第132話 死魔法
グリムとの報告会を終え、俺は玉座で一人考えごとをしていた。
『これで俺が持ってる魔王因子は三つか…興味ないはずだったのにどんどん魔王に近づいてるな…』
以前試したが、死の魔力や魔王因子保持者の雰囲気は”偽装”スキルによって誤魔化すことが可能だ。
これにより、俺は人族側にも魔王側にも立つことができる。
しかし、問題がある。
それは勇者は魔王のどちらかが死ぬまで人と魔の戦争、即ち大戦は終わらないということだ。
大戦が終わった世界に訪れるのは、敗者が迫害される日常だ。
奴隷として扱われ、死ぬまで苦痛を味わい続けることになるだろう。
『…俺も奴隷制を利用してる一人だから何とも言い難いが、酷い扱いは受けてほしくないな。』
いっそ俺が魔王となり、世界を征服して統治すれば問題は解決できるだろうが…
そんな面倒なことは死んでもやりたくない。
『人族が魔王に勝ったら、今度は人族同士で争うからなぁ…かと言って魔族が人族に勝っても弱肉強食だから同じか…』
歴史は繰り返すと言われているし、この問題はなかなか難しいものだ。
本に記されていたこの問題の解決策は、人族とも魔族とも違い、かつ両者の共通の敵となる第三勢力を作るというものだ。
『…俺自身がその第三勢力になるか?…いや、面倒くさいな。』
魔王候補者となって力を得たため、最近はその力の責任を感じるようになった。
しかし、考えてもどうにもならないので今まで通り自由に過ごそう。
『…切り替えて魔法の訓練でもするか!!』
まずは新たに習得した死魔法の実践だ。
とりあえず”死魔法”をSランクまで習得した。
『”鑑定”結果は対象に絶対的な死をもたらす魔法…か。恐ろしいな。』
しかし、その絶対的な力に憧れているのは事実だ。
そしてこれから起こるかもしれない戦争にとって有用なのも。
ひとまずその効果を調べるため、オーガの生息地に”転移”した。
俺は”気配遮断”でオーガの背後に回り、肩にそっと触れた。
「…死魔法F”デスタッチ”。」
すると、オーガは突然倒れた。
死体の感じから察するに、前世で言う心停止なのだろう。
『…って前世で医療従事者だったわけでもないし詳しくは知らんがな。』
死魔法の弱点はその絶大な効果故の詠唱の長さにある。
しかし、”無詠唱”を習得している俺は完全に弱点を克服していた。
これ即ち相手をどんな時でも、一瞬で殺せるということだ。
『俺だったらそんな相手は絶対に対峙したくないな…』
それはさておき、魔法と言えば他属性との複合魔法だ。
これができたら死魔法の範囲攻撃もできるようになる。
試しに火属性魔法”ファイヤーボール”に死魔法”デスタッチ”で触れてみた。
結果、”ファイヤーボール”は”デスタッチ”の効果を持つ黒い炎へと変化した。
『おぉ…!!成功だ!!』
喜んでいると、近くにいたオーガが棍棒で殴りかかってきた。
『無粋だなぁ…あ、そういえば死魔法は生物以外にも有効なのか…?』
試しにオーガの棍棒に”デスタッチ”で触れてみた。
すると、なんと棍棒が黒い塵になって消滅した。
『おぉ!!ただの思い付きで試してみたが…すごいな。』
物理が殺せるのなら、魔法も殺せるのではないだろうか。
早速試してみよう。
「グレイ!」
「はっ!ここに。」
「今魔法の実験をしているんだが、試しに俺に”ファイヤーボール”を放ってくれ。」
「それはっ!!…かしこまりました。では、行きます。」
そう言ってグレイは詠唱を始めた。
グレイのステータスが高いのもあり、まともに喰らったら少し痛いかもしれない。
「火属性魔法”ファイヤーボール”!!」
「死魔法”デスタッチ”。」
グレイの”ファイヤーボール”に”デスタッチ”で触れて防御しようとした結果、触れた瞬間”ファイヤーボール”の効果が切れて魔法が消滅した。
どうやら自分の魔法は付与ができ、他者の魔法は殺すことができるようだ。
「なっ!!ダグラス様、今のは…?」
「死魔法っていう魔法だ。ありがとう。もう戻っていいよ。」
「はっ!またお強くなられるのですね…!!」
帰り際のグレイは少し悲しい顔をしているように感じた。
『…?まさか…な。』
俺との実力差が離れて非力になった自分に悲しんでいるのか、それとも俺を倒すことが余計に難しくなったことに悲しんでいるのか…
普段の行動からあり得ないとは思うが、配下の”裏切り”の可能性があることを改めて実感した。
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