初めての配信と不穏
「重ね重ね、びっくりだ…」
「びっくりだね…」
1週間前に投稿した「Alice in 冷凍庫」は、240万回再生を達成していた。その煽りを受けてか、「アカシア」も80万回を突破している。
「えっとじゃあ、配信の準備しようか」
「おっけー」
そう、今日は初めてのライブ配信に挑戦するのだ。告知とかも、一切なし。現在時刻は午後8時半。9時から開始して、1時間程度の予定だ。
「サムネイルがこれ、配信中はこれ……と」
やばい、緊張してきたかも。今日、声を配信に乗せるのは僕だけなので、最後は自分でなんとかしないといけない。でも、コメント欄でより生の感想を貰えると思うと、少しワクワクしてくる。
喉を整えたりしながら準備していると、すぐに時刻は9時前に。
「……よし。じゃあ、始めるよ」
夜月が頷いたのに合わせて、僕は配信開始のボタンをクリックした。
「……こんばんは、聞こえますかー?『√』の歌ってる方、tamaです。……あ、音量少し小さい?ちょっと待って、音量上げるのは…ここか」
『音量それでだいじょーぶそー』と、夜月からメッセージ。一つ頷きを返して、
「えー、改めましてこんばんは、tamaです。配信タイトルにあるように、配信はほんとに初めてなので、色々教えてくれると嬉しいです」
ちなみに配信タイトルは、『配信なんてしたことない人の歌枠:初』だ。
「えーっと、今日はセットリストを決めての歌枠です。出すね、セトリ」
事前に用意したセトリを画面に表示させる。今日歌う曲はこんな感じだ。
・ただ君に晴れ(ヨルシカ)
・感電(米津玄師)
・水星(Orangestar)
・サイハテアイニ(RADWIMPS)
・ニルギリ(抱きしめたトゥナイト)
・トンデモワンダーズ(sasakure.UK)
・新世界(BUMP OF CHICKEN)
・夜明けと蛍(n-buna)
Alice in 冷凍庫のレコーディングが終わってから練習してたけど、トンデモワンダーズとか噛まないか割と不安が拭えてない。まあ、その時の自分に期待だ。
「『良い声』あ、ありがとう。そんなこと言われると君のことスキになっちゃうぞ///……って、ふざけてる時間あんまりないんだった。あ、今日の予定は1時間くらいかなー」
『1時間で歌い切れる?大丈夫?』
「うん、頑張ります。曲の合間合間にお話しましょう。…じゃあ、一曲目、いきますね」
『意外と芸人スタイル…?』『声と内容の乖離がすごい』といったツッコミコメントも、イントロと共にペンライトの絵文字に流れていく。
「ただ君に晴れ」、「感電」、「水星」と連続で歌った後、環は一旦休憩しながら視聴者と話し始めた。
「ん?…ああ、yoruさん、『√』のイラスト担当は今日は出ません。あ、そういえば言ってないけど、yoruさんは僕の妹です」
『え??』『ネタじゃなく?』『まさかの兄妹』
『歌い手とイラストレーターで組むの珍しいなと思ってたら、そういうわけか』
「あー、概要欄に書こうか迷ったんだけど、別に無くて良くない?つって書かなかったんだよ。え、今3000人も見てくれてるのか、緊張するなあ…。でもありがとう」
『Alice in 冷凍庫から来ました、初見です』
「うーん、今いる人多分みんな初見かもしれない」
『草』『それはそう』『初配信ですもんね』
『俺はアカシアから』『おすすめで流れてきたんだけど、見てよかった』『リクエストってありですか?』
「おー、みんなありがとー!…あ、ごめん、今日はリクエストなしだ。今度ね」
『おけ』『またやってくれるのか』『了解です』
「よし、じゃあ、そろそろ次行こうかな」
と、少しずつ慣れた様子でMCもこなしていく。
「ニルギリ」を歌い終わり、「トンデモワンダーズ」の2番に入る頃には視聴者数も5000人を突破していた。「新世界」では、女性リスナーの動悸を誘いまくった後、環は「そうだ、思いついた」と話し始めた。
「みんな、yoruさんの絵、見たくない?確認とっていいよって言われたら見せたいな」
『見たい見たい!』『妹にもさんづけなの何かいいな』『他の案とかってことですか?』
「そうそう、使わなかったイラストとかね。……あ、見せていいよーって来た!今出しますね」
そうして「アカシア」、「Alice in 冷凍庫」での未使用イラストを次々に画面に表示させていって、しばらくしたその時だった。
一つのコメントが、流れの早いコメント欄の中で環と、それ以上に夜月の目を捉えた。
少し離れたところに静かに座っている夜月を見ると、顔面蒼白になっている。多分、自分も似たような顔をしているのだろう。
そのコメントは、こういうものだった。
『このyoruって奴、昔つぶやいたーでトレス疑惑出て逃げた奴じゃね?』
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