第10話



日曜日の朝、

彼の家でちょっとした事件が起こった。


朝目覚めると、

娘が父親のベッドの横に倒れている。


いや、

娘がどさっと倒れる音に気付いて目が覚めた。


驚いた父親はベッドから降りて、

娘に声をかける。


大丈夫、

と答えた娘は、

お願いがあるのと言う。


ハンバーガーショップに行って、

いつものハンバーガーとオレンジジュースを持ち帰って欲しいと。


父親は、

ならば自分の分も持ち帰り、

一緒に食べようと言った途端、

娘は驚いて立ち上がり、

それは駄目!

と言う。


父親は元気そうな娘の姿に訝しげな顔をした。


その途端に娘は、

人差し指と親指で額を挟み、

お願いよ、

と言って恋に迷える貴婦人よろしく、

およよと床に崩れ落ちる。


しょうがなく彼はハンバーガーショップに行き注文する。

そこへオレンジジュースの君がやってくる。

日曜の朝からおしゃれな服装である。

化粧もしっかりとしている。


彼は最初、

誰だか分からなかったが、

彼女から声をかけられオレンジジュースの一件を思いだし、

改めて謝罪をする。


彼女は、

あの時の娘さんはどうしているのかと、

彼は娘が朝から調子が悪いと言い、

娘の頼みで朝食を持ち帰るつもりであることを告げる。


彼女は、

それは大変ですねと言うが、

彼は、

それがどうも仮病の様なんですと答える。


もしそれが本当なら、

娘さんの分はちゃんと持ち帰り、

朝食をご一緒しませんかと彼女が誘う。


彼は娘の朝からの異常な行動を思い出し、

これは仮病であろうと直感し誘いに乗る。


二人でテーブルを陣取り、

会話が始まる。


彼がどんなに寂しい思いをしているかを、

虚無の旅人で知っている彼女は、

彼の一言一言をしっかりと理解できる。

そんな彼女と話している彼は、

自分が包まれている様な気分になり、

久しぶりに自分から言葉を発する。


彼は彼女のことを知らない。

彼女は彼のことを知っている。

ただし返信の内容は、

彼の娘が届けたロマンス小説の大人の会話であるから、

完全に知っている訳でもない。


今度、

娘さんと一緒に食事でもと誘いかけたのは彼女である。

承知はしたものの彼は急に立ち上がる。

いけない、

こんな時間だ!

と。

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