Part 2「ヒーローは君だ!」

 ディスプレイの向こう側の渦から、突如僕らに聞こえてきた謎の声。虹色の空間から野太い声が聞こえてくるという怪奇現象っぽい事態。あまりの出来事に仲間がみんな沈黙してしまったため、僕がその声に反応してみることにした。


 「あの、すみません……」


 声をかけると、渦が雲が流れるように動き始める。まるで鼓動みたく、規則的に。すると、さっきのような低音で声が聞こえてきた。


 「君たち、勇者になる覚悟はあるか?」


 ふえっ、この謎の声は何を言ってるんだ?

 僕も、あやめも、蓮も、想いはみんな同じだった。三人揃って、ぽかんとした顔。普段はちっとも合わないのに、こういう時だけは同じ。だが、ここで引き下がっては折角声をかけたのに話が終わってしまう。

 僕は勇気を振り絞って、もう一度声をかけてみた。


 「あの、勇者ってなんですか?」

 「さっきから勇者、勇者ってずっと言ってますけど、あなたは勇者を探しているのですか?」


 謎の声の居場所と思われる渦は一瞬動きを止めたが、数秒後、今度は一層の輝きを持ってぐるぐると回り始めた。


 「えっと、天の声さんでいいですかね……」


 僕が三度声をかけると、ついに謎の声が本格的に話し始めた。


 「私は君たちの運命を司る者だ。これまでの仮想空間上における行動のすべて、興味深く拝見させていただいた」

 「おい、それって俺が作ったここが破られてたってことか?」


 仮想空間「VILLAGE-THREE」の管理人である蓮が謎の声に詰め寄る。だが、声は間髪入れずに再び話し始めた。


 「本当に申し訳ないと思っている。しかし、私の事情をわかってほしい」

 「そんなに大切な事情なのかよ?」


 蓮は声を荒げた。僕はそんな蓮をジェスチャーで止める。


 「君たちは今SNSで起きていることを知っているか?」

 「一応、知っているつもりだけど……」

 「もちろん、興味深くチェックしている」

 「私もご飯やメイク動画を上げながら、いろいろと目にしている」

 「……それなら話が早い。君たちがもし私がこれから提案する勇者になってくれるのなら、そこで出逢う出来事はすべてSNSの中で実際に起こっている出来事だ」

 「実際に起こっている出来事?」


 あやめは少しわかっていない様子。蓮に会話を続けるように促し、僕は彼女をチャットでフォローした。


 「私が創造した空間では、リアルな出来事のエッセンスがバーチャル・リアリティとなって現れ、そこでバーチャル上のヒーローとして戦っていくことで、極めてハイセンスなファイトをエンジョイしてもらえるようになっている」

 「あの、すまないが、ハーブさんかルー大柴風の口調はやめてもらえないか? ……さっぱりわからん」

 「とにかく、君たちにこの現実世界を救うヒーローになってほしいってわけ!」


 ……沈黙。蓮は個人チャットに「何言ってるんだろう?」というメッセージを送ってきたが、僕はすでに答えを決めていた。相変わらずよくわかっていないあやめに確認して、謎の声に答える。


 「天の声さん、その願い、受けるよ」

 「少年よ、そして仲間よ、本当に良いんだな?」


 蓮は「何言ってんだよ」と怒りの声を送ってきたが、僕以上にあやめが乗り気だったことで話が決まった。


 「……私も受ける。未熟者だけど、頑張ってみる」

 「じゃあ、俺も」

 「天の声さん、そういうことです。どこまで出来るかわかりませんが、頑張ってみます」


 僕が謎の声に決意を伝えると、また突如虹色の渦が発光し、今度は三色の腕時計型デバイスがディスプレイから飛び出してきた。


 「これは一体?」


 チャットにも次々と困惑の声が寄せられている。あやめは完全に落ち着きを失っていた。


 「君たちが私の誘う仮想空間で戦うためのアーマードスーツのようなものだ」

 「アーマードスーツって、どんな?」

 「それはここに飛び込めばわかるだろう」


 この声と共に、眼前に堅牢そうな怪獣の姿が映し出された。金色と青色で星型の二足歩行怪獣。明らかに地球上の生き物ではなさそうだ。


 「こいつの名は鋼鉄異次元獣 アイアンモンド」

 「アイアンモンド?」

 「モンドセレクションじゃなくって……?」


 僕があやめをチャットで諌める。蓮は勇壮な口調で続けた。


 「要は、アイアンモンドって獣をやっつければいいんだな!?」

 「その通りだ。君たちが力を合わせれば、きっと倒せない相手ではないだろう」

 「そうか、わかった」

 「おそらくアイアンモンドは巨大化能力を持っているだろう。もしそうなった時は、三人合わせて一番上のボタンを押してほしい」


 謎の声に促され、デバイスを確かめる。確かに、他のものとは形の違うボタンがある。


 「これもその時になったらわかるはずだ。とにかく、素晴らしい力が秘められている。君たちの戦いを大いに助けてくれるはずだ」

 「了解!」

 「わかりました。あやめも大丈夫そう?」

 「……うん。やるっきゃないよね!」

 「よしっ、さすが私が選んだだけあるな。身体に気をつけて、しっかり戦ってきてくれ」


 僕たちは三人合わせてマイクに叫んだ。


 「はいっ!」


 あやめだけ、ちょっと声が割れていた。いつも、こういう時に人一倍大きな声を出すのがあやめの癖だ。一度、これでマイクが壊れたことがある。


 さあ、いよいよ戦いの始まり。みんなで渦に飛び込み、未知なる空間の怪獣を手っ取り早く倒してしまおうじゃないか。


 「じゃあ、行くよっ!」

 「うん」

 「早く行こう」


 幼なじみ三人組の新米高校生ヒーロー(!?)は、謎の声に促されるままにディスプレイに飛び込んでいった。

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