仲良かったみたいだ。
よかった。二人が仲良くなってくれて。
・・・前はいつも1人だったのに、いつの間にか1人じゃなくなったな。
地面の3人の影を見て思った。
ファミレスに到着する。
このファミレスは英翔高校の生徒御用達のファミレスで、周りをみるとちらほら英翔高校の制服を見かける。
しかも店長さんが英翔高校のOBらしく、長時間居座っても何も言われない。
店員さんに案内されてテーブル席に座る。
俺と蓮が隣、橘が正面に座っている。
座ってすぐ2人は
「ドリンクバー頼もー」
「えっ!メニュー増えてるじゃん!」
楽しそうに騒いでいる。
でも勉強しにきたということを忘れてはならない。
さっそくテーブルにノートを広げる。
「なあ、ここテスト範囲?」
蓮が聞いてくる。
「そうだよ」
橘はノートをペラペラ見てるだけで全然勉強する気配がない。
「橘、勉強しなくて大丈夫なの?」
「うん、授業ちゃんと受けてますから」
自慢そうに言って来る。
授業だけで理解してるのか。すげぇ。
蓮が、
「お前賢いんだな」
「まあね」
「じゃあなんで勉強会に来たんだ?」
「・・・うるさい」
確かになんで勉強会しようなんて言ってきたんだ?
「橘、この問題教えて?」
「オッケー!ちょっと見せて」
でもよかった。分からないところをすべて橘に教えて貰える。
最高の先生だ。
いつのまにか勉強し始めてけっこう時間が過ぎていた。
「お腹減った。なんか頼んでいい?」
橘はお腹が減ったようだ。
確かにお腹が空いた。
時間ももう夜だ。
外を見ると車のヘッドライトが光っている。
「わー!ヤバ!」
橘の頼んだパンケーキが来る。
生クリームがパンケーキの上にこれでもかと乗っている。
橘がパンケーキをパシャパシャと写真を撮っている。
やっぱ橘も女の子なんだな。
橘がナイフとフォークを持ち、パンケーキを食べやすい大きさに切る。
橘が生クリームをたっぷりつけたパンケーキを口に頬張る。
顔が嬉しそうだ。
「おいひぃ」
俺たちも少しいただく。
美味しい。パンケーキなんて久々に食べたな。
橘がドリンクバーに向かう。
隣の蓮が小声で
「これ、聞いていいか分かんねぇけど」
「お前、あいつのこと好きなのか?」
放課後、橘と終点の駅まで出かけた時、公園で橘と話したこと。
「加藤と一緒にいると楽しい。もっと一緒にいたいって思う」
「加藤にとって私は女友達?いじめていた一人?それとも・・・」
「さあ、どうかな」
俺にもわからなかった。
でも、この今の関係が壊れるのが怖かった。
「そうか」
蓮はそれ以上聞いてこなかった。
3人でファミレスを後にし、電車に乗っている。
「橘のおかげでテスト何とかなりそうだよ。ね、蓮」
蓮に問いかける。
「そうだな」
「それはよかった!教えて欲しかったらいつでも言って」
「あっ!テスト終わったらどっか遊びに行こうよ!」
橘が嬉しそうに提案する。
「ねっ!いいでしょ?」
俺を見てお願いしてくる。
「うん、いいね」
テストが終われば夏休み。
しばらくの間、2人とは会えなくなる。
もし2人が部活に入ってくれたら、会える機会は増える。
「じゃーなー」
蓮が電車から降りる。
2人でその後ろ姿を見送る。
「蓮、いい奴だったでしょ?」
「そうだね、生意気だけど」
橘と笑い合う。
「これからも仲良くしてね」
「わかった」
俺の降りる駅が近づく。
「今日はありがと、2人の勉強会に入れてくれて」
「全然大丈夫だよ。こっちこそありがとね、勉強教えてくれて」
「ううん、いつでも言って?」
橘に見送られながら電車を降りる。
橘が動く電車の中で手を降っている。俺も小さく振り返す。
1人になると急に寂しくなった。
ホームから階段を降りると、
改札前にたくさんのポスターが張ってあった。
うちの地元の有名なお祭り。
屋台が並び、遠くからもたくさん人が来る。
もうそんな時期か。
橘と一緒に行けたらな。
今度誘ってみようかな。
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