反響
「アカシア」の投稿からちょうど3週間後、僕たちは新しく完成した歌ってみた動画、曲は「Alice in
冷凍庫」を投稿した。作業の進め方にも慣れてきて、思っていたより早く完成させることができたのだった。
そして、この「Alice in 冷凍庫」は、「アカシア」以上の沢山の、本当に沢山の反響を呼んだのだけど、この時の僕たちにはまだ、それを知る由もないのだった。
「っ…!」
私こと、綿貫綾は、ここ数年で最大の驚きを覚えていた。綿貫綾として、というより、一人のアーティストとして、かもしれない。
私は「Aya」というボカロPとして活動している。ありがたいことに思ってもみなかったくらい人気をもらっているのだけど、ここ最近、ボーカロイドだけじゃなく、生身の人にも曲を歌ってもらおうかな、と考えていた、その矢先だった。
ヘッドホンから流れる、どこまでも伸びていきそうな、ただ美しいとも違う、人を惹きつけてやまない声。
この声が欲しい、そう強く思う。
2本の歌ってみたで、チャンネル登録者数7.8万人。
「…伸びすぎでしょ」
と、言ってみるものの、それも納得のクオリティ。
声だけじゃない、イラストも相当良い。
これだけの歌声、もう他から声が掛かっていてもおかしくない。ここのところ、コンポーザーとシンガーの、ユニットでの活動を行うボカロPがヒットを連発していることもあって、この界隈は生き馬の目を抜く様相を呈しているのだ。
とにかく、まずは連絡を取ってみないと…と、各種SNSで検索してみたのだけど。
「アカウント、ないの…?」
彼らのチャンネル、「√」のSNSアカウントはまだ一つとして作られていないみたいなのだ。それを希望する声はちらほら見受けられている。
未だ、ベールに包まれた二人組のチャンネル。結局分かったのは、概要欄に記された、『ボーカルtama イラストyoru』ということのみだった。
「んーむむむ」
少し考えて、『Alice in 冷凍庫』のコメント欄を開く。
『…声もイラストも良すぎる…!?』
と打ち込む。まあ、言ってしまえばツバを付けておこう、的な感じだ。
後は、この声と何かを作れるかどうかは、神様だけが知っている。私は、「Aya」は、祈るような心持ちでコメントを投稿した。
綿貫綾、ボカロP。
「………これだ、そうだよ、これだよこれ!」
そのイラスト、そして声を聞いた瞬間、これだ、と思った。
こいつらと何かを作りたい。こいつらと、世界を震わせるような何かを一緒に作ってみたい。
そう、強く思う。
東方奏多、小説家。
そして、とあるアニメーション会社の一角でも。
圧倒的な作画の美しさで世界に名を轟かせる、「東都アニメーション」のオフィスで、一人の女性社員が上司の元で息を切らしていた。
「どうした朝霞、次期エースさんはなんかやらかしたりしないだろ?」
「…やらかしてません。…これ、これ見てください。歌も引くほど凄いですけど、イラスト。このイラスト、全然荒削りですけど、力ありますよね」
「……ほぉ」
「全然情報がないのでなんとも言えないですけど、あのプロジェクトにこの人たち引っ張ってこれないですか。何となくですけど、学生っぽい気がしません?」
「…面白そうだな。何か情報が分かったら教えてくれ」
「はい、分かりました」
朝霞泉水、アニメーター。
彼ら、彼女らと、環と夜月、「√」は一つの線上で交わることになるのだけれど、それはまだ、少し先の話。
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作者より
今回の話、どうでしたでしょうか。思いっきり伏線を張ってみたわけですが、一応全部回収される予定ですので、お楽しみにして頂ければ幸いです。
一つお断りしておくと、「√」として歌ってみたを作る、という物語の主軸を無くすことはないです。
タイトル詐欺的に、環を歌い手からキャラ変させることはないので、そこはご安心頂ければ。
(ちなみに、マジの見切り発車で書き始めた作品なので、おかしいところが出てきたらご指摘よろしくお願いします。再三のお願い、すいません)
〜今日のダジャレ〜
梅うめぇ〜
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