第10話 家族

それはまだ冬の寒さが残っている冷たい空気の中に新芽や花のにおいが交じっている、気持ちいい朝のことだった。




俺はセシリアに連れられて朝食をしに向かった。




「お、おはようダグラス」




エドワード父さんが挨拶すると、続けて皆も挨拶してくれた。




「あぁう!(おはよう!)」




テーブルには朝から元気なエドワード父さんとニーナ母さん、眠いのを必死にこらえているアドルフ兄さん、うとうとしているテュール兄さんとノンナ姉さんがいる。


いつも通りの空間なのだが、父さんに落ち着きがないような気がする。




朝食が終わると、父さんはそそくさとその場を去っていった。


やはり今日は変だ。


俺は少し不安を感じた。




「もしかして俺のステータスや魔法使っていることがばれた…?いやでもまさか…」




そう考えていると、突然背後から




「お部屋に戻りましょうね!」




とセシリアに声をかけられた。




『…心臓が止まるかと思った』




どうやらセシリアはいつもと変わらないようだ。




「どうして父さんはそわそわしているんだろう...?」




その理由が気になり、トレーニングに手がつかなかった。




そうこうしていると昼食の時間になった。




テーブルに着くと、父さんだけじゃなく兄さんたちもそわそわしていた。




『本当に何があったのだろうか…』




でも、普通に昼食をとっているくらいだからなにか大きな事件が起きたなんてことはないだろう。




昼食を終え部屋に着き、昼寝をしたあと落ち着かないのでMP上限上げで気を紛らわせた。


忍耐がSになったおかげで全然つらくなくなった。




MP上限上げが一段落つくと、ちょうど夕食の時間になったようでセシリアが迎えに来た。


俺は家族がいつも通りに戻っていることを信じてテーブルへと向かった。




食堂のドアを開けると、




「ダグラス、誕生日おめでとう!」




家族皆が祝福してくれた。


俺は驚くと同時にすごく喜んだ。




転生前、俺は家族の愛というものを知らなかった。


両親は素行や酒癖が悪く、なにか嫌なことがあると毎回俺を殴る、蹴る等のDV(家庭内暴力)をされて育ったのだ。




そのため、俺は家族に誕生日を祝われとても嬉しかった。




「あぅああぁう!(ありがとう!)」




伝わってくれただろうか。




「おいニーナ!今ダグラスがありがとうって言ったぞ!」




「そうねあなた!うちの子は天才かもしれないわ!」




と両親は親ばかぶりを全開にしている。




「可愛いだけじゃなく賢いなんてさすが私の弟ね!」




「本当に!さすが俺の弟だ!」




「僕たちのでしょ?」




ノンナ姉さん、テュール兄さん、アドルフ兄さんも俺をよく可愛がってくれているのがよく伝わってきた。




褒めちぎられることに慣れていない俺はなんだか恥ずかしくなっていた。




『父さんや兄さんたちはこの誕生日会で緊張してそわそわしていたのか。


母さんとセシリアのポーカーフェイスはすごいな!いつもとまるで変わらなかったぞ!』




ステータスや魔法を行使しているところを見られたのではなくてよかったのだが、なんだか家族に隠し事をしていることに罪悪感を感じた。




この誕生日会がきっかけとなって俺と家族との間にあった距離が一気に無くなったのであった。




そしてそのまま幸せな日々を送り4年が経った。


俺は何事もなくすくすくと育ち、今では一人で歩いて物を使えるようになった。




昼食をしていると、




「ダグラス、うちでは6歳になると家庭教師を雇って武技か魔法の訓練と勉強を始めるんだが…いいかな?」




と父さんが言った。




「やりたい!」




俺は即答した。




「じゃあ武技と魔法どっちをやりたい?」




「武技!」




「よしわかった!じゃあ準備があるから5日後から始めようか。」




「うん!」




これから俺は魔法の訓練をやめて武技の訓練をすることにした。


とても楽しみでなかなか寝付けないのであった。

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