Part 3「ファースト・バトル」

 謎の声に促され、ディスプレイの中の渦に飛び込んでいった僕たち。身に任せてぷかぷかとサイバーな空間を進んでいると、再び声が僕らに呼びかけてきた。


 「さあ、そのデバイスのいちばん大きなボタンを押すんだ。君たちの身体はこの空間だと三分も持たない」

 「ここを押せばいいんだな?」

 「裕翔くん、ここ!?」

 「そう。一緒に押そっ!」

 「わかった」


 蓮は一足先に、僕とあやめは一斉にボタンを押した。すると、身体を包み込むようにアーマードスーツが展開し、一瞬にして着装完了した。


 「これでこの空間でも活動制限時間は無くなる。だが、その右隣にあるブーストモードを解除すると、十分間しか活動できなくなるから注意するんだ」

 「了解」

 「わかりました」


 謎の声からのチュートリアルを一通り聞いた後、蓮は全身の感触を確かめながら興奮気味にこう言った。


 「おお、全身に力が漲ってるな。みんな、さっさとアイアンモンドをやっつけちまおうぜ!」


 右手を掲げると、蓮は怪獣がいるという空間へ飛び込んでいった。僕はあやめの手を取り、蓮を見失わないようにその背中を追いかけた。


 数分後。もうどれだけ飛んだかはわからないけれども、アイアンモンドがいるという空間に到着した。僕らはひとまず、虹色の放棄された構造物の影に隠れる。蓮はまだ見ぬ怪獣の姿に興奮していた。


 「こいつがアイアンモンドか」

 「思ったよりも大きいし、強そうな見た目だな」

 「ファースト・バトルにしては、歯ごたえ良すぎない?」

 「あやめ、俺たちはヒーローとしてこの世界を守り抜く使命があるんだ。見たところ、この怪獣はそんなに頭が良さそうには見えないし、倒せない相手とは思わない」

 「そっかな……」

 「蓮、ちょっと図に乗りすぎてるんじゃないか?」


 思わず蓮を嗜める。蓮は納得していない様子だったが、とりあえず沈黙した。すると、アイアンモンドは僕らの存在に気づいたのか、ドスンドスンと足音を立てて近づいてくる。僕たちはひそひそと話していたつもりだったが、想像よりも大きかったのか、それとも意外と怪獣の勘がいいのか。何はともあれ、とにかく戦うしかない。


 「よし、行きますよ」

 「裕翔、やっとその気になったか」

 「ちょっと不安だけど」


 僕たちはまだ名も無き存在だが、使命を与えられた以上は戦わなければいけない。戦わなければ、元の暮らしに戻れないのだ。


 「鋼鉄異次元獣 アイアンモンド。お前の噂は聞いたぞ。自分の正義を説き、大勢を集め、それで相手を攻撃してるんだってなあ……」


 蓮が見得を切る。僕はちょっと大きく出過ぎだとは思ったが、最初から頼りない感じだと幸先が悪すぎるし、何よりも気持ちが乗らない。あやめも、なんだかやる気満々。僕もやれるだけやってみるか。この手で、世界を守ってみせる。


 「うおっ!!!!!」


 僕は真っ先に飛び込んだ。それにあやめ、蓮が続く。僕の飛び込みに、アイアンモンドは一歩も動けずに仰け反る。アイアンモンドはかなり大きな図体をしているが、瞬発力には欠けているようだ。あやめは新体操で鍛えた柔軟な身体で怪獣を圧倒し、蓮は個人装備の銃で敵の急所を探している。


 「よし、よしっ、この調子だとすぐに何とかなりそうだな」

 「でも、意外と堅いよ」

 「裕翔くん、最初に『堅い』ってあの声に言われてなかったっけ?」

 「そうか?」


 だが、アイアンモンドは一撃で形成を逆転させた。


 「なにっ!?」

 「すごい光線だ……」

 「みんな大丈夫か?」


 なんと、頭部の顔から全方位に光線を発射し、僕らに確実にダメージを与えたではないか。ひょっとしたら、これがこいつの必殺技なのか?


 あやめはアイアンモンドの間近にいたため、大きなダメージを受けてしまったようだ。僕はあやめを庇いつつ、この状況を何とかしようと考える。蓮も怪獣への攻撃を続けているものの、さっきのような勢いはない。やはり、アイアンモンドは強くて堅かった。


 ……しかし、蓮は一連の攻撃の中でアイアンモンドの急所を見つけていた。


 「おい、おい、裕翔とあやめ!」

 「なんだ?」

 「あいつの頭を狙ってくれないか?」

 「どうやら頭が弱そうだ。ここを攻撃すれば、硬い装甲をぶち破るだけで倒せるかもしれない」


 正確には、アイアンモンドの急所になるかもしれない部位。だが、やってみないとわからない。それなら、やるしかないっしょ! ……僕は無線をオンにした。


 「蓮、君は彼の目を引いてくれ。隙が生まれた瞬間、僕が攻撃する。あやめはそこを一発で仕留めろ。これで彼にダメージを与えられるはずだ」

 「わかった」

 「確実に決めろよ」


 アイアンモンドが僕らの動きを読もうとしている。おそらく、攻撃パターンが読まれたら最後だ。だから、一発で決めるしかない。僕は蓮とあやめにアイコンタクトで攻撃合図を送った後、先遣部隊の蓮が飛び込んでいくのを見守った。


 さあ、アイアンモンドをこの手で倒すぞ。

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