第9話 席替え


 あの日以来、橘をよく意識するようになった。

授業を受けていても隣の席の橘が気になり、横目でチラチラ見てしまう。

部活をしていても、橘はもう帰ったのかなと考えてしまう。




 帰宅後、ベッドに寝転がって考える。

ついに明日か。今日のホームルームで席替えは明日やると先生が言っていた。

明日で橘の隣の席もお別れか。


 俺は喋る機会が減ってしまうのではないかと思っている。

せっかくいじめていたことを謝ってくれて仲良くなれたのに。


 そうだ、橘に連絡してみようかな。

・・・俺、橘の連絡先持ってなかったな。

明日席替えの前に交換できたらいいな。





 翌日、次の教室に移動していると、

橘が職員室の前で俺たちのクラスの担任の先生と話している。

なぜか先生がペコペコと頭を下げている。

橘の両親が英翔高校とつながりがあるから先生も頭が上がらないのか。

それにしても何を話しているんだ?

また後で聞いてみよう。




 ホームルームの時間。

いよいよ席替えが行われる。



「ついにこの席ともお別れだな」



名残惜しそうに橘に問いかけると、



「そうだねー」



 橘が足を組みながら爪をいじり、興味ない風に言う。

なんだ?あっさりしてるな。

前はあんなに席替えを悲しんでたのに。

まさか俺のことは見限ったのか?



連絡先のことを思い出す。



「そうだ、連絡先交換しない?」


「いいよー」



快くOKしてくれた。



「話す機会少なくなるからさ」



俺がそういうと、



「大丈夫だよ。次も席、隣だから」



・・・何を言っているんだ?なんでそんなことわかるんだろ?





 そんなことを話していると席替えが始まった。

黒板に席が書かれており、その席に番号が割り振られている。

先生が名簿順にくじを引いて、出た番号でその人の席を決定していく。

先生がくじを引くたびに生徒たちが一喜一憂している。



「またおまえかよ!」


「この席最悪!」



 そりゃ友達とか好きな人や気になっている人の近くがいいよな。

橘の隣の席を狙っているやつもいるだろう。


 ついに自分の番が回ってくる。

ドキドキする。



「え〜加藤、〜番」



 なんと今の席と同じ、窓際の一番後ろの席だった。

こんなことあるんだな。



「今の席と同じだ」



そう呟くと橘が



「へ〜そんな偶然あるんだね」



 心がこもってないな。

まるでこうなるってわかってたみたいだ。



席替えはどんどん進む。



 そして橘の番だ。

さっきまで騒いでいたクラスの男子が一気に静かになる。

先生がくじを引くのを見守っている。

誰もが橘と近くの席になりたいのだろう。



「橘、〜番」



 なんと橘も今と同じ席だった。

二人ともまた同じ席なんて、こんなことあるのか?


 クラスの男子たちがざわつく。俺のことを睨んでいるのを感じた。

なんでまたお前なんだよ。というような視線をジンジン感じる。


そんなもの御構い無しに橘は、



「また一緒だね」



ニコッと笑顔で言う。


 こんなことあるのか?

そういえば今朝、先生と何か話してたな。

・・・橘。お前、なんかしただろ。



「また一緒なんて運命じゃない?」



橘がニヤッと冗談っぽく言う。


 やっぱなんかしたな。

まあ、嬉しいことに変わりはなかった。



「そうかもな」



また橘の隣の席のいつもの日常が戻ってきた。

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