カフェと本屋デートとサプライズ
「おいしい……!」
と夜月が顔を綻ばせたのは、『ふわとろデミグラスオムライス』。卵を真ん中で割って広げ、しあわせ〜、と、緩んだ顔で嬉しそうに食べている。
曲名は分からないけれど、何やらお洒落なジャズらしきBGMが流れる店内。今、『√』の2人はとあるカフェで昼食をとっていた。
「駅前に11時半集合ね!」
「え、家から一緒に行けばよくない?」
「……分かってないなぁ、色々」
「はい分かりました駅前集合11時半ですねっ!」
という会話を交わしたのが昨日の夜。夜月の言葉通り駅前に行くと、そこにはおめかしした夜月が立っていた。
「ん?…………天使?」
と、おめかし夜月の感想を環が言う。本人に自覚は全くないが、こんなことを妹に言う兄は恐らく、中々居ない。
「んぁっ」
と、何やら奇怪な鳴き声を発する夜月の顔は、デート(夜月主観)開始早々に真っ赤である。
「ここ、ここのオムライス美味そうじゃない?」
と、夜月の鳴き声には触れず、環がスマホの画面を差し出す。駅からそう歩いても遠くない、雰囲気の良いカフェである。
結論から言って、そのカフェは大当たりであった。夜月が頼んだデミグラスのオムライス、環が頼んだオムカレー、共に値段と味の素晴らしいものだったのである。
「はい、一口あげる」
と、これは意外にも夜月。「一口あげる」は、兄妹の中では一般化された行為であるので、大して恥ずかしくないのだ。無論、見ている方はそうでもないことを夜月は忘れているのだけれど。
「ありがと…………あ、デミも美味い。はい、こっちのもあげる」
夜月が見せない恥じらいを環が見せるわけもなく、傍から見た2人はただのバカが前につくタイプのカップルである。
「若いっていいですなぁ」
「そうですねえ……ふふ、学生の頃を思い出します」
とは、カウンター席に座っていた客とマスターの会話である。この日、コーヒーの売り上げがいつもより多かったことにマスターが気が付くのは、もう少し先のこと。
「…………あっ」
暫くしてから、間接キス×2を公衆の面前で行っていたことに気付き、顔が熱くなる夜月であった。例によって、兄の方は気が付く様子もないのだったが。
「また来よう」と環、「しばらく恥ずかしくて来れない……」と夜月が真逆の感想を抱きながらカフェを出て、2人はビル丸ごとの本屋へ向かう。
「一緒に回る?別々で動く?」
と聞く環に目が笑っていない笑顔で答える。
「うん、お兄ちゃんはどっちだと思う?」
恐怖ゆえか本能で悟ったのだろう、環の返答は正解だったらしい。
「……一緒デスネ」
にぱっ、と夜月は笑って、「じゃあ行こっ」と浮かれた様子でビルの中へ歩き出す。先に夜月をエスカレーターに乗せると、環はそっと夜月の背中に着いていた小さなゴミを取った。
「あっ、新刊出てる」
「読み終わったら貸しておくれ」
「見て見て、このノート可愛い〜!」
「そのノート、ペンギンなのかパンダなのか何でこんなにはっきりしないんだろう」
と、至って平和に本屋を周遊する2人。時たまベンチに座って話したりしながら、時間はあっという間に過ぎていく。
「じゃあ、もうそろそろ帰ろうか」
「もうそんな時間なのっ!?ほ、ほんとだ……」
と、名残惜しさを滲ませながら2人が帰ろうとすると。
ブブッ、と2人のスマホが同時に振動する。見ると、母からのメッセージだった。
『テストを終え、久々に遊んでいる2人にサプライズご褒美をあげま〜す』
というメッセージと共に送られてきたのは、一枚の写真。何だ何だ……と見てみると何と、お高めの焼肉店の予約票だった。
『お母さんもお父さんと別のところで食べてるから、2人で行っておいで!』
と続けて送られてきたメッセージに、兄妹は顔を見合わせて、同時に顔を綻ばせた。
まだ終わらない、2人の夜である。
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作者より
さてさて、まだまだ続いていく2人のデートです。次回もお楽しみに。
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