Part 4「必殺の一撃」

 ファースト・バトルの相手、鋼鉄異次元獣 アイアンモンド。僕らは何度か攻撃を受けつつも、優勢に戦いを進めているつもりだった。


 「蓮、君は彼の目を引いてくれ。隙が生まれた瞬間、僕が攻撃する。あやめはそこを一発で仕留めろ。これで彼にダメージを与えられるはずだ」

 「わかった」

 「確実に決めろよ」


 僕の合図で蓮がアイアンモンドの懐に飛び込んだ。だが、アイアンモンドはこれまでの戦いで蓮の攻撃パターンを完全に読んでいた。僕は作戦を何とか成功させようと光線銃で遠距離攻撃を仕掛けるが、アイアンモンドには全く効果はない。あやめはオロオロするばかりで、何も出来そうになかった。


 「おい、裕翔。このままだと負けるぞ」

 「どうすればいいの?」

 「知らない。とにかく、確実に急所を狙っていくしかないだろ」


 鈍重そうに見えて、的を得た動きで相手を翻弄するアイアンモンド。僕らはこの怪獣の性質に疲労困憊だった。さらに、アイアンモンドがこれまでの戦いで見せなかった両手の爪をこちらに見せながらトドメを刺そうとした。……その時。


 「勇敢な若き戦士たちよ」


 一歩ずつこちらへ迫るアイアンモンドを引き剥がす閃光。僕らに勇気を与える稲妻。これは一体何の力なんだ?


 「この声は……」

 「天の声さん?」


 蓮とあやめは戸惑っている。戦いにおけるパニックと、想定外のパニック。アーマー越しにもその表情は伝わるほどだ。


 「君たちに新しいことを教えよう。デバイスの上部にあるレバーを引いてみろ」

 「わかった」


 謎の声に言われるがまま、左腕のデバイスのレバーを引いてみる。すると、中央にひとつだけ真っ赤なボタンがある。白と青のデバイスの中で、ひときわ目を引く真っ赤なボタン。


 「さあ、そのボタンを押すんだ。あやめ、戸惑っている暇はないんだぞ」


 あやめが顔を上げると、アイアンモンドは遠距離攻撃が届くほどの距離に迫っていた。僕と蓮はすぐにボタンを押す。あやめは若干怖がりながらも、身の危険を感じてボタンを押した。僕らがボタンを押すとデバイスはさらに変形し、ディスプレイと三列のボタンが配置された第三形態へ変貌させた。


 「天の声さん、これは一体なんなんですか?」

 「最初に教えた形態、あの形態はスタンダード・モードだ」

 「スタンダード・モード?」


 僕が謎の声に尋ねる。しかし、もう時間がなかった。


 「詳しいことは後で話そう。まずはアイアンモンドを倒してこーい!!」

 「わかりました」

 「裕翔、あやめ、行くぞ!」

 「おーっ!」

 「わかった!」


 間近に迫ったアイアンモンドを、通常攻撃でかわす。パンチ、キック、怪獣の身体を生かした投げ技、ありとあらゆる知恵と力を振り絞り、怪獣に少しずつダメージを与えていく。だが、決定打は与えられない。


 「こいつ、どうすりゃ倒せるんだ?」

 「堅すぎるよ」

 「正直、俺がずっと戦ってきた相手よりも強いんだけど」


 僕らは負けない戦いは続けられているものの、今のところ倒せそうにない。そもそも、僕らは戦いの素人だ。小学生以来、まったく喧嘩をしたことがない。小学生の喧嘩といえば、ビンタか弱いキックかちょっとした武器を用いた攻撃。アニメやドラマを真似た攻撃はいくつか試みたが、見よう見まねの攻撃が致命傷にはなりづらい。


 頼む、なんとか言ってくれ。天の声よ。僕らをヒーローに任命したのだから、その任命責任を果たしてくれよ。


 僕が諦め掛けていた時、その声は再びやってきた。


 「最初は上段のもっとも左にあるボタンを押すんだ。そこを押せば、君の個人装備が自動的に装備されるようになっている」


 どうして、この声は僕が助けを求めていたことがわかったんだ。もしかしたら、偶然かもしれない。でも、ここで決めるしかないよね。


 「みんな、これで決めるぞ」

 「わかった」

 「あいつにだけは負けてらんねえ」


 三人とも、謎の声に言われるがまま、ボタンを押してみた。すると、僕の両腕に剣が、蓮の両腕には銃が、あやめには弓矢が装備された。


 「この武器があれば、君たちも名だたる怪獣たちと互角以上に戦えるだろう。あとは、その使い方次第だ。良心のために使うも良し、気に入らない相手を傷つけるために使うも良し、すべて思うがままに」

 「わかった。ありがとう」


 僕は声に応えた後、三人でタイミングを合わせ、一斉に攻撃を繰り出した。アイアンモンドはこれまでと同じように躱そうとしたが、明らかにパワーとスピードが違う攻撃に、何も出来ないままダメージを喰らうしかなかった。


 「これ、すっごい利くなあ」

 「さっきとは人が変わったみたいによく動けるね」


 仲間は口々に感嘆の声を上げる。やはり、強い武器があると戦いが楽になる。僕の剣は取り回しがしやすく、双剣を使い慣れてなくても扱いが簡単だ。


 蓮はさすがの銃さばきでアイアンモンドを圧倒すると、あやめも弓矢と弓に付随する短い双剣を自由自在に使い、最後は僕の一撃でグザッと一撃を加える。防御が分厚い分、安心して攻撃に回れるのはやはり大きい。もうアイアンモンドは虫の息だ。


 「あと一撃ってところですな」

 「誰がやる?」


 三人は互いに顔を見合わせる。決めたいが、なかなか決められない。数秒の沈黙の後、あやめが手を上げた。


 「最後は私のこの弓で……」

 「おけ。しっかり決めてくれよな」


 僕らのリーダー、藤吉あやめによる弓矢の一撃。爆発炎上するアイアンモンド、残骸は何も残らなかった。


 「よし!」

 「あやめ、ナイスアタック!」

 「やったな、あやめ」


 目くらましやコンビネーション・アタックではなく、あやめがその一撃でアイアンモンドを倒したのだ。あやめは初めての戦いに戸惑ってばかりだったが、これで少しは自信を付けてくれると嬉しいな。


 「最初にあやめが手を挙げるなんて思わなかった」

 「まさか私が決めるなんて」

 「頑張ったね」


 僕はあやめとハイタッチする。蓮はその姿を微笑ましそうに見ていた。


 「よっしゃー、これで元の世界に帰れる」

 「今夜は焼肉焼肉」

 「FPSの世界大会に向けて練習しないとな」


 ……怪獣の残骸に背を向けて喜ぶこの時の僕らに、さらなる戦いが待ち受けていることは知る由もなかった。

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