第137話 配下視察①

労働力問題を解決する方法を考えながらアンデッド軍の武器を作り始めて二日が経った。


武器の方はエンチャントまで完璧に終わったというのに、問題の解決策は未だ見つからない。




『技術を持ってないと務まらないし…かと言って当てもないし…』




「ダグラス様、この頃お悩みのようですが如何なされましたか?」




「仕事の疲労が酷くてな。労働力を探しているんだ。」




「そういうことでしたら配下の者どもに頼めばいいのではないでしょうか?」




「…確かに。完全に失念してた。」




マルチタスクは得意分野だったはずなのだが…


こんな簡単なことが思いつかないとは、疲れているのかもしれない。




『そういえば配下たちは普段、何をして暮らしてるんだ?』




屋敷を建てて以来、ずっと玉座か外に居たので知らないのだ。




「それでしたら、せっかくですのでご自身の目で確かめるのがよろしいかと。」




「そうだな。じゃあ行ってくるよ。」




正直興味しかない。




『やはりサキュバスは男の精を、吸血鬼は血を吸っているのだろうか…?デミデーモンは…全く予想もつかないな。』




そんなことを想像していると、住民地に着いた。




「あ、ダグラス様ーー!!あたしに何か用かな??」




「いや、普段みんながどんな生活を送っているのか気になって来たんだ。」




「そうだったのね!!存分に見て言ってちょうだい!!」




俺が建てた屋敷以外に建造物は全くない。


ということは、もし営んでいるのだとしたら屋敷内でナニをしているのだろうか。




「り、リリス!!」




「どうしたの?」




「昔本でサキュバスは男の精を吸わないと死ぬって書いてあったんだが…」




全く持って嘘である。


実際は、男の精を喰らいつくして殺すと書いてあった。




「それは嘘よ!!あくまで嗜好品なの!!今は精なんかより人族の食事の方が人気よ!!」




「そうだったのか。…ん?」




サキュバスの住民地を歩き続けて街の外れに来ると、そこにはたくさんのサキュバスと吸血鬼がいた。


…それも皆農作業着を着て。




「あ、ダグラス様よ!!」




「本当だ!!ダグラス様ーー!!私たちを保護してくださってありがとうございます!!!」




「ダグラス様ーー!!」




まさかこんなに歓迎してくれるとは思わなかった。


名付けをした際に一度会っただけなので、名付けの件以外はほとんど赤の他人なのだ。




「ありがとう。それで…君たちは何をしているんだ?見たところ畑作業のようだが…?」




「そうです!!外から仕入れたりもできないから、自分たちで作ることに決めたんです!!吸血鬼さんたちは経験者ということで色々教えてくれてるんです!」




「そうだったのか…そういえばエイチサン(H3)は俺がグレイの城を訪れたときにグレイと一緒に農作業をしてたな。」




あの光景は衝撃的過ぎて今でも鮮明に覚えている。


なぜか、作業服がとてもしっくりきたのだ。




「僕なんかのことを覚えてくださっていたんですね…!!」




「あ、ああ。」




まあ適当に付けた名前は”鑑定”でこっそり確認したのだが。




「それで、進捗の方は?」




「まずまずです!ただ、ちゃんとした農工具を持っていないので進みが遅いですね…」




「そうか…」




俺は今まで自分のやることばかり考えて、周りまで見れていなかった。


ただでさえヴァルハラは隣町からの行商人も来ないような新しい街だというのに…




『これからは民たちの要求も聞いて改善策を立てないとな…』




「…ダグラス様、何かお悩みですか?」




「いや、なんでもない。他に何か困っていることはあるか?」




「そうですね…これは僕だけじゃなく配下全員が思っていることだと思いますが、街をよりよくするために仕事が欲しいです!!」




「そうか…」




まさか自分から仕事を頼んでくるとは…


この世界はブラックなのだろうか?




「じゃあここにいる全員、今日からは農作業の仕事をしてくれ!一日10時間の週休一日で、報酬は…」




「ちょ…ちょっと待ってください!!それじゃあ今までと変わらないじゃないですか!」




…え?


君たちそんなに働いてたの?


それでもっと働きたいって言ってるの?




「…いや、違うぞ。ここで採れた食材を俺に献上してくれ。俺は食事をするからな。」




「…っ!!分かりました!美味しい食材を期待して待っていてください!!」




「ああ。」




それから俺は”アイテムボックス”内にあった魔物の素材でたくさんの農工具を”錬成”し、支給した。


皆はとても感謝し、すぐに作業を始めた。




ちなみに彼らの報酬は討論の末、人間界の料理ということになった。

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